研究者らは、ジカウイルスが感染を防ぐ体のバリアを通り抜け、胎児に感染する仕組みを解明しました。この過程を阻止することで、既存のマラリア治療薬が胎児を感染から守れることを示しています。
この薬は、ほかの医療目的で妊婦に使用することもすでに承認されています。
ジカウイルス感染の深刻な影響は子宮内で生じます。ウイルスは脳に損傷を与え、ときには死に至らせることもあります。
「マラリア治療薬ヒドロキシクロロキンが、胎児へのウイルス伝播を効果的に阻止することが分かりました」と、筆頭著者であるインディラ・マイソレカ氏は述べます。同氏はセントルイスのワシントン大学医学部で産婦人科学および病理学・免疫学の准教授を務めています。
「この薬はすでに妊婦のマラリア治療に使われています。発育中の胎児におけるジカウイルス感染と発症のリスクを減らすため、霊長類と女性を対象に評価する価値があると考えます」と同氏は述べています。
「微生物の武術」
2015年後半、ブラジルの医師たちは、小頭症、つまり神経損傷の兆候である異常に小さな頭を持って生まれる赤ちゃんが急増していることに気づき始めました。この流行はほどなく、南北アメリカの熱帯地域に広がっていた、蚊が媒介するジカウイルスとの関連が明らかになりました。医師たちは妊婦に虫よけスプレーを使い、長袖の服を着て蚊に刺されないよう助言しましたが、それ以外に伝えられることはほとんどありませんでした。
当時も現在も、妊婦や胎児をジカウイルス感染から守るために妊婦への使用が承認された薬やワクチンはありません。
「慎重な対応を促しますが、それでも本研究は実現可能な治療介入への新たな道筋を示すと考えています……」
発育中の胎児は感染による損傷を特に受けやすいため、体は微生物が胎児に到達するのを未然に防ぐ強力な防御機構を働かせます。胎盤は最後の防衛線です。
マイソレカ氏らは、オートファジーと呼ばれる過程が、強固な胎盤の感染防御バリアを構成する重要な要素であることを示してきました。オートファジーとは、細胞が細胞内の残骸や不要な細胞小器官、侵入した微生物を分解する、細胞の廃棄物処理経路です。しかし、マイソレカ氏らの先行研究では、ジカウイルスは胎盤に侵入できるだけでなく、そこで増殖することも示されています。
ジカウイルスが胎盤を突破する仕組みをさらに調べるため、マイソレカ氏と博士研究員のビン・カオ氏らは、ヒト胎盤細胞にジカウイルスを感染させました。ウイルスにさらされると、オートファジーに関連する遺伝子が活性化することが分かりました。
しかし、研究者らがオートファジー経路を強める薬で細胞を処理すると、ジカウイルスに感染した細胞の数は増加しました。オートファジーを抑える薬では、ジカウイルスに感染した胎盤細胞の数が減りました。
つまり、研究者らがバリア反応を強めるとウイルスはより効果的に増殖・拡散し、反応を弱めると増殖が鈍りました。ウイルスは、体の防御手段を自らの利益に転じる「微生物の武術」のようなものを繰り広げているようでした。
マイソレカ氏らは、オートファジーに重要なタンパク質の量が少なく、オートファジー反応が弱まったマウスを使って、この結果を検証しました。妊娠マウスを2群に分けてジカウイルスに感染させ、一方ではオートファジーの過程を妨げ、もう一方では正常に働かせました。
感染から5日後、オートファジー反応が弱い母マウスの血流中のウイルス量は、正常な反応を示すマウスとほぼ同じでした。しかし、反応が弱いマウスでは、胎盤と胎児の頭部に見つかったウイルスが10分の1に減り、胎盤の損傷も少なくなっていました。
反撃
「ジカウイルスは胎盤のオートファジー過程を利用して、自らの生存と胎盤細胞への感染を促しているようです」とカオ氏は述べます。
ヒドロキシクロロキンはオートファジー反応を抑えるため、研究者らは、この薬が胎児をジカウイルスから守ることもできるのではないかと考えました。
これを確かめるため、研究者らはオートファジー反応が正常なマウスだけを使って、マウス実験を繰り返しました。妊娠9日目の雌マウスをジカウイルスに感染させ、その後5日間、ヒドロキシクロロキンまたはプラセボを毎日投与しました。
治療後、ヒドロキシクロロキンを投与されたマウスでは、胎児と胎盤のウイルス量が大幅に減っていました。さらに、胎盤の損傷が少なく、胎児は正常な成長を取り戻しました。未治療の母マウスと治療を受けた母マウスの血流中のジカウイルス量はほぼ同じでした。このことから、ウイルスが母体内を循環していても、ヒドロキシクロロキンは胎児を守れることが示されました。
ヒドロキシクロロキンは妊婦に短期間安全に使用されてきましたが、研究者らは、ジカウイルスを防ぐため妊婦に使用する前に、さらなる研究が必要だと注意を促しています。ジカウイルスが流行する地域に住む妊婦は、妊娠期間中ずっとこの薬を服用する必要があるかもしれませんが、長期使用時の安全性は分かっていません。
「慎重な対応を促しますが、それでも本研究は実現可能な治療介入への新たな道筋を示すと考えています」と、大学の生殖健康科学センターの共同所長でもあるマイソレカ氏は述べます。「本研究は、ジカウイルスに感染した妊婦に対し、オートファジーを標的とするジカウイルス治療介入が有効となる可能性を示唆しています。」
本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)のユーニス・ケネディ・シュライバー国立小児保健・人間発達研究所からの助成金、国立アレルギー・感染症研究所からの助成金、バロウズ・ウェルカム基金の早産予防イニシアチブ助成金、およびマーチ・オブ・ダイムズ賞の支援を受けました。

