自然界には160万種を超えるウイルスが存在すると予測されています。今行動を起こさなければ、私たちが生きている間に再びパンデミックが発生する可能性は高いでしょう。
新興感染症の多くは動物に由来しますが、人間の活動によって感染拡大のリスクが高まっています。
動物と人間の健康のつながりを認識し、「ワンヘルス」のアプローチを取ることで、将来の感染症の発生を防いだり、その影響を抑えたりできる可能性があります。
ウイルス、野生生物、生息地の破壊のつながりに気づいたのは最近だという人も多いかもしれません。しかし、スザン・マレー博士はキャリアの大半を、人間、野生生物、環境の健康が交わる領域の研究に費やしてきました。
スミソニアン保全生物学研究所(SCBI)の動物園獣医師であり、同研究所のグローバルヘルス・プログラムのディレクターと主任野生動物獣医官を兼任するスザンは、2016年、世界経済フォーラムの「ニュー・チャンピオンズ年次総会」で講演し、パンデミックを未然に防ぐために必要なことについて見解を示しました。
スザンに話を聞き、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、将来のさらなるパンデミックの脅威、そしてそれに備えるために今すべきことについて意見を伺いました。
これまでにさまざまな役割を担われてきましたが、人間に感染する可能性のある動物の新興感染症(人獣共通感染症)を調査するため、世界各地を訪れる獣医科学者でもありました。まず、人間、野生生物、環境の健康のつながり、特に病気が種間でどのように伝播するのかについて教えていただけますか。
この10年間で、人間と動物の健康がいかに密接に結びついているかについて多くを学びました。感染症の出現を促す要因は数多くあり、その数も発生頻度も増加しています。こうした要因の多くに共通するのが人間の活動です。たとえば、森林伐採のような土地利用の変化や、都市の拡大によって人口密度の高い地域がかつての野生地域に迫っていることを考えてみてください。こうした要因により、野生種は、そうでなければ起こらなかったはずの形で家畜や人間と接触するようになり、新たな病気や未知の病気が伝播する可能性が高まっています。
私が得た最大の教訓の一つは、何十年も世界経済について語ってきた一方で、健康を同じような視点で考えてこなかったことです。残念ながら、今回の新型コロナウイルスは、健康が地球規模の問題であり、あらゆる種、国、地域が互いにつながっていることを示しました。
残念なことに、COVID-19のパンデミックは一生に一度の経験ではないかもしれません。モデル分析によれば、野生生物に存在するウイルスのうち、これまでに発見されたのは1%未満です。総数は160万を超えると考えられています。すべてが人間に感染するわけではなく、感染するものの中にも害が比較的小さいものはあります。それでも、感染症の発生が再び起こると確信を持って言えるほど数は多く、人間の行動の変化によってその可能性も高まっています。
過去10年間に人獣共通感染症の発生は複数ありましたが、パンデミックに至ったものはありません。今回は何が違い、この新型コロナウイルスはなぜこれほど遠くまで、これほど速く広がったのでしょうか。
これまでに研究されたおよそ1,000種のウイルスには、人間に感染して急速に広がる能力を左右するさまざまな特性があります。大きく分けると、ウイルスにはDNAウイルスとRNAウイルスの2種類があります。コロナウイルスとインフルエンザウイルスはRNAウイルスで、DNAウイルスよりも速く容易に変異する傾向があります。ウイルスが変異する速度は、どのウイルスが種間を越えて感染するかを調べるうえで重要な要素です。
進化生物学の観点から関連する要素として、宿主を比較的早く死に至らせるエボラウイルスのようなウイルスは、非常に多くの人に感染するようには適応していません。潜伏期間が長く、無症状感染があり、致死率も低い今回のパンデミックの原因となったコロナウイルスは、広く拡散し、多くの人に感染するのにほぼ理想的な媒体です。
SARS-CoV-2の起源をめぐっては多くの議論があります。提唱されている感染経路を裏付ける十分な証拠はあるのでしょうか。また、この問いへの答えはパンデミック対策に実際に役立つのでしょうか。
ウイルスはおそらくコウモリに由来することを示す強い証拠がありますが、そのコウモリを手にするまでは断定できません。これまでの研究のほぼすべてが、由来はそこだと示していると思います。合成された、あるいは研究所に由来する可能性については、私が最初に言うわけではありませんが、このウイルスが試験管から来たとすれば、その試験管の中にコウモリがいた場合だけだと考えます。

