2020年だけで、旅行・観光業界はGDPで4.5兆ドル、雇用で6,200万人分の損失を被りました。回復への道のりはなお長く続いています。
世界経済フォーラムの最新の旅行・観光開発指数は、同セクターがどのように回復し、成長していくかについて、専門家の知見を示しています。
同セクターの企業リーダー4人に、回復の現状、パンデミックから得た教訓、そして旅行・観光事業や目的地が今後成功するうえで欠かせない条件について考察してもらいました。
世界的に旅行への抑えられていた欲求が再び高まるなか、世界の旅行・観光セクターはパンデミック後の回復を加速させています。2021年1月と2022年1月の同時期を比べた国際観光客到着数の増加幅は、2021年通年の増加分に匹敵しました。しかし、2020年だけでGDPが4.5兆ドル、雇用が6,200万人分失われており、回復への道のりはなお長く続いています。
セクターの業績を大きく左右する要因がいくつかあります。渡航制限、ワクチン接種率と健康安全、変化する市場動向と消費者の嗜好、そして企業や目的地の適応力などです。同時に、セクターは将来のショックにも備える必要があります。
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世界経済フォーラムの最新の旅行・観光開発指数は、こうした側面の多くを取り上げています。旅行・観光セクターをより包摂的で持続可能かつ強靭なものへと再構築する機会と必要性もその一つです。これにより、将来の経済的・社会的進歩を促す潜在力が引き出されます。
こうした背景を踏まえ、同セクターの企業リーダー4人に、回復の現状、パンデミックから得た教訓、そして旅行・観光事業や目的地が今後成功するうえで欠かせない条件について考察してもらいました。
「パンデミックによって、私たちの暮らし方や働き方が変わり、旅行の仕方も変わりました」
トニー・カプアーノ、マリオット・インターナショナルCEO
COVID-19パンデミックがもたらした課題にもかかわらず、旅行・観光の未来は明るく見えます。世界各地で、人々はすでに再び旅に出ています。旅行需要は非常に底堅く、ワクチン接種率の上昇と規制の緩和を受けて、旅行は多くの場合レジャー需要に牽引され、急速に回復しました。
パンデミックによって、多くの人の暮らし方や働き方が変わり、旅行の仕方も変わりました。新たな旅行の形も生まれています。「ブレジャー」旅行の広がりはその一例で、出張とレジャー旅行の要素を一つの旅に組み合わせます。多くの知識労働者がリモートで働ける機会など、新たに柔軟になった勤務形態によって、長期旅行の可能性が広がりました。オフィスで月曜から金曜まで「9時から5時」まで働く週に縛られない旅行が可能になっています。
新たな旅行体験への、再び高まりつつある需要を取り込むため、業界は政府や政策立案者と連携し、旅行者が再び旅に出る際、とりわけ国境を越える旅行者を迎えるための適切な条件を整えなければなりません。これまでの回復の多くは国内旅行とレジャー旅行が牽引してきました。しかし、出張や国際旅行が段階的に回復することは、業界全体にとって、また旅行・観光で生計を立てる何百万人もの人々にとって重要です。
公衆衛生の状況、国際危機、気候変動の影響など、セクターが今後直面する課題に正面から取り組むには、世界的な連携が不可欠です。世界の旅行に関する共通の、または少なくとも互換性のある基準と意思決定の枠組みについて、国際合意を得ることが鍵となります。課題が生じた際、既存の組織やプロセスを活用して合意形成を図れば、国境を開いたままリスクを減らし、協力を強化できます。
「旅行・観光セクターは、バーチャル市場と持続可能性を重視する旅行者に適応しなければ、生き残ることはできません」
片野坂真哉、代表取締役会長、ANAホールディングス株式会社
パンデミックによって人々の移動が依然として制限されている今、人々は旅をしたい、仕事やレジャーでさまざまな場所へ行きたいという思いを新たに強く抱いています。
