ワクチンは、命に関わる感染症の流行を防ぐのに役立ちます。エボラ出血熱やジカ熱などの発生を受け、ワクチンの開発、生産、配布に世界が一丸となってさらに取り組む必要性が、はっきりと浮き彫りになりました。
では、ワクチンとは何でしょうか?ここでは、その仕組みや成分、接種方法を解説します。
1. ワクチンとは何か?
ワクチンは、病気に初めて計画的に曝露する機会を与えます。これにより、将来その病気に遭遇したときに備えて免疫系が訓練されます。
免疫系は、体内にあるべきものとそうでないものを見分け、後者を破壊することで病気と闘います。望ましくない異物は、表面にある抗原と呼ばれる目印によって識別されます。
ワクチンは、病気を引き起こすウイルスや細菌などの病原体の抗原に免疫系を曝露させることで作用します。免疫細胞がこれらの抗原に遭遇すると、異物を直接攻撃する抗体を作り始めるとともに、記憶T細胞や記憶B細胞と呼ばれる、長く生存する種類の白血球も作ります。
免疫系が同じ抗原に再び遭遇すると、記憶細胞によって、特定の抗体が大量に素早く作られるため、病気になる可能性が大幅に低くなります。
なぜすべての病気に対するワクチンがないのでしょうか?標準的なワクチン設計では十分に強い免疫反応を引き起こせない病気もあります。また、有望なワクチンがいくつかあっても、厳格な安全性・有効性試験のため、実用化まで何年もかかることがあります。さらなる資金が必要な場合もあります。

2. ワクチンには何が含まれている?
ワクチンには、免疫反応を引き起こし、抗体の産生を促すための病原体の抗原が含まれています。ただし、ワクチンにはさまざまな種類があり、抗原を届ける方法も異なります。
生ワクチン(弱毒化ワクチン): 結核を予防するBCG(カルメット・ゲラン桿菌)など、一部のワクチンには病原体全体の生きたものが含まれています。ただし、そのような場合は感染の可能性を減らすため、接種前に病原体の強さ(病原性)を弱めます(弱毒化します)。麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンにも、生きた弱毒化ウイルスが使われています。
不活化ワクチン:一部のワクチンには、熱やホルムアルデヒドなどを使って死滅させた、病原体の不活化されたものが含まれています。免疫系は病原体を認識して反応できますが、病原体は増殖できないため、感染の危険はありません。コレラ、A型肝炎、狂犬病のワクチンには、いずれも不活化病原体が含まれています。
トキソイドワクチン:一部の病気の症状は、毒素として知られる細菌の有害な産物によって引き起こされます。破傷風などの病気に対するワクチンは、免疫反応を促すため、毒素を不活化したもの(トキソイド)を使用します。
サブユニットワクチン:ほかのワクチンには、免疫反応を最も効果的に促す病原体の抗原だけが含まれており、これらはサブユニットワクチンと呼ばれます。病原体全体ではなく、不可欠な抗原だけを含むため、これらのワクチンは副反応を起こす可能性が大幅に低く、感染の危険もありません。ただし、サブユニットワクチンは生ワクチン(弱毒化ワクチン)より免疫反応を引き起こす力が弱い傾向があります。
結合型ワクチン: 最後に、免疫系が識別しにくく、特別な種類のワクチンを必要とする病原体もあります。多糖類と呼ばれる糖分子で覆われた細菌は、表面の抗原物質を覆い隠すことができるため、特に子どもの免疫系はそれを認識して反応を起こすことが難しくなります。これに対処するため、結合型ワクチンが作られます。細菌を覆う糖をサブユニットとして分離し、より大きく識別しやすい担体タンパク質と化学的に結合させます。こうして作られた構造は認識されやすく、免疫反応を促して抗体を作り出します。その抗体は、将来、糖で覆われた細菌も認識し、攻撃できるようになります。
その他の成分: こうした有効成分に加えて、ワクチンには次のものも含まれています。
内容物を懸濁させるための液体。滅菌水、生理食塩水、タンパク質を含む液体など
有効成分の性質を保つための安定剤。極端な温度や光、湿度、酸性度の変化など、好ましくない条件にさらされたときの変質を防ぐアルブミン、ゼラチン、糖類など
ワクチン内で危険な細菌や真菌が増殖するのを防ぐ防腐剤。フェノール類や抗生物質など
一部のワクチンにはアジュバントも含まれています。アルミニウム化合物などの物質で、ワクチンの抗原に対する免疫反応を強めます。サブユニットワクチンでよく使われます。
ワクチンには、製造時に使われた物質が微量に含まれることもあります。たとえば、受精卵で培養されるワクチンの中には、卵タンパク質が微量に含まれるものがあります。また、不活化ワクチンにはホルムアルデヒドがごく微量に含まれる場合があります。
3. なぜワクチンは冷蔵保存するのか?
