価値に基づく医療は、患者が望む成果を医療に関する意思決定と制度の中心に据えます。
支払いとその管理方法はあらゆる医療制度の中核をなすものであり、医療のこの側面にも価値に基づく考え方を適用する必要があります。
世界経済フォーラムは、価値に基づく医療のエコシステムに携わる専門家を招き、価値に基づく医療費支払いを実現するためのベストプラクティスや各自の取り組みで効果を上げている方法を共有しました。
価値に基づく支払いの実験が10年間続いているにもかかわらず、世界の医療制度はまだ変革されていません。価値に基づく医療の大規模展開と制度レベルの変革に向けて、私たちは走るのではなく、歩みを進めています。
価値に基づく医療とは、費用対効果の高い方法で、個人と社会全体にとって真に重要な健康上の成果の実現に注力することです。個人を医療とケアの中心に据えることが焦点となります。
パンデミックを通じて、価値に基づく医療はもはや賭けではなく、持続可能で柔軟な医療制度に不可欠であることが示され、関心がさらに高まりました。
医療の変革は、各組織が個別に取り組むだけでは実現できません。すべてのステークホルダーが関与し、患者にとっての価値を医療の中心に据え直す変革に取り組む必要があります。
医療セクターは、価値、エビデンス、目的という3つの大きな危機に直面しています。世界各地の先駆者たちは、価値に基づく医療がこの3つすべてに対処できることを示してきました。
ステファン・ラーション、医学博士・博士、世界経済フォーラム特別フェロー、ICHOM理事兼創設者、BCGシニアアドバイザー
価値に基づく医療費支払いが意味するのは、コスト管理だけではない
医療分野の多くのステークホルダーは、価値の向上をコスト削減の取り組みと捉えています。コストは価値を構成する重要な要素であり、医療における大きな課題ですが、価値を総合的に捉えることで、提供モデルを患者のニーズに沿うよう見直し、コストを管理しながら質を高めることを目指します。
支払いは、価値に基づく医療を推進する5つの重要な実現要因の一つであり、世界経済フォーラムが重点を置く主要分野です。
支払いの仕組みは資金の流れを定め、インセンティブや医療提供者の行動を形づくります。価値に基づく支払いモデルは、医療提供制度の根幹を変革し、次の4つの重要課題に取り組むことができます。
1. 成果を重視する
現在の支払いの仕組みでは、患者の成果をどの程度改善したかにかかわらず支払いが行われます。患者にとって重要な成果を軸とし、それと並行して、デジタルプラットフォームを通じて成果データを追跡・参照できる医療費支払いモデルが必要です。医療において価値を重視すれば、医療制度とステークホルダーを医療従事者が歴史を通じて担ってきた根本的な目的、すなわち「利用可能な資源の範囲内で、患者のために最善を尽くすこと」を中心に組織できます。
2. 分断されたケア提供
ケアの過程では、医療提供者が個別のサービスごとに報酬を受け取るため、患者のケア経路全体でケア提供が分断されています。その結果、責任も分散します。理想的には、あらゆる医療活動の中心に患者を据え、医療提供者の多職種チームが患者へのケア提供において自律性を持ちながら、重要な成果に対して共同で責任を負えるようにすべきです。支払いモデルを変えることで、統合的かつ包括的なケア提供制度が可能になります。
3. 増大するコスト
医療支出は、賃金やGDPよりも速いペースで増加しています。支払いモデルには、無駄の削減、予防や早期介入へのインセンティブ付与、イノベーションの促進、適切な医療アクセスの改善を通じて、コストを抑制する力があります。医療費支払いモデルの更新は、医療制度の財政的持続可能性を高める重要な手段です。
4. 健康格差
健康の社会的決定要因は、健康格差の拡大につながっています。真の健康の公平性を実現するには、成果の公平性も必要です。価値に基づく支払いモデルの一環として成果を追跡・改善することは、健康格差に対処する強力な手段です。価値に基づく支払いモデルを拡大すれば、資金に恵まれた組織だけでなく幅広く活用され、すべての人の成果が重視されるようになります。
世界経済フォーラムは、価値に基づく医療の加速に向けて何をしているのか?
