米国の科学者らは、ヒト胚の編集に成功したことを示す論文を発表した。遺伝する心疾患を引き起こす変異を修正するため、ヒト胚を編集した。この研究結果は、将来この技術を安全に用いて、深刻な疾患の多くを取り除ける可能性を初めて示した点で、非常に重要だ。
では、この新たな研究によって、遺伝性疾患の治療にどれほど近づいたのだろうか。また、この技術がもたらす倫理的な影響を、どの程度懸念すべきだろうか。
用いられたゲノム編集ツール、CRISPR-Cas9は、生物学の分野を一変させた。発見から短期間で、可能性を示すだけでなく実際に成果を上げている。CRISPRは、細胞の操作やゲノムの改変を、従来のあらゆる方法よりもはるかに短い時間と低いコストで実現してきた。
DNAを切り貼りする分子のはさみのように働くこの技術は、細菌が有害な感染から身を守るために使う自然の防御システムだ。このシステムは、侵入してきたウイルスのDNAを認識して切断し、その配列を自らのゲノムに組み込む能力を持つ。これにより細菌は、類似したDNAを持つウイルスによる将来の感染に対して免疫を獲得できる。DNAを認識して切断するこの能力を利用し、科学者らは特定のDNA領域を標的にして編集できるようになった。
この技術を「生殖細胞」、つまり精子や卵子、あるいは胚に適用すると、生殖系列が変化する。つまり、加えられた変更は永続し、将来の世代に受け継がれることになる。このため倫理的な問題はより複雑になるが、ヒトの生殖系列ゲノム編集には厳格な規制があり、その大半は違法とされている。英国では、2016年に認可を受けた上で、初期発生の研究を目的としてヒト胚にCRISPRを用いることが認められた。ただし、編集した胚を子宮に移植して胎児へと発育させることは、どの国でも認められていない。
生殖系列ゲノム編集が世界的な注目を集めたのは、2015年に中国の科学者らが発表したのがきっかけだった。彼らはCRISPRを使って、生児出産には至り得ない非生存ヒト胚を編集した。血液疾患βサラセミアの原因となる遺伝子を改変するためだった。一定の成功は収めたものの、ヒト胚にこの技術を早期に用いたとして多くの批判を受けた。結果からは、この処置によって潜在的に危険なオフターゲット変異が多数生じたことが示された。
注目すべき成果
新たな研究は、『Nature』に掲載されたもので、生存可能なヒト胚を対象とし、有害な変異を生み出さずにゲノム編集を安全に行えることを示した点が異なる。研究チームはCRISPRを使い、遺伝子MYBPC3の変異を修正した。この遺伝子は、心筋疾患である肥大型心筋症の約40%に関与している。これは優性遺伝する疾患で、発症するには遺伝子の異常なコピーが1つあればよい。
研究者らは、MYBPC3変異のコピーを1つ持つ患者の精子を使って54個の胚を作製した。CRISPR-Cas9で胚を編集し、変異を修正した。ゲノム編集を行わなければ、胚のおよそ50%は患者の正常な遺伝子を、残りの50%は異常な遺伝子を受け継ぐことになる。
ゲノム編集後には、すべての胚が正常になることが目標となる。実験の第1段階では、CRISPRを注入した後、胚の66.7%、つまり54個中36個が正常だった。残る18個のうち5個は変化がなく、編集が機能しなかったと考えられる。13個では、一部の細胞だけが編集されていた。
効率は使用するCRISPRの仕組みの種類に左右され、特に胚に導入するタイミングが重要となる。そこで研究者らは、精子とCRISPR-Cas9複合体を同時に卵子へ注入する方法も試し、より有望な結果を得た。これは、細胞質内精子注入法と呼ばれる一般的な体外受精の手法を使い、提供された成熟ヒト卵子75個に対して行われた。今回は、胚の72.4%が正常となり、注目すべき結果が得られた。またこの方法により、編集された細胞とされていない細胞が混在する胚(モザイク胚)の数も減少した。
最後に、研究チームはさらに22個の胚に注入を行い、胚発生の後期段階である胚盤胞まで培養した。これらの胚をシーケンス解析したところ、編集が実際に機能していたことが確認された。特に重要なのは、オフターゲット変異の割合が低いことを示せた点だ。
新たな時代の幕開けか?
では、これでついに、生活を困難にする遺伝性疾患の治療法が確立したのだろうか。この研究の成功率は100%ではなかったことを忘れてはならない。研究者自身も、この技術の可能性と限界を十分に理解するには、さらなる研究が必要だと強調している。
私たちの見解では、近い将来、ゲノム編集が大半の遺伝性疾患の治療に使われる可能性は低い。遺伝子改変されたゲノムを持つ子どもが生涯にわたってどのように発達するか、まだ確かなことは分からない。そのため、遺伝性疾患を持つカップルが、着床前遺伝学的検査や出生前診断など、胚や胎児の遺伝的異常を調べる既存の検査を受けずに、遺伝子編集を選ぶとは考えにくい。
ヒト胚を変えることと、より望ましい状態にすることの境界線がどこに引かれるのか、多くの人が懸念している。成長ホルモンの異常によって低身長になるリスクがある場合、身長を伸ばすためのゲノム編集は治療とみなされるのか、それとも能力の増強とみなされるのか。境界線が曖昧になり得ることは容易に想像できる。
ほとんどの国で、ヒト胚を遺伝子改変できることの臨床的、倫理的、社会的意義が議論されている。道徳的、倫理的な懸念から、生殖系列ゲノム編集を決して認めない国もあるかもしれない。英国の法律が改正され、ゲノム編集が認められたとしても、ヒト受精・胚研究認可庁(HFEA)によって厳しく規制され、医療目的に限って使用されるよう徹底されるだろう。
だからといって、倫理的な影響について公に議論すべきでないということではない。議論することは極めて重要だ。ただし、新たな時代の到来について結論を急ぐ前に、いつの日か深刻な疾患の多くを根絶する助けとなるかもしれない、この研究分野の目覚ましい進歩をたたえることも忘れてはならない。

