一人のインフルエンザ感染から見えてくる、世界でのウイルス変異

Influenza virus cells, high-lighted through a florescent microscope, are identified during tests at the World Health Organization (WHO) National Influenza Center in Bangkok on October 21, 2005. Thailand awaited test results on another suspected bird flu case on Friday after a resurgence of the killer virus in Asia, although Indonesian fears the H5N1 strain was mutating eased as a father and son proved negative. REUTERS/Adrees Latif - RTR19PG7
What could a single person’s flu infection tell us about how the virus changes across the world?Image: REUTERS/Adrees Latif
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進化は通常、非常にゆっくりと進む。変化を目にするまでに、数千年、あるいは数百万年かかることもある。

しかし、インフルエンザの進化は速く、命を脅かす。インフルエンザウイルスは急速に変化し、体の防御機能を逃れる。数年ごとに新たなインフルエンザ変異株が現れ、世界中で流行を引き起こす。

インフルエンザの拡大を抑えるには、絶えず続くこの進化に対処する必要がある。毎年、世界保健機関(WHO)の専門家は、ウイルスがどのように変化するかを最善の方法で予測し、どのインフルエンザ株を選ぶかを決めて、毎年のワクチンに含めなければならない。

この作業は難しく、不確実性を伴い、間違いは現実の結果をもたらす。世界では、インフルエンザにより毎年数百万人が感染し、数十万人が死亡している。予測が外れ、ワクチンが流行中の株と大きく異なる年には、感染の危険にさらされる人が増える。

ここ数年、ゲノム配列解析の進歩により、個々の感染の深部で始まるウイルス進化の初期段階が明らかになり始めた。インフルエンザの場合、この情報から、将来の世界的な進化傾向を早い段階で垣間見ることができるのではないかと、私たちは考えた。

一人のインフルエンザ感染から、ウイルスが世界中でどのように変化するかについて、何が分かるだろうか。実際には、驚くほど多くのことが分かる。

Image: ザ・カンバセーション

感染の奥深くを探る

インフルエンザの進化は、どの段階もエラーから始まる。ウイルスは感染者の体内で自身を複製する際、ときに変異し、遺伝情報に小さな変化を生じさせる。

変異の大半はウイルスにとって有害だ。機能に必要な仕組みを壊してしまうからだ。しかし、ときおり変異ウイルスが生き残り、さらには繁殖することもある。ウイルスは人間の免疫系と絶えずいたちごっこを繰り広げている。変異ウイルスが体に認識されないほどわずかに異なる場合もある。

このような優位性を持つ変異ウイルスは急速に増殖し、感染の主流になることがある。やがて人から人へと広がり、そこから世界中に拡散し始める可能性もある。

近年、人の体内でウイルスがどのように変化するかを追跡しやすくなった。人間のゲノム配列解析を安価で手軽にした同じ技術の進歩が、ウイルス研究の方法も変えている。ヒトゲノムを1つ解析する費用で、感染の経過全体から数千のウイルスを解析し、新たな変異が生じる様子を追跡できる。

こうした変異から、ウイルスが人の体内の厳しい環境にどう反応するかが分かる。感染が何年、あるいは何十年も続くことが多いHIVでは、一人の体内でも進化が大きく進むことがある。とりわけ、ウイルスはしばしば薬剤耐性を獲得する。これは抗ウイルス治療への反応として起こる。

長期感染した4人の患者におけるインフルエンザの進化を追跡

私たちは最近、数カ月にわたってインフルエンザに感染した4人のがん患者を対象に、ウイルスの進化を追跡した。インフルエンザ感染の大半は約1週間で終わるため、起こりうる変化の量は限られている。しかし、免疫系が弱っている患者では感染が長期間続き、重い影響をもたらすことがある。

こうした長期感染の間に、インフルエンザはどのように変化したのだろうか。感染中の異なる時点でウイルスを解析し、ゲノムを比較することで、新たな変異を特定し、その後の推移を追うことができた。

各小図は、ウイルス内で変異が起こりうる部位を1つずつ示している。変異ウイルスはオレンジ色で示され、その割合は時間とともに増減する。

進化は数週間のうちに進んだ。明確な例の一つが、タミフルへの耐性だった。研究対象の患者は感染を抑えるためにこの薬を服用していた。しかし、先行研究と同様に、やがて薬剤耐性変異を持つウイルスが現れた。こうした変異は、感染がこれほど長く続いた理由の一端を説明するかもしれない。

薬剤耐性変異だけが、私たちが目にした進化上の変化ではなかった。互いにわずかに異なる変異ウイルスが6種類ほど、一人の体内で同時に競合することもあった。

こうしたウイルスの競合によって、進化は複雑な様相を呈した。ある週に広がり始めた変異が、翌週には消滅することもあった。おそらく、さらに有利な変異に競争で負けたのだろう。

研究対象の異なる患者のウイルスから、まったく同じ変異が見つかったケースもあった。患者同士が感染させ合っていないことは確認できていた。このような類似が偶然に起こるとは、まず考えにくい。ウイルスは進化上の課題に応じて、似た適応を獲得したのかもしれない。こうした変異の一部は、ウイルスが免疫系を回避するのに役立った可能性があり、他の研究の結果とも一致する。

未来を予測する

さらに、患者の体内で生じた変異の多くは、後に世界中に広がった変異と一致していた。ウイルスが宿主細胞に侵入するのを助ける、インフルエンザの外殻にあるスパイクでは、研究対象の患者4人のうち3人に変異N225Dが現れた。患者たちの感染から約8年後にあたる2015年までに、世界中のインフルエンザウイルスの大半が、まったく同じ変化を持つようになった。

私たちにとって、これは予想外だった。進化にはトレードオフがつきもので、人の体内でのインフルエンザの適応を助ける変異の中には、人から人への感染を遅らせるものもある。また、これほど異例に長く続くインフルエンザ感染の進化が、世界規模で見られる変化のパターンと一致するかどうかも分からなかった。

しかし、私たちの研究では、個々の人の体内でのインフルエンザの進化は、世界規模の進化と際立って似ていた。わずか数人の患者から、世界的な進化傾向の兆しを見て取ることができた。

技術の進歩に伴い、私たちが行ったように、インフルエンザ感染の奥深くを調べることが容易になっている。WHOの研究所では、インフルエンザの進化を監視するため、毎年、数千人から採取したインフルエンザ株を解析している。研究者はますます多くの株を解析し、個々の人の体内で変異が生じ始めた段階で捉えられるようになっている。

こうした数千件の感染は、それぞれが独立した進化実験のようなものだ。異なる感染で現れる変異を比較すれば、進化の可能性と制約が見えてくるかもしれない。

将来的には、こうした情報がインフルエンザの進化予測に役立つ可能性がある。少なくとも今のところ、この情報によって、私たち一人ひとりの体内で起きている進化の動的なプロセスの一端が明らかになりつつある。

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