価値に基づく支払いモデルの構築に関する知見
世界経済フォーラムの医療における価値を高めるためのグローバル連合は、経験を交換し、医療変革のペースを加速させるため、グローバル実現要因・支払いコミュニティのネットワークを設立しました。医療セクター全体から数十人の専門家が参加し、価値に基づく支払いモデルの事例を交換するとともに、地域、地方、国レベルの知見をグローバルな場に集めています。
こうした導入者たちは、価値に基づく支払いモデルの導入に取り組む中で得た学びと、国レベルで実施できることを共有しました。
共有された5つの重要な知見を紹介します。
1. 適切なモデル
価値に基づく支払いモデルを導入する適切な機会を選ぶことが重要です。どの支払いモデルが適切かは、患者の種類や責任を負う主体、病状が急性・慢性・選択的治療のいずれに当たるか、また責任主体が専門医療かプライマリケアかによって異なります。製薬企業や医療技術企業の場合、適切な価値に基づく支払いモデルは、製品の影響やバリューチェーンにおける役割の不確実性の程度によって決まります。
2. 外部とのパートナーシップ
従来、新たな支払いモデルの導入には大規模な交渉が必要で、パートナー間の不信感を招いてきました。 価値に基づく支払いモデルを成功させるには、患者の成果を改善する支払いを実現するという共通のビジョンと、それを実現するための資源、技能、能力を備えた、新しいパートナーシップのあり方が必要です。政府や政策立案者は、支払いモデルの複雑さを軽減し、モデルの活用を求め、その開発を可能にする実現要因を支援するうえで重要な役割を果たします。ステークホルダーは、信頼と共通の使命を重視し、柔軟性を加えた長期契約を用いて、協働のあり方を再構築する必要があります。
3. 堅牢なデータ
介入の価値や投資収益率(ROI)を評価するには、長期的な視点が必要な場合があります。そのため、患者がケアの連続した過程を進む中で、支払者やステークホルダーをまたいでデータを交換できる能力が必要です。透明性は特に重要であり、ケアの全過程にわたる成果を医療提供者が把握できるようにすべきです。ケアの連鎖に沿って相互運用可能なシステムを備えた統合プラットフォームは、価値に基づく支払いモデルの規模拡大と拡充に不可欠です。
4. 重要な成果
支払いに関する責任を判断する適切な成果の組み合わせについて合意することは、慎重な議論を要する重要な要素です。ケアモデルが患者の成果改善を目標の中心に据えるべきであるのと同様に、支払いモデルもそうあるべきです。支払いモデルは、患者の成果に沿ったケア提供モデルに報いるインセンティブを生み出します。高価値で公平な医療制度を実現するには、成果を中心に据えることと、それを起点とするケア提供の変革を同時に進める必要があります。
5. 標準化
価値に基づく支払いモデルの設計と成果に関する合意形成には時間がかかりますが、標準化によって負担を軽減し、個別の取り組みにとどまるモデルを大規模に実施できるようになります。さらに、競争前段階で価値に基づく支払いモデルを設計するための基本原則を標準化すれば、支払者ごとに設計が異なることで医療提供者に生じる事務負担を減らせます。世界の医療制度によって支払いモデルの導入方法は異なる場合がありますが、標準化により時間と資源を節約できます。
世界経済フォーラムは、世界の医療分野のステークホルダーが新たな連合やパートナーシップを形成し、対話を重ね、価値に基づく支払いモデルの成功を示すエビデンスを引き続き広めていくことに期待を寄せています。最終的な目標は、医療の量から患者にとっての価値へと、医療変革をさらに推し進めることです。
