新型コロナウイルス感染症のパンデミックは生活のあらゆる領域を一変させました。スポーツも例外ではありません。
コロナウイルスの感染拡大を抑えるために導入されたソーシャルディスタンス対策は、スポーツの試合日程に大きな影響を及ぼしています。
競技者本人からメディア報道に至るまで、スポーツのあらゆる側面が影響を受けています。
コロナウイルスのパンデミックは世界に衝撃を広げ、何千人もの命を奪う公衆衛生上の緊急事態を引き起こすとともに、世界経済を、国際通貨基金が警告する大恐慌以来最も急激な景気後退となる可能性がある状況へと追い込みました。
当然ながら、新型コロナウイルス感染症はスポーツの日程も一変させ、世界各地のプロリーグがウイルスの感染拡大を抑えるために活動を中断しています。通常、世界で最も視聴されるスポーツ中継の一つである夏季オリンピックも、1年延期されました。
スポーツ産業の世界全体の価値は2018年に4,710億ドルと推定され、2011年から45%増加しました。コロナウイルスによって試合が中断される前は、成長が続くと見られていました。現在は、選手、チーム、リーグから、試合を中継・報道するメディアまで、スポーツのバリューチェーンのあらゆる部分が影響を受けています。
スポーツのビジネスモデル
まず基本を見てみましょう。最も簡単に言えば、スポーツリーグの主な収入源は3つあります。放送(メディア権の販売)、商業(スポンサーシップや広告提携)、そして試合日の収入(チケット販売や接待サービス)です。
プロスポーツリーグはエンターテインメント企業に似ており、リーグに所属する各チームはそれぞれ異なるチャンネルのようなものです。チームにはそれぞれ独自の個性、従業員、ファン層がありますが、全体の「番組編成」(競技規則や試合日程)はリーグが定めます。この比較を純粋主義者は好まないかもしれませんが、スポーツでもエンターテインメントでも、視聴者が多いほどコンテンツの価値が高まるのが実情です。
過去5年間の主要リーグの収益データが示すように、主要スポーツはいずれも放送収入に依存しています。スポーツメディア権の世界全体の価値は約500億ドルですが、その60%をわずか10のスポーツリーグが占めています。

収益化の方法はスポーツごとに異なりますが、基本原則として、統括団体は総収入を参加クラブに分配します。通常、最低保証額に、成績や大会に応じたボーナスを上乗せする形です。もちろん各クラブは、他の大会に出場したり、独自のスポンサー契約を結んだり、消費者直接提供(D2C)型のメディア購読サービスを展開したりして、自ら収入を得ることもできます。しかし根本的には、個々のクラブの財政的な成功は、より大きなリーグへの参加にかかっています。
こうしたリーグが集団でメディア権を販売する力は、驚くほど大きいものです。NBAの現在のテレビ放映権契約は240億ドル相当です。契約期間は9年間です。イングランド・プレミアリーグは昨年、放送局と新たな契約を結び、120億ドル相当となりました。契約期間は3年間です。メジャーリーグベースボールは7年間のメディア契約を結んでおり、その価値は50億ドルを超えます。
こうした契約の持続可能性に疑問を呈する声もあります。メディア消費がオンラインへ移行するなか、「コードカッティング」の加速が背景にあります。しかし、これらの契約は、多くの従来型テレビのパッケージを結びつける「要」として、スポーツ放映権が重要であることを浮き彫りにしています。

一時的な中断を超えて長期化すれば、リーグは放送局との契約上の義務を果たせなくなり、クラブへの収入分配能力も制限されます。産業への影響は深刻です。試合がなければテレビ契約も試合日の収入もなくなり、収入がなければクラブも存続できません。
こうした状況を踏まえ、業界は混乱に対応するため、どのような戦略を採っているのでしょうか。
業界は、メディア消費の急増を生かすため、消費者と関わる新たな方法を模索しています。ライブ試合がない状況では、ファンが利用できるコンテンツを拡充することを意味します。たとえば、ESPNやFox Sportsなどのスポーツ放送局は、往年の名試合、アーカイブ映像、ドキュメンタリー、eスポーツ、ニッチな競技を放送し、視聴者をつなぎ留めようとしています。個々のリーグも同様の取り組みをしています。NFLは、2009年以降の全試合をストリーミングで視聴できるようにし、消費者直接提供型チャンネルのGame Passで配信しています。この戦略により、同サービスの日次登録者数は500倍に増加しました。
NBAの副コミッショナー兼最高執行責任者であるマーク・テイタム氏は、世界経済フォーラムにリーグの戦略を次のように語りました。「NBA 2Kの大会(ゲームを使ったeスポーツ形式)を立ち上げ、選手たちが自宅から配信しています。制作を前倒しし、マイケル・ジョーダンのドキュメンタリーの公開を早めました。現役選手や元選手とともに、ソーシャルメディア上でライブの隔離生活パーティーを開催し、毎晩往年の名試合を放送しています。いずれも、この時期にファンとのつながりを保つための取り組みです。」
NBAのマーク・テイタム氏へのインタビュー全文はこちらからお聴きいただけます。
