COVID-19と診断されたとき、アンドレ・ベルクマンは治療を受けたい場所をはっきり決めていた。自宅のあるドイツ北西部に近い、メールスのベタニエン病院呼吸器クリニックだった。
このクリニックは、呼吸困難の患者に、喉にチューブを通すタイプの人工呼吸器を装着することに慎重なことで知られている。
48歳の医師で、2児の父親でもあり、トライアスロン選手を目指していたベルクマンは、侵襲的な人工呼吸器が有害になるのではと心配していた。しかし入院後まもなく、酸素マスクを着けていても呼吸に苦しみ、体調もひどく悪化したため、人工呼吸器は避けられないように思えたという。
それでも、医師らは彼に呼吸を代行する機械を装着しなかった。1週間後、彼は退院できるまでに回復した。
ベルクマンの事例は、COVID-19パンデミックの最前線で起きている変化を示している。医師らは、重症患者の治療に機械式人工呼吸器をいつ、どのように使うか、場合によってはそもそも使用すべきかを再考している。当初、医師らは挿管患者で集中治療室を埋め尽くしていたが、今では多くが別の選択肢を探っている。
呼吸を助ける機械は、これまでに18万3,000人以上の命を奪ったCOVID-19と闘う医療従事者の主要な武器となった。2月にこの病気が世界的に広がり始めてから数週間のうちに、多くの病院が人工呼吸器の深刻な不足を訴え、各国政府は製造や購入を急いだ。
ドイツは人工呼吸器を1万台発注した。英国からウルグアイまで、エンジニアたちは自動車、掃除機、さらにはワイパーモーターを基にした機種を開発している。ドナルド・トランプ米大統領の政権は、約19万台の人工呼吸器に29億ドルを投じている。米政府はゼネラル・モーターズ社やフォード・モーター社などの自動車メーカーに加え、医療機器メーカーとも契約を結び、年末までに全台数の納入が見込まれている。トランプ氏は今週、米国は今や「人工呼吸器の王者」だと宣言した。
しかし、COVID-19が人体に及ぼす影響について医師らの理解が深まるにつれ、多くの医師は人工呼吸器を以前より慎重に使うようになったと述べている。
ロイターは、中国、イタリア、スペイン、ドイツ、米国などでCOVID-19患者の診療経験がある医師や医療関係者30人に取材した。ほぼ全員が、人工呼吸器は極めて重要で、命を救う助けになっていると認めた。同時に多くの人が、最も侵襲性の高い機械式人工呼吸器を早すぎる段階や頻繁に使用するリスク、また逼迫した病院で専門外の医師が適切な訓練を受けずに使用するリスクを指摘した。
医師らの病気への理解が深まるにつれ、治療に使う薬の種類を含め、パンデミックの中で医療手順も変化してきた。人工呼吸器をめぐる方針の変化は、各国や企業が機器の生産を増やす中で、広範な影響を及ぼす可能性がある。
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「より良い結果」
肺に酸素を送り込むためにマスクを使う換気方法は多い。医師らが主に懸念しているのは機械換気だ。患者の気道にチューブを挿入して空気を送り込むもので、この処置は挿管と呼ばれる。患者には深い鎮静をかけ、呼吸筋が機械に抵抗しないようにする。
重度の酸素不足、つまり低酸素症の患者は、一般に挿管され、人工呼吸器につながれて最長2~3週間を過ごす。ロイターが取材した医師や最近の医学研究によると、生存の見込みは最も高くても五分五分だ。全体像はまだ断片的で変化しているものの、パンデミック初期には、挿管されたCOVID-19患者の死亡率が、細菌性肺炎や肺の虚脱などの症状で人工呼吸器を装着した他の患者より高かったことが示唆されている。
これは、人工呼吸器が死を早めた証拠ではない。挿管と死亡率との関連については、さらなる研究が必要だと医師らは述べている。
パンデミックが始まった都市、武漢の集中治療室で侵襲的人工呼吸を受けたCOVID-19患者22人のうち、86%が助からなかった。2月に『ランセット』に掲載された研究が伝えた。同論文によると、通常、重度の呼吸障害がある患者の生存率は50%だ。最近の英国の研究では、機械式人工呼吸器を装着したCOVID-19患者の3分の2が結局死亡した。またニューヨークの研究では、機械換気を受けたCOVID-19患者320人の88%が死亡していた。