ワクチンに含まれる抗原は生物由来の物質であるため、高温にさらされると分解します。その結果、ワクチンの効力が弱まったり、完全に失われたりすることがあります。生体分子は時間の経過とともに自然に劣化しますが、温度を下げると劣化の速度が遅くなります。ただし、アルミニウム系アジュバントを含むワクチンは凍結できません。氷点下ではアジュバントの構造が損なわれ、効果が失われるためです。
このため、世界保健機関(WHO)は、一部の例外を除き、ほとんどのワクチンを2°Cから8°Cで保管するよう推奨しています。たとえば、経口ポリオワクチンは非常に不安定なことで知られており、WHOは配布して接種するまで、–25°Cから
–15°Cで保管するよう推奨しています。
ワクチンを接種直前まで冷やしておくこと(「コールドチェーンの維持」と呼ばれます)は、低所得国にとって大きな課題です。暑い気候で、電力供給が限られ、しかも断続的な地域が多く、常時冷蔵することが難しいためです。幸い、いくつかの解決策があります。
一つの方法は、受動型保冷容器を使うことです。氷を入れた大型の真空断熱容器で、ワクチンを最長1か月間冷たく保てます。そのほか、バッテリー式や太陽光発電式の冷蔵庫もあります。
ただし、現在研究が進められている究極の解決策は、効力を失うことなく、さまざまな温度で保管・輸送できる新しい温度安定性ワクチンを作ることです。
4. ワクチンはどのように接種するのか?
ワクチンは全身に免疫を生み出しますが、体の特定の部位で特異的な免疫反応を引き起こすこともできます。そのため、ワクチンをどのように投与するかが重要です。
病原体が侵入して体に害を及ぼしやすい場所、たとえば粘膜で抗体の産生を促せると、ワクチンの効果は最も高くなります。その作用を適切に狙った場所に届けるため、ワクチンの投与経路は病原体の侵入経路を模倣することがよくあります。
たとえば、経口ポリオワクチンは、腸の内壁で抗体の産生を促すために飲みます。ポリオウイルスは、汚染された食べ物や水から体内に入った後、腸に到達して増殖するからです。

ワクチンの経鼻投与(鼻から投与)も同様の効果をもたらしますが、作用するのは鼻腔の粘膜です。この投与方法は、インフルエンザのように、体に感染するために鼻の粘膜バリアを突破する必要がある病気への対策に使われます。
ただし、ワクチンが体に副作用を及ぼす可能性を最小限に抑えるために、特定の投与経路が必要となる場合もあります。アルミニウム系アジュバントを含むワクチンは、筋肉組織に注射しないと、しばしば炎症(肉芽腫)を引き起こします。一方、結核用BCGワクチンは、血管や神経を傷つけないよう、皮内注射と呼ばれる方法で皮膚の最も表面に近い層に注射します。
黄熱病やMMRのワクチンなど、体内にゆっくり放出されることで最もよく作用するワクチンもあります。そのため、皮膚と筋肉の間にある脂肪層に注射します。この部位は血流が限られているため、ワクチンが全身に速く広がるのを防ぎます。この方法は皮下注射と呼ばれます。
5. ワクチンの効果はどのくらいか?
ワクチンは、特定の病気に対する免疫を個人にもたらすうえで非常に効果的ですが、すべての場合に免疫が得られるわけではありません。免疫系は人によって異なります。ワクチンの抗原に反応して抗体を作らず、免疫を獲得できない人もいます。
通常、生ワクチンは免疫反応を最も効果的に引き起こしますが、生きた病原体が感染性のある形に変異する危険性もごくわずかにあります。たとえば、経口ポリオワクチンに含まれる生ウイルスが、ワクチン250万回分につき約1回の割合で麻痺を引き起こす可能性があると推定されています。
有効率はワクチンによっても異なります。不活化ポリオワクチンを3回接種した場合の有効率は99%ですが、腸チフスワクチンの有効率は約70%にとどまります。
さらに、一部のワクチンの効果は時間とともに薄れるという問題もあります。MMRワクチンを2回接種すると、通常、麻疹に対する予防効果は20年間続きますが、腸チフスワクチンの効果は一般に3年で薄れます。科学者たちは現在、その理由の解明に取り組んでいます。追加接種を行うのはそのためです。免疫系に特定の病原体を見分ける方法を「思い出させ」、免疫力を補強するのです。
集団レベルでは、ワクチンは非常に高い効果を発揮します。1980年に根絶が宣言された天然痘のように、ワクチンによって完全になくなった病気もあります。
また、ワクチンによって病気の蔓延を防げる場合もあります。これは集団免疫によって実現します。どのワクチンも有効率は100%ではなく、集団の全員が接種を受けるわけでもありません。しかし、集団の大半がワクチン接種を受けて病気に対する免疫を得れば、その病気が広がる力は大幅に弱まります。
これにより、免疫を持たない人も感染から守られます。たとえば麻疹の場合、集団免疫を維持するには、集団の95%が免疫を持つ必要があります。
集団免疫を維持できないと、危険な事態につながることがあります。2013年にウェールズで麻疹が流行したのは、ワクチン接種率が低下し、感染者が免疫を持たない人と接触する可能性が高まったためです。
6. ワクチンにはどのようなリスクがあるのか?