もう一つの方法は、スポーツコンテンツを求める消費者に向けて、支払い方法の柔軟性を高めることです。NBAとTurner Sportsは、共同のストリーミング購読サービスであるLeague Passの有料視聴の壁を撤廃しました。メジャーリーグベースボールも同様の対応を行い、試合のアーカイブをMLB.TVとYouTubeで無料提供しています。プレミアリーグは、おそらく自らのストリーミングチャンネルが2022年に開始予定であることを惜しんでいるでしょう。
スポーツ団体とテレビネットワークのパートナーは、双方にとって妥当な「不可抗力」条項の解決策を見いだすため、協議を進めています。リーグが放送局に補償金を支払い、追加の権利を付与し、契約を延長することなどが含まれます。バリューチェーンのさらに下流でも同様の問題が生じています。プレミアリーグでは、クラブ単位の商業契約も調整が必要になりそうです。すでに収入不足の影響を受けているスポーツ団体もあります。大学男子バスケットボールチームは収入が50%超減少したと発表し、プレミアリーグのクラブは6,000万~1億5,000万ドルの収入減に備えています。
テイタム氏によると、「放送パートナーは非常に理解を示してくれており、さまざまな形式のコンテンツについて協力しています。NBAだけではなく、すべてのライブスポーツに関わる話です。世界中の何百万人ものファンがコンテンツを求めています。この時期にファンとつながる方法を見つけるため、放送、デジタル、マーケティングのパートナーと緊密に連携しています。」
テレビ収入の確保が急務であることから、多くのリーグは観客を入れずに試合を行うための緊急対応計画を策定しています。西側のリーグは、危機の影響を最初に受けた地域であるアジアに目を向け、どのように対応したかを確認するでしょう。日本の野球チームは数週間、無観客のスタジアムで試合を行いました。中国のプロバスケットボールリーグはシーズン開幕を延期し、韓国のリーグはシーズン全体を中止しました。新型コロナウイルスの影響が比較的小さい地域で試合を行うことや、練習施設を移転することも選択肢です。さらに、MLBやNRLが検討しているとうわさされるように、チーム全体と運営スタッフを一つの地域に隔離する方法もあります。こうした移転には前例があります。米国では過去に、ハリケーン被害を受けたMLBチームが一時的に運営拠点を移したことがあります。
長期的な変革
長期的に見れば、スポーツリーグの基本的な運営モデルは変わらないでしょう。リーグは引き続き、あらかじめ期間を定めたシーズンを設け、各チームが互いに対戦する競技形式で運営されます。しかし、コロナウイルスのパンデミックは、このモデルがテレビ放送とライブ観客にいかに依存しているかを浮き彫りにしています。
スポーツ業界では、次の3つの変革の潮流が予想されます。
コロナウイルスによるメディア消費の増加は、夜のゴールデンタイムを中心に主要番組を編成する従来の地上波テレビとは合致しません。このことは、スポーツコンテンツを配信するD2Cサービスの普及を加速させる可能性があります。固定の番組表がなく、視聴者を楽しませる豊富なコンテンツライブラリーを備えているため、こうしたサービスの魅力は高まっています。消費者はこれらのサービスをより多く試すようになり、パンデミックの収束後も利用を続ける人が多いでしょう。その結果、ケーブルテレビの既存の衰退傾向が加速します。
その結果、放送局の広告収入とスポーツ放映権を購入する力が低下します。スポーツ業界では、リーグが自らのサービスを通じてコンテンツを販売する機会を増やし、他のデジタル事業者とも、より多くの小規模な契約を結ぶ可能性があります。Amazonは、その可能性を実証しました。英国では、Prime Videoの加入者数が2019年第4四半期に35%増加し、これはプレミアリーグの試合を初めてライブ配信した時期と重なりました。
コロナウイルス危機は、スポーツリーグが放送局に、放送局が広告収入に依存している実態を明らかにしました。これにより、より多様な収入源を探る必要性が浮き彫りになっています。その例として、ゲーム要素を取り入れた視聴体験(デジタルアイテムへのライブ決済、新たなカメラアングル、ファンによる実況、統計分析など)やギャンブルのような、ライブで収益化するモデルが考えられます。
「現実の」スポーツがなくなったことで、仮想技術が成長する機会が生まれています。すでに、世界各地のスポーツリーグがeスポーツを活用し、活動中断の間も関心と競争の感覚を保とうとしています。eスポーツは近年大きく成長しており、ファンとの新たな交流や収益獲得の手段となっています。さらに、没入型技術によって、ファンは試合会場に実際にいなくてもライブで試合を体験できるようになる可能性があります。かつては直感に反する考え方だったかもしれませんが、今では理にかなっているように思えます。
困難な今、人々を結びつけるスポーツの力が、これまで以上に惜しまれています。業界は未知の局面に直面していますが、適切な戦略があれば、危機を乗り越えてこれまで以上に強く、人気のある存在になれます。テイタム氏はこう述べています。「NBAは世界規模の競技です。NBA選手の4分の1は米国外で生まれ、私たちは世界各地の国や都市にオフィスを構えています。このパンデミックによって、私たちが従うべき手順は変わるかもしれません。しかし、世界中でバスケットボールを広めるという私たちの目標は変わりません。」