一方、クリーブランド・クリニック・アブダビ病院で人工呼吸器を装着した患者8人は、4月9日時点で一人も死亡していなかったと、同院の医師がロイターに語った。また、アトランタのエモリー大学病院の集中治療医は、COVID-19患者のほぼ半数を人工呼吸器から無事に外せた週を「良い」週と感じたという。もっと多くの患者が亡くなると予想していたからだ。
経験には大きな違いがある。各病院の医療従事者によると、カリフォルニア州サンディエゴ郡にあるスクリップス・ヘルスの5病院では、COVID-19患者が人工呼吸器を装着していた平均期間は1週間強だった。これに対し、エルサレムのハダサ・エイン・ケレム医療センターでは2週間、マレーシアの首都クアラルンプールにあるマラヤ大学医療センターでは3週間だった。
ドイツで患者のベルクマンは呼吸に苦しみ、どうでもよくなるほど追い詰められていたと語った。
「もうどうでもよくなった瞬間がありました」と彼はロイターに語った。「ある時、あまりに疲れ果てて、主治医に良くなるのかと尋ねました。子どももパートナーもいなければ、そっとしておいてもらうほうが楽だと言っていました。」
クリニックはベルクマンに機械式人工呼吸器を装着する代わりに、モルヒネを投与し、酸素マスクを着けたままにした。その後、感染していないことは確認されたが、完全には回復していない。クリニックの責任者でドイツ人呼吸器専門医のトーマス・フォシャールは、COVID-19患者への早期挿管に強く反対してきた。フォシャールを含む医師らは、人工呼吸器が患者の肺を損傷するリスクを懸念している。
ロイターが取材した医師らは、機械式人工呼吸器は命を救うために欠かせない装置であり、特に患者の容体が急変する重症例では重要だと認めた。免疫系が過剰に反応し、「サイトカインストーム」と呼ばれる炎症状態に陥る患者もいる。危険なほどの高血圧や肺の損傷を引き起こし、最終的には臓器不全につながる可能性がある。
新型コロナウイルスと、それが引き起こす病気であるCOVID-19は、世界で5,000万人が亡くなった1918~19年のスペイン風邪のパンデミックと比較されている。当時と同様、この病気は新しく、重症化し、急速に広がっている。対処に必要な公衆衛生と医学の知識の限界が試されている。
ルイジアナ州で新型コロナウイルスの症例が急増し始めたとき、同州最大の病院システム、オクスナー・ヘルスの医師らは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の兆候がある患者が押し寄せるのを目の当たりにした。ARDSでは肺に炎症が起き、呼吸が苦しくなり、浅く速い呼吸を繰り返すことがある。
「当初、患者の呼吸困難が強まると、かなり早い段階で挿管していました」と、病院システムの最高医療責任者ロバート・ハートは述べた。「時間がたつ中で、そうしないようにすることを学びました。」
その代わり、ハートの病院はフォシャールがドイツの患者に行ったように、マスクや細い鼻チューブを使った別の換気方法を試した。「より良い結果が出ているようです」とハートは語った。
変化した肺
他の医師らも同様の状況を語った。
新型コロナウイルスが発生した武漢では、華中科技大学同済病院の医師らが、当初はすぐに挿管を行っていたと語った。同病院の集中治療科責任者、李樹生は、人工呼吸器による治療後も改善しない患者が複数いたと述べた。
「この病気は」と彼は説明した。「私たちの想像を超えて患者の肺を変えてしまったのです。」同僚で呼吸器内科医の徐淑雲は、病院は挿管を減らすよう対応したと述べた。
ドイツのゲッティンゲン大学麻酔・救急・集中治療医学科の客員教授で、人工呼吸器の著名な専門家であるルチアーノ・ガッティノーニは、COVID-19の治療に人工呼吸器をどう使うべきかについて、いち早く疑問を呈した一人だった。