欧米諸国では、ワクチンは非常に安全です。各国の規制当局が試験と製造を監督し、人への使用に安全であることを確保しています。
それでも、誰もがワクチンを接種できるとは限りません。卵タンパク質や豚由来ゼラチンなどの微量成分にアレルギーがある人は、これらの物質を使って培養されたワクチンを避ける必要があります。ワクチンに使われる抗生物質にアレルギーがある人もいます。そのため、ペニシリンなど、アレルギー反応を起こすことが多いと知られている抗生物質は、一般にワクチンには使われません。
妊婦は、生きた病原体が胎児に影響を及ぼすのを防ぐため、生ワクチンの接種を避けることが推奨されています。同様に、特定の病気から回復中の成人には、回復するまで特定のワクチンの接種を延期するよう勧められています。
ワクチンの負の副作用については多くの噂があります。それらは誤りであるだけでなく、深刻な害をもたらす可能性があります。1990年代の英国では、MMRワクチンと自閉症を結びつける虚偽の主張により、一部地域でワクチン接種率が大幅に低下しました。
その結果、集団免疫が低下し、近年、麻疹やおたふく風邪の流行が起きています。どちらの病気も、まれではあるものの命に関わる可能性がある脳の炎症、脳炎を引き起こすことがあります。
ワクチン接種に伴う最大のリスクは、低所得国にあります。問題となるのはワクチン自体ではなく、その規制と接種です。
国によっては、信頼性に欠ける規制当局が偽造ワクチンの製造を防げないことがあります。接種直前までワクチンを冷やしておけなければ、劣化して効果を失ったワクチンが接種されるおそれがあります。また、接種担当者への教育が不十分だと、針が再使用され、HIV/AIDSなどの血液媒介性疾患が広がる危険があります。
7. なぜ年齢によって接種するワクチンが異なるのか?
ワクチンは、病気に感染する危険があるときに接種します。子どもの体は自然に発生する病気と闘うには十分に強くないことがあり、感染の危険が高いため、多くのワクチンは幼い時期に接種されます。
たとえば、2015年には世界で13万4,000人が麻疹で亡くなりました。麻疹は幼い子どもの主な死因の一つであり、そのため子どもには早い時期に麻疹ワクチンが接種されます。
成人では効果が低いため、子どものうちに接種するワクチンもあります。一方、特定の病気が危険となるのは人生の後半になってからで、子どもの頃にワクチンを接種する必要がない場合もあります。子宮頸がんを引き起こすことのあるヒトパピローマウイルス(HPV)は、性的接触を通じて感染するため、HPVワクチンは一般に、女子が思春期に達してから接種されます。
同様に、65歳未満の成人のほとんどは、インフルエンザで重症化する危険がありません。しかし、加齢とともにインフルエンザに対する体の抵抗力は低下します。そのため、高齢者はWHOが季節性インフルエンザワクチンの接種を推奨する5つの集団の一つです。
リスクの違いや変化があるため、ワクチン接種計画は地域や時期によって異なります。たとえば英国では、結核に感染する現実的な危険がある地域、たとえばロンドンの都心部に住む子どもだけにBCGワクチンが提供され、リスクの低い地域の子どもは接種を受けません。天然痘のように根絶された病気については、ワクチン接種計画はすでにありません。
8. 誰がワクチン接種を決めるのか?
オーストラリアやカナダに加え、欧州の複数の国ではワクチン接種が義務付けられておらず、子どもに接種させないと決める親もいます。副作用の可能性を心配している場合や、ワクチン接種が宗教上の信念に反する場合があります。
接種率が集団免疫の臨界しきい値を下回らない限り、その子どもたちは守られます。しかし、流行が発生すれば、ワクチン未接種の子どもは感染しやすく、病気の拡大を助けてしまいます。また、幼すぎる、あるいは接種が危険となる病気があるなどの理由で、ワクチンを接種できない子どももいます。集団免疫が損なわれれば、こうした子どもたちも危険にさらされます。
別の地域では、集団免疫を確保するため、ワクチン接種が義務付けられています。たとえばニューヨーク州では、子どもは就学前に必要なワクチン接種を受けなければなりません。医学的な理由や、親の宗教上の異議を理由とする免除は限られています。
この記事は、WellcomeがBig Pictureの記事を使って制作し、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でここに掲載しています。


