記録を塗り替えたDNAシーケンシングが希少疾患患者に希望をもたらす。その方法とは

A technician viewing a blot on a fluorescence microscope while another technician is using a pipette.
This discovery in DNA sequencing could revolutionize the diagnosis of rare diseases.Image: UNSPLASH/National Cancer Institute
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  • 希少疾患を抱える患者、なかでも子どもにとって、診断を受けるまでの道のりは長く険しい。

  • スタンフォード大学医学部の研究者らは、超高速DNAシーケンシング技術を大容量のクラウドストレージおよびコンピューティングと組み合わせ、遺伝性疾患の未報告の原因を発見できるようにした。

  • こうした疾患の診断は世界的な課題だと、専門家のケビン・ドックスゼン氏は記す。

  • 遺伝データや資源を共有する必要があり、低・中所得国がアクセスできるようにすることが、希少疾患をめぐる幅広いコミュニティに前向きな変化をもたらすために必要だ。

希少疾患を抱える子どもは、通常診断を受けるまでに何年もかかる。この「診断までの長い道のり」では、原因不明で生活を困難にする症状の根本原因を突き止めるため、複数の専門医への紹介や数多くの検査が繰り返される。

DNAシーケンシングの新たな速度記録は、難しい、人生を左右する問いへの答えを家族がより早く見つける助けとなるかもしれない。

わずか7時間18分で、スタンフォード大学医学部の研究チームは採血から疾患の診断提示までを完了した。この前例のない所要時間は、超高速DNAシーケンシング技術と大規模なクラウドストレージおよびコンピューティングを組み合わせた成果だ。この改良された診断法により、研究者らはこれまで報告されていなかった遺伝性疾患の原因を発見し、ヒトゲノムを構成する60億文字に新たな光を当てている。

7,000を超える希少疾患は、世界で3億人に影響を及ぼしている。その50%は子どもだ。これらの疾患のうち、80%には遺伝的要因がある。一部の希少遺伝性疾患は、急速に発症し、生活に深刻な影響を及ぼすことがある。症状を見つけ、根本原因を特定することは、多くの家族にとって時間との闘いだ。

私は、バイオテクノロジーと政策を専門とする研究者で、革新的な医療技術へのアクセス向上に取り組んでいる。シンプルで手頃な検査であれ、高度で高額な遺伝子治療であれ、医療の進歩は世界中の人々に届く必要がある。希少疾患の診断において、超高速DNAシーケンシングは対象を広げ、診断までの時間を短縮する鍵だと私は考える。

新たなギネス世界記録

ヒトゲノム計画は、ヒトゲノム全体を初めて解読した取り組みで、1990年から2003年まで13年を要し、27億ドルが費やされた。2014年、全ゲノムシーケンシングの分野は、1,000ドルの価格水準を達成し、さらに大きな節目を迎えた。工学と計算技術の革新により、シーケンシングの費用は毎年下がり続けている。

世界記録を目指す中で、スタンフォード大学の研究者らは、オックスフォード・ナノポア・テクノロジーズ社のDNAシーケンシング装置を採用した。同社が開発したこの装置は、ゲノムを読み取るために、DNAの長い鎖を細孔に通す。その細孔は、大きさと構成が生体細胞膜の開口部に似ている。DNA鎖が細孔を通過すると、装置はDNAの各文字に固有の微細な電気的変化を読み取り、DNA配列を検出する。

研究者らは全ゲノムを5時間2分で解読し、記録を打ち立てた。Image: スティーブ・フィッシュ/スタンフォード大学医学部提供

こうした細孔は、フローセルと呼ばれる装置全体に数千個配置されている。研究者らは1人の患者のゲノムを48個のフローセルで同時にシーケンシングし、記録的な5時間2分で全ゲノムを読み取った。

超高速DNAシーケンシングによってテラバイト単位のデータが生成され、クラウドベースのストレージシステムに移された。クラウド上では、アルゴリズムがゲノムをスキャンし、遺伝性疾患の起源を説明する手がかりとなるDNA配列内の微細な変異、つまり突然変異を探した。

診断までの長い道のりを書き換える

疾患の原因がゲノムにあると考えられる場合、標準的な医療では遺伝子パネル検査を実施する。この検査では、あらかじめ選定された遺伝子の一覧をシーケンシングし、疾患の原因となり得る変異を調べる。検査結果が出るまで通常は2~3週間かかるが、最長で8週間かかることもあるうえ、一覧にない遺伝子の変異は見逃される可能性がある。

シーケンシングと分析の工程を7時間に短縮し、数個の遺伝子からゲノム全体へと対象を広げれば、診断までの長い道のりを根本から変えられる可能性がある。超高速DNAシーケンシングは、すでに2人の子どもの人生に変化をもたらした。

オレゴン州出身の13歳、マシュー・ジャンツマン君は、スタンフォード病院に緊急搬送され、生命維持装置につながれた。心臓の機能が低下していたが、原因は誰にも分からなかった。医師らは原因を2つの可能性に絞り込んだ。心臓の炎症を伴い、回復可能な心筋炎か、治療法のない遺伝性疾患のいずれかだった。

スタンフォード大学の研究では、医師らが超高速DNAシーケンシング検査を実施し、マシュー君に遺伝性疾患があることがすぐに判明した。直ちに心臓移植の待機リストに登録され、3週間後に新しい心臓の移植を受けた。

同じ研究で、生後3か月の患者がけいれん発作を起こして小児病院に入院した。超高速DNAシーケンシングを用いて、医師らは発作の原因を説明する遺伝子変異をすぐに見つけた。標準的な検査では、当初この診断を見逃していただろう。

疾患の診断は世界的な課題

医療技術の進歩は、登場した当初は一般に高額だ。企業間の競争、安価な材料、そして新世代の技術が、コストの引き下げにつながることがある。しかし、インフラ、政治、規制上の障壁はいずれも、世界的なアクセスを制限する要因となる。

オックスフォード・ナノポアの技術は複数の代替シーケンシング装置より安価だが、多くの国の研究所にとって、装置や材料の費用は依然として非常に高い。同様に、20%未満の低・中所得国しか、最新のデータインフラを備えていない。そのため、多くの場所でクラウドコンピューティングを利用できない。

こうした国々に超高速DNAシーケンシングを導入するには、ゲノム研究を支援する地域の取り組みに投資する必要がある。たとえば、アフリカにおける人類遺伝と健康イニシアチブは、アフリカの人々の健康と疾患を研究するため、科学インフラや人材育成に投資している。こうした団体に超高速DNAシーケンシングに必要な機器やソフトウェアを提供すれば、アフリカの人々により多く見られる希少疾患が研究されないまま取り残されることを防げる。

希少疾患のうち95%には承認された治療法がない。個々の希少疾患の患者数が限られているため、症状の研究や臨床試験の設計は難しい。データ共有システムの構築と規制の整備は、人々が国境を越えて個人情報を安全に共有できるようにするうえで不可欠となる。欧州希少疾患共同プログラムとゲノミクスと健康のためのグローバル・アライアンスは、世界各地の希少疾患コミュニティをつなぎ、こうした目標の実現に向けて前進している。

高所得国の病院で超高速ゲノムシーケンシングが導入される中、希少疾患コミュニティ全体がこうしたツールを利用し、これから明らかになる新たな疾患知見の波から恩恵を受けられる方法を考えることが重要だと私は考える。

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