「最初のCT画像を見た瞬間に……これまで40年間見てきたこと、行ってきたこととはまったく違うと気づきました」と彼はロイターに語った。
3月30日に米国胸部学会が発表した論文で、ガッティノーニらイタリア人医師は、COVID-19は「典型的な」呼吸障害を引き起こさないと記した。患者の肺は、ARDSで予想されるよりも良好に機能しており、より弾力性があるという。だから機械換気は「慣れている設定より低い圧力で」行うべきだと、彼は述べた。
COVID-19患者の一部を標準的なARDS患者と同じように人工換気するのは適切ではないと、彼はロイターに語った。「フェラーリで隣の店まで行くようなものです。アクセルを踏み込んで、窓を壊してしまうのです。」
イタリア人医師らのすぐ後には、ニューヨークの医師キャメロン・カイル=シデルが続いた。彼はYouTubeで講演し、患者に人工呼吸器を装着する準備をすることで、米国の病院は「間違った病気」を治療していると述べた。人工呼吸は「ごく短期間に多くの人々へ甚大な害」をもたらすと彼は懸念していた。今週ロイターに語ったところによると、現在もその見解は変わっていない。
スペインで3月半ばに感染が急拡大した際、多くの患者がすぐに人工呼吸器を装着された。アリカンテ総合大学病院の医師デリア・トレスによると、肺のX線画像などの検査結果が「私たちを怖がらせた」ためだった。今ではX線や検査だけでなく、呼吸状態や患者の全身状態をより重視している。挿管の頻度も減った。「挿管せずに患者が回復できるなら、必要ありません」と彼女は語った。
ドイツでは、呼吸器専門医のフォシャールも懸念を抱いていた。機械式人工呼吸器そのものが肺を損傷する可能性があるという。その結果、患者が集中治療室に長くとどまり、専門病床がふさがって、さらに多くの人工呼吸器が必要になる悪循環が生じる。
フォシャールによると、4月半ばに病棟にいた急性COVID-19患者36人のうち、挿管されたのは1人だった。重度の神経筋疾患を持つ男性で、亡くなったのも彼だけだった。ほかの31人は回復した。
「鉄の肺」
一部の医師は、人工呼吸器の使用を急ぐことが有害だという印象は、今日のパンデミックで患者数が非常に多いことが一因かもしれないと注意を促した。
スイス集中治療医学会会長で、ニヨンの集中治療室責任者ティエリー・フュモーによると、集中治療室の医療従事者は、挿管されたARDS患者の死亡率が約40%であることを知っている。高い数字だが、病棟に患者が3、4人いて、そのうち1人が助からないような通常時なら、許容されることもある。
「患者が20人以上になると、このことが非常にはっきりします」とフュモーは語った。「そのため、人工呼吸が患者を死なせるという印象を抱くのです。よく耳にします。」しかし、そうではないという。「いいえ、患者を死なせるのは人工呼吸ではなく、肺の病気です。」
イタリアで最も深刻な被害を受けたロンバルディア州のクレモナ近郊にあるオリオ・ポ病院で、麻酔科・蘇生科責任者を務めるマリオ・リッチョは、重症のCOVID-19患者を救う唯一の治療法は人工呼吸器だと述べる。「機械換気を受けた人が亡くなる場合があるという事実は、この主張を揺るがすものではありません。」
1920年代から1930年代に導入された当初、「鉄の肺」と呼ばれた機械式人工呼吸器は、レスピレーターとも呼ばれる。圧力を使って空気、または酸素と空気などの混合気体を肺に送り込む。
呼気を促す設定もできるため、肺が機能しなくなった患者の呼吸過程全体を実質的に代行できる。目的は、感染症と闘い、自力で呼吸できるようになって回復するまで、体に十分な時間を与えることだ。
ハダサ・エイン・ケレム医療センターのヨラム・ワイス院長は、呼吸する力が弱まって人工呼吸器が必要になる患者もいると述べた。「患者が崩れる前に人工呼吸を行うことが非常に重要です。」同院では、COVID-19患者223人のうち24人が4月13日までに人工呼吸器を装着した。そのうち4人が死亡し、3人は人工呼吸器を外すことができた。
エアロゾル