その点で、最も大きな変化は「旅行」という概念そのものに起きています。
その顕著な例が、「バーチャル旅行」市場の急速な拡大です。この傾向はデジタル技術の進歩だけでなく、長期化するパンデミックによっても加速しました。旅行・観光セクターは、この新しい市場に適応しなければ生き残れません。
しかし、これは「リアル」から「バーチャル」への単純な移行ではありません。バーチャル体験を通じて、リアルな体験の価値が再発見されるでしょう。さらに、目的がより明確で多様なリアルな体験への渇望にもつながります。バーチャルと現実の融合が、業界にバランスと相乗効果をもたらすことが期待されます。
パンデミックを機に「持続可能性を重視する」旅行者も登場し、航空業界などは、脱炭素化を自らの価値提案に加えるという課題に直面しています。この傾向によって、旅行そのもののあり方や、持続可能な取り組みをどのように取り入れ、伝えるべきかが改めて問われるでしょう。この課題への対処には、業界全体でより強力な連携も必要です。パンデミックからの回復に伴う業界の再活性化において、これは重要な役割を果たすと考えています。
世界経済フォーラムは、より安全でクリーン、かつ包摂的な交通システムをどのように推進しているのでしょうか?
世界経済フォーラムのモビリティの未来を形作るプラットフォームは、航空宇宙・ドローン、自動車・新たなモビリティ、航空・旅行・観光、サプライチェーン・輸送の4業界にまたがって活動しています。モビリティの未来を安全でクリーン、かつ包摂的なものにすることを目指しています。
「クリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー連合」を通じて、100社を超える企業が協力し、2030年までに世界の航空業界で持続可能な航空燃料の割合を10%にすることを目指しています。
フォーラムはユニセフと協力し、海運、航空、物流の大手企業とともに、COVAXが世界の脆弱な地域社会に10億回分を超えるCOVID-19ワクチンを届けることを支援する憲章を策定しました。
ロード・フレイト・ゼロ・プロジェクトとP4G「ゼロへの移行」連合は、ゼロエミッション貨物輸送への移行を加速する根拠、コスト、機会を示す成果を生み出しました。
「空から届ける医薬品」イニシアチブは、ドローンを使ったワクチン配送と医薬品の遠隔地への配送をインドで進め、300件を超える実証試験を成功させました。
フォーラムのターゲット・トゥルー・ゼロイニシアチブは、電動飛行技術と水素飛行技術を活用し、ゼロエミッション航空の導入と規模拡大を加速させています。
フォーラムはロサンゼルス市、連邦航空局、NASAと協力し、世界各地の都市でアーバン・エア・モビリティの導入を促すため、アーバン・スカイの原則を策定しました。
フォーラムは宇宙持続可能性評価の策定を主導し、軌道上の宇宙ミッション管理とデブリ低減において、より安全で持続可能なアプローチを促進しています。
循環型自動車イニシアチブは、自動車分野のサーキュラーエコノミーに関する政策議題に情報を提供しています。これは、欧州委員会およびゼロエミッション車移行評議会参加国の支持を受けたもので、現在は中国の政策ロードマップを支援するよう要請されています。
ムービング・インディアネットワークは政策立案者と連携し、電気自動車の製造政策を推進し、ゼロエミッションの道路貨物車両の普及を促し、移行に必要な資金を確保しています。
都市モビリティ・スコアカード・イニシアチブは、フォーラムのグローバル新モビリティ連合が主導し、モビリティ事業者と都市を結び付け、持続可能な都市モビリティシステムへの移行状況を比較評価しています。
お問い合わせください。参加方法など、詳しくご案内します。
「観光業界は、小規模事業者の保護強化を訴えるべきです」
ギルダ・ペレス=アルバラド、JLLホテルズ&ホスピタリティ グローバルCEO
