先月、欧州連合(EU)の統治機関である欧州委員会(EC)は、僅差でインターネット時代に著作権を再定義することを目的とした、物議を醸す法案を否決した。その差はわずか40票だった。この新たな著作権指令案は6月に欧州議会法務委員会で暫定承認されており、この採決を受けて、議員らが9月に2回目の本会議採決を行う前に、ECは指令案を審議し、おそらく修正することになった。
欧州議会および理事会による著作権指令案は、市民社会、テクノロジー業界、クリエイティブ産業など、さまざまな利害関係者の間で世界的な議論と論争を巻き起こしてきた。これらの関係者が特に懸念する条項は3つあり、そのうち2つはデジタルコンテンツ配信事業者に大きく影響する。すなわち、報道コンテンツの利用に対するリンク税を提案する第11条と、著作権で保護されたコンテンツを特定する技術的ツールの導入を定める第13条だ。
第11条と第13条への主な反対理由には、いくつかの重要用語が曖昧であること、その解釈に柔軟性を持たせるリスク、オンラインの自由の制限、著作権で保護されたコンテンツのフェアユースへの制約、大手既存事業者や既存のデジタルプラットフォームによる独占を優遇する非競争的な環境を生み出すことが挙げられる。一例として、インターネット・ソサエティの立場が第13条について示されている。議論の反対側では、クリエイティブ分野の知的財産権者、アーティスト、ジャーナリストおよび関連団体は、条文の起草に使われた表現よりも、インターネットが適正な報酬を得る能力に及ぼした影響について多くを語ってきた。先月の採決後でさえ、曖昧な文言を書き直すための提言はほとんど示されなかった。
しかし、双方とも、(i)デジタル化と消費者行動の変化により、クリエイティブ作品に関する著作権政策の刷新が必要であること、(ii)アーティストやコンテンツ所有者は、作品の特定の利用に対して適正な報酬を受け取るべきであることには同意している。問題は、ECの指令案がこれら2つの原則をどのように支えるよう設計されたかにある。用語の曖昧さ、各国による解釈に過度の柔軟性を認めること、オンラインの自由を脅かし、独占的な力を強める可能性は、いずれもクリエイティブ経済に利益より害をもたらしかねない要素だ。しかし、適切な統治と政策策定のアプローチによって、これらの問題は解決できる。

EC(そして最終的にはあらゆる政策決定機関)が、クリエイティブ経済に向けた真に現代的な著作権指令を構想する際に取り入れるべき点を3つ紹介する。
1.「明後日」を見据える思考
私たちがよく知るインターネットは、老朽化しつつあるプラットフォームだ。モノのインターネット(IoT)はすでに実現しており、シェアリングエコノミーを次の段階へと押し上げるだろう。シェアリングエコノミーは、19世紀の資本主義と社会主義以来、初めて確立された新たな経済システムであり、情報エコシステムとクリエイティブ経済を根本から変えたということを、私たちは共通認識として持つ必要がある。さらに、拡張現実や仮想現実などのハイパーリアリティ技術、人工知能といったテクノロジーは、これらに急速な変化をもたらす。ECの新たな著作権指令案に見られる時代遅れの思考の表れは、「アップロード(された)」という言葉を頻繁に用いていることだ。この言葉は一般に、所有されるコンテンツと結び付けられている。欧州全域で、調査によると「コンテンツをダウンロードするよりストリーミングで視聴することを好む傾向が強まっている」にもかかわらず、一時的なコンテンツ利用(所有ではない)を指す「ストリーム(配信する)」や「ストリーミング」への言及は一度もない。
さらに、指令とそれに基づく政策は、私たちに生まれつつある消費のパターンや行動を含む「もしも」の未来を想定し、それに対応できるだけの革新性と強靱さを備えていなければならない。現状のままでは、ECの著作権指令案が適用・執行され始める頃には、コンテンツ消費と業界は別のパラダイムへ移行し、著作権保護に新たな課題をもたらしているだろう。これが第4次産業革命の現実であり、情報とエンターテインメントのエコシステムもその破壊的変化を免れない。「明後日」を見据える思考は、長期的な影響を考慮するもので、組織が時代を先取りできる可能性を高める。ピーター・ヒンセンの未来志向のアプローチは企業や組織向けに考案されたものだが、統治や政策形成にとっても同様に重要である。実際、この種の思考は業界との連携による政策設計にも応用でき(後述)、ECの著作権指令案の現状を大きく変える可能性がある。
2. システム思考と機動的なガバナンス
システム思考では、エコシステムの利害関係者、トレンド、課題、その他の要素の間にある力学に着目し、最終的に、さまざまな変数がシステムの状態に及ぼす真の影響をより深く理解する。EU著作権指令案の第13条は、システム思考を用いずに設計された例だ。インターネット・ソサエティのフレデリック・ドンクが指摘するように、「市民社会や学術界は、電子フロンティア財団、欧州デジタル権利、クリエイティブ・コモンズ、そしてマックス・プランク・イノベーション・競争研究所を含め、第13条が表現の自由、法の支配、市場競争、インターネットのアーキテクチャ全体に及ぼす潜在的な悪影響への懸念を表明している」。

著作権保護などの課題について、未来を予測し、トレンドを理解し、システム思考で取り組むことは容易ではなく、確実に結果を操作できる科学でもない。そのため、どの意思決定機関も判断を誤る可能性がある。対応し、方針を転換し、適応する機動性を備えることが、成功に不可欠な要素になりつつある。これは企業や産業界だけでなく、公共部門にも当てはまる。政府や政策立案者が受動的な政策実施だけに注力すれば、社会とクリエイティブ経済に不利益をもたらす。たとえば既存の政策を調整するには、効率的な事後対応も重要だが、法律や指令を策定するあらゆる機関の中核に適応力を組み込むことのほうが重要である。新たなEC著作権指令は、システムの変化やテクノロジー、消費パターン、コンテンツ形式の進展にどれほど適応できるだろうか。新指令の設計段階には、どの利害関係者が関与したのだろうか。世界経済フォーラムは、アジャイル・ガバナンスという考え方を支持している。これは新興技術を考慮し、政策の陳腐化を抑え、政策設計を迅速かつ応答性の高いものにするだけでなく、協調的なマルチステークホルダー・アプローチをプロセスに組み込むものだ。
3. マルチステークホルダー・アプローチ
クリエイティブな「産業」だけでなく「経済」に言及している点に注目してほしい。産業界は、著作権指令や関連政策の影響を受ける多くの利害関係者グループの一つにすぎない。EU全域の指令を適用する加盟国政府はもちろんのこと、著作権で保護されたコンテンツを消費する市民も、新指令の影響を大きく受ける。つまり、市民社会を代表として、市民も指令の設計段階から議論に加わるべきだ。ECは、真のマルチステークホルダー・アプローチに基づき、著作権指令案をめぐる議論と再検討を始めるべきである。
機会を生かす
今から9月12日までの間、欧州委員会には、新たな著作権指令案の調整過程で、こうした思考・作業モデルを採用し、試験的に導入するまたとない機会がある。世界経済フォーラムの「情報とエンターテインメントの未来を形づくる」システム・イニシアチブは、著作権やコンテンツ制作者の経済的な存続を含む、クリエイティブ経済が直面する課題に取り組むため、ECなどの中核機関と協力する中立的なマルチステークホルダー・プラットフォームとして設立された。ECはこの機会を生かし、自らの著作権指令を、世界各国の政府や規制当局が手本とするガバナンスの成功事例へと変えるべきだ。
