先日、家族の集まりで食卓を囲んでいたとき、パリに住む姉が、最近ヒースロー空港の電子ゲートで経験した行列への不満をこぼしていました。
すると弟も自分の経験を話し始めました。だいたいこんな内容です。「僕も通れなかったよ。機械に顔が気に入られなかったんだ!」
眼鏡が顔認証スキャナーに影響した可能性があるので、眼鏡を外したかと尋ねました。弟は、外すように言われなかったと答えました。知っていれば外していたそうです。
この会話は重要な点を浮き彫りにしています。生体認証や電子パスポートは従来のものより優れているものの、完璧な解決策ではありません。効率向上や投資収益率の増加がうたわれる最新技術を急いで導入するあまり、顧客体験を見失ってはなりません。顧客体験は現在より良いものである必要があります。乗客が電子ゲートを通過するのに20秒、30秒かかるのは、後ろに400人が処理を待っている状況では長すぎます。必要なのは2、3秒です。
世界では2030年に18億人の国際到着客が見込まれるなか、すべての国、政府機関、空港、航空会社が同じ成熟度にあるわけではないため、本人確認の管理はさらに複雑になります。旅行エコシステムに関わるすべての主体が、各乗客が申告どおりの人物であることを確実に把握することが極めて重要です。そのためには、新たなプロセスを設計し、検証し、導入する必要があります。それに伴い、透明性、産業界と政府の協力、そしてすべての関係者間のコミュニケーションを大幅に強化することが求められます。生体認証、ブロックチェーン、そしてゼロ知識証明といった新たなテクノロジーが重要な役割を果たします。
空港や旅行の体験を向上させるために開発が進む解決策の一つが、旅客トークンです。このトークンは、乗客の顔の生体データを使って、空港内で何らかの手続きが行われる各地点で本人を識別します。これにより、旅程の各段階で旅行書類を何度も提示する必要がなくなります。
これを実現するには、旅程のごく初めに、乗客の顔の生体情報を航空券、ビザ、搭乗券、パスポートにひも付ける必要があります。たとえば、乗客が自宅でチェックインし、その手続きの一環としてパスポート情報を申告します。ゼロ知識証明など、プライバシーを保護する技術を用いて、これらの情報を政府のパスポート発行機関が安全に検証できます。発行機関は電子パスポートと関連する旅行情報をトークンにまとめ、閲覧が必要な関係者がアクセスできるよう、顧客の明示的な同意も含めます。その後、旅行期間中、この情報が関係する政府機関、空港、航空会社に提供されます。
新たなテクノロジーの活用は、高度な生体認証にとどまりません。複数のシステム、組織、さらには国をまたいで情報を安全かつ円滑に配布できるブロックチェーン技術は、旅行者情報を効率的かつ安全に共有する手段として期待されています。旅客が旅程の開始時に一度だけ情報を申告し、当局がそれを検証したうえで、すべての関係者が許可を得て安全に閲覧・アクセスできるようにすれば、空港内の旅客の移動は大きく改善する可能性があります。また、その情報を顧客自身に提供し、安全に保存できる携帯電話などの端末に保管してもらうこともできます。
これにより、世界のどこにいても、政府機関が顔写真や動画を撮影したり、携帯電話をスキャンしたりするだけで、本人が申告どおりの人物であり、渡航を許可されていることを確認できるようになるかもしれません。さらに、プライバシー・バイ・デザインの原則に沿って実施できます。つまり、データは一か所に安全に保管され、アクセスが必要な関係者は、権限に基づく仕組みを通じて利用できます。これにより、本人がパスポートという紙の書類を提示することに頼らずに、申告された身元を確認する、はるかに優れた方法が実現する可能性があります。
しかし、あらゆる技術の進歩と同様に、無視してはならないリスクがあります。顔認識は完全ではありません。誤検知も検知漏れも、現実に起こり得る重大なリスクです。効率向上や収益性の増大を急ぐあまり、これらのリスクを軽視したり無視したりしてはなりません。旅行者の安全を常に最優先にしなければなりません。個人のプライバシー権と個人データの利用方法についても、適切な配慮と検討が必要です。
まだ初期段階ではありますが、兆しは明るいものです。航空旅客の本人確認と手続きに関するこの新たな構想が、政府、航空業界、そして旅行者自身の支持を得られれば、安全で安心かつ快適な空の旅の未来が期待できます。
このテーマについて詳しくは、中国・天津で開催される「ニュー・チャンピオンズ年次総会」のセッション「Biometrics World」をご覧ください。セッションは9月19日16時45分(中国標準時)から、下のプレーヤーおよび当ウェブサイトでライブ配信され、その後まもなく再視聴できるようになります。