今後数年で、旅行者の意識が高まり、各国、目的地、地域が持続可能性に関して何をしているかへの関心も増すにつれて、持続可能な取り組みがより広がると思います。水や空気など環境の基本的な要素も、持続可能性に対する全般的な取り組みも重要になります。
また、目的地や国が取り組みを説明するうえで、自然環境の保全がより重要になると思います。気候変動や天然資源の重要性は極めて大きく、旅行者にとって最優先事項になっていくでしょう。
もう一つは、今後、屋外イベントへの関心が高まる可能性があることです。いわば自然なソーシャルディスタンス、あるいは自然な安全性を確保できるからです。屋外での食事やハイキング、フェスティバルなどの活動は、混雑したイベントや場所に代わる、より魅力的な選択肢になるかもしれません。
ここ数年で多くの教訓を得ましたが、特に大きなものの一つは小規模事業者の重要性です。業界として、小規模事業者をもっとしっかり守らなければなりません。困難な時期を乗り越えられるよう、小規模事業者を効果的に支援するプログラムを整える必要があります。
残念ながら、パンデミック中に多くの小規模事業者が廃業し、再開できないところもあるでしょう。小規模事業者は目的地に独自性をもたらすため、旅行・観光セクターにとって重要です。人々は自宅の近くでも行ける場所を訪れるために旅をするのではありません。特定の事業者だけが提供する独自の体験を求めています。目的地から小規模事業者がすべてなくなれば、体験は大きく変わってしまうでしょう。
「データによると、旅行者の大多数は、より深く体験しながら目的地を巡りたいと考えています」
スティーブ・カウファー、トリップアドバイザー共同創業者兼CEO
旅行のルネサンスが始まろうとしています。パンデミックによって世界の旅行体験は中断されたかもしれませんが、人々は徐々に閉塞感から抜け出しつつあります。企業は、旅行中も安全でいたいという願いが続いていることを認識する必要があります。トリップアドバイザーの調査では、旅行者の4分の3(76%)が、COVID-19感染率の低さを基準に目的地を選び続けることが明らかになりました。
そのため、施設を徹底的に清掃したり、手指消毒剤などをすぐ使えるようにしたりして、企業が旅行者を大切にしていることを示す取り組みを、今後の観光業務に定着させる必要があります。
旅行はほかの面でも進化します。業界としてデジタル思考を取り入れ、物理的な空間の活用方法を再考する準備が必要です。
ホテルは、新しいハイブリッドな働き方のもとで、チームの絆を深める活気ある交流の場になります。大企業の本社近くにある宿泊施設は、長期滞在する社員からの予約増加が見込まれます。また、出張とレジャーを組み合わせる「ブレジャー」旅行者にも対応するようになるでしょう。独自の場所にあるホテルが、現実的なワークスペースになります。企業は、現地での社内会合の後に従業員が休息やくつろぎのため数日延泊することを想定しておくべきです。
パンデミック後も、旅行者は世界を違った形で探訪し、新しい場所を訪れ、新しいことをしたいと考えるでしょう。私たちのデータによると、大多数はより深く体験しながら目的地を巡り、歴史や文化とのつながりをより強く感じたいと望んでいます。ニューヨーク市の観光客にとって、エンパイア・ステート・ビルの展望台を訪れるのは定番でしたが、今後は何世代にもわたってピザを作り続けてきた家族からブルックリンで料理を習うような、親密な体験により惹かれるでしょう。これは間違いなく、 旅行・観光業界における大きな成長分野となるでしょう。
各国政府も賢明に計画を立て、次の公衆衛生危機に備えるための国際的な行動指針を検討すべきです。そこには、共通のワクチンパスポートや、国境をより迅速に通過できる政策を盛り込む必要があります。
安全を感じたいという継続的なニーズと、これまでと違う旅をしたいという高まる願いという重要な傾向を理解し、次の危機に備えることは、世界の人々が旅を続けられるようにする取り組みを成功させるうえで、各国政府、目的地、観光事業者に不可欠です。