フェイスマスクなど、より簡易な換気方法は扱いやすい。しかし、呼吸用マスクからはエアロゾルと呼ばれる微小な飛沫が放出され、感染を広げる可能性がある。そのリスクから、少なくとも当初はマスクを避けていたと話す医師もいた。
機械式人工呼吸器はエアロゾルを発生させないが、別のリスクがある。挿管では、呼吸筋が完全に機械に委ねられるよう、患者に深い鎮静をかける必要がある。回復には時間がかかることがあり、肺に永続的な損傷が残るリスクもある。
多くの国でCOVID-19の初期流行の波がピークを越えたいま、医師らは病気に対処する別の方法を検討する時間を得て、治療方針を細かく調整している。
ドイツの呼吸器専門医フォシャールによると、一部の医師はCOVID-19による肺の問題を、他の肺炎と同じように扱っていた。健康な人の酸素飽和度、つまり血液中のヘモグロビンがどれほど酸素を含んでいるかを示す値は、血液が保持できる最大量の約96%だ。患者を調べて低い値が出ると、それは低酸素症を示すが、医師らは過剰に反応して急いで挿管することがあると、フォシャールは述べた。
「呼吸器専門医の私たちは、こうした状態をいつも見ています」とフォシャールはロイターに語った。「酸素飽和度が80%でも何もせず、自発呼吸を続けさせることがあります。患者の気分は良くありませんが、食べたり飲んだり、ベッドの端に座ったりできます。」
彼や他の医師らは、挿管前に別の検査も役立つと考えている。フォシャールは、患者の呼吸数や心拍数など、複数の指標を組み合わせて見る。チームは肺の画像検査も判断材料にしている。
「元気な低酸素症患者」
ニューヨークの複数の医師は、酸素濃度が危険なほど低くても、意識の混濁が見られず、会話や笑いができる「元気な低酸素症患者」の治療方法を検討し始めたと語った。
医師らによると、挿管を急ぐ代わりに、患者の酸素濃度を上げる別の方法を探している。ロングアイランドのストーニーブルック大学医療センターで救急集中治療部門を率いるスコット・ウェインガートによると、その一つが「腹臥位療法」で、患者にうつ伏せになるよう伝えるか、介助してうつ伏せにする。
「患者をベッドで同じ姿勢のままにしておくと、酸素飽和度が下がり、血液中の酸素が失われる傾向があります」とウェインガートは述べた。うつ伏せになると、肺の中の液体が前方へ移り、肺の後ろ側がより広がりやすくなる。「姿勢を変えることで、患者の酸素飽和度に劇的な効果が得られます。」
ウェインガートは、意思疎通のできる患者でも、酸素濃度が低く、意識が明瞭でなくなり始めた場合、サイトカインストームを起こした場合、または呼吸が本当に苦しくなり始めた場合には、挿管を勧めている。同院には、そのような患者に使える人工呼吸器が十分にあると考えている。
しかし、元気な低酸素症患者については、「こうした患者に人工呼吸器を使いたくありません。助けになるどころか、害を与えると思うからです」と語った。
品質と技術
米国などの各国政府が人工呼吸器の生産拡大に奔走する中、急いで製造された機械の性能が十分かどうかを懸念する医師もいる。
スペインの医師らは地方政府に書簡を送り、購入した人工呼吸器は集中治療室ではなく救急車での使用向けに設計されており、一部は品質が低いと苦情を述べた。英国では、より高度な機器が必要になったため、政府は簡易型の人工呼吸器数千台の発注を取り消した。
さらに重要なのは、追加される機械を操作するには、高度な訓練を受けた経験豊富な人材が必要だと、多くの医師が述べていることだ。
「人工呼吸器が足りなくなるだけではありません。専門知識を持つ人が足りなくなるのです」と、コネティカット州ウォーターベリーで呼吸器・集中治療医を務め、ウォーターベリー病院で診療するデービッド・ヒルは述べた。
長期にわたる人工呼吸器管理は複雑だが、一部の米国の病院では、集中治療を専門としない医師にウェビナーや簡易マニュアルを使って急いで知識を身につけてもらおうとしていると、ヒルは述べた。「それでは悪い結果を招きます。」
「集中治療医である私たちは、決まった手順だけで人工呼吸器を使うわけではありません」とヒルは述べた。「初期設定を決めることはありますが、その設定を調整します。複雑なのです。」