ウイルスの起源を知ることは、さまざまな点で役立ちます。パンデミックへの即時対応に役立つとは限らないかもしれませんが、次のパンデミックをどう防ぐかを考えるうえでは確実に有益です。たとえば、人間に感染した動物が何かを知ることで、どのように感染が起きたかを調べ、将来その感染経路を防ぐ対策を取ることができます。
将来のパンデミックから身を守るため、人間が取るべき最も重要な対策は何でしょうか。
できることはたくさんあります。まず、米国疾病予防管理センター(CDC)は、人間の病気への対応全般で本当に優れた仕事をしてきたと思いますが、野生生物の健康を扱う同様の組織が必要です。
次に、これらの病気はすべて野生生物に由来することを踏まえると、最もリスクの高い国や地域社会で、野生生物の健康を監視する能力を高めることで多くのことができます。私の考えでは、これは現時点で最大の課題であり、地域社会の参加がその解決に大きな役割を果たします。影響を受ける人々の同意なしに決められた対策は、ほとんど機能しないことが分かっています。ですから、地域社会と連携し、その文化や背景を理解したうえで、人間と野生種との接触を減らすために取れる対策について合意することが極めて重要です。
人間と自然の接点をさらに詳しく見ると、自然の保全はどのような役割を果たせるでしょうか。
自然保全には確かに果たすべき役割があります。大きく分けると、考えられる主張は2つあります。私が支持するものと、支持しないものです。
一つ目の主張は、動物と慎重に共存し、原生の自然を保ち、保全の原則に従うことで、人間の活動を維持しながら病気の伝播リスクを最小限に抑えられるというものです。ここでも、最もリスクの高い地域社会への啓発が重要になります。
これと反対の二つ目の主張は、生物多様性の高さが感染症出現のリスク要因なら、生物多様性をすべてなくせばよいというものです。もちろん、これは問題の本質を見誤っています。ウイルスが人間に感染するのを防ぐ助けになるかもしれませんが、この方法はパンデミックと同じくらい重大な別の問題を生みます。たとえばコウモリはウイルスを運ぶことがありますが、重要な花粉媒介者でもあります。コウモリの種類によっては、1日に自分の体重の何倍もの蚊を食べます。コウモリを生態系から取り除けば、広範で予測できない被害が生じることは明らかです。
現在の焦点がパンデミックへの対応と管理に置かれているのは当然ですが、次のパンデミックを防ぐには投資と準備が必要です。深刻な経済予測が示される中、必要な政治的意思と資金は確保できるとお考えですか。
今回の感染拡大が収束した後、人間の性質として、できるだけ早く忘れ、しばらく考えないようにする人が出てくるリスクがあると思います。それは間違いです。同じことを二度と起こさないために、人々の意識の中心にとどめておく必要があります。人道面でも経済面でも、病気を治療するより予防する方がはるかに理にかなっていますが、次のパンデミックを防ぐには大規模な投資が必要です。政府が必要な対策を講じることを期待していますが、科学界も一般の人々も無関心でいてはなりません。声を上げ続ける必要があります。
取るべき対策は幅広いものですが、動物研究を中核に据えなければなりません。予防を成功させるには、ウイルスがどこに存在し、どのように人間に感染するのかを理解する必要があります。残念ながら、動物研究への資金提供は、特に人々が生計を失い苦境にあるとき、優先課題になりにくいものです。私たちにできる最大のことは、人々に理解を広げることです。
こうした対策を適切に実施すれば、それだけで将来の感染症がパンデミックに発展するのを防げるのでしょうか。それとも、暮らし方や消費の仕方をもっと広範に変える必要があるのでしょうか。
まだそこまで到達してはいないと思いますが、大きく前進しました。10年前は、発見されているウイルスはそれほど多くありませんでした。コロナウイルスもあまり見つかっておらず、どの種がこうしたウイルスを保有しやすいかも、新興感染症のリスク要因も分かっていませんでした。迅速な検査に使える製品や手順もありませんでした。
つまり、現在の状況は、ある程度の知識が得られていた場合に何が起こるかを示しています。基盤の多くは整ってきており、私たちが本格的に取り組むことを選べば、将来の感染症発生への対応を大きく改善できると確信しています。ここでは文化的な事情も考慮しなければなりません。多くの人々が食料や収入源をブッシュミート取引や生鮮市場に頼っています。これらがいずれも感染症伝播のリスク要因であると分かっている以上、関係する人々と協力して規模を縮小し、適切な代替生計手段を確保する必要があります。
特に期待しているのは、最もリスクの高い国々で、動物と人間を対象にリアルタイムで症候群サーベイランスを行い、迅速対応チームに情報を提供する可能性です。プライバシーに関する深刻な課題はありますが、それを解決できれば、AIが将来のより迅速な対応に大きく貢献できると考えています。

