毎年、4,100万人が非感染性疾患で亡くなっています。
しかし、個人データ、AI、IoTを組み合わせた精密技術は、こうした疾患の予防に役立ちます。
遺伝的、生理的、環境的、行動的要因が複合して引き起こされる非感染性疾患(NCD)は、世界の全死亡の71%を占め、毎年4,100万人の命を奪っています。世界の4人に1人は、これらの疾患のリスクを高める代謝の不均衡を遺伝的に受け継いでいます。
個人データ、AI、IoTを強力に組み合わせた精密技術は、こうしたリスクに対処する新たな手段をもたらします。
生活の質を高めるため、消費者は長年、睡眠、食事、運動、気分の管理など、個人の消費行動や生活習慣を改善し、健康とウェルビーイング全般に良い影響を与えたいと考えてきました。第4次産業革命のテクノロジーは、これまで想像もできなかった方法で、消費者の心身両面のウェルビーイングを包括的に高める新たな機会をもたらします。さらに、精密な消費は本質的に予防的であるため、長期的には増大する医療費を抑制する可能性があります。
最近発表された「精密な消費 2030」報告書は、世界経済フォーラムの「消費の未来」プラットフォームが、テクノロジー主導の文化コンサルティング会社Sparks & Honeyと共同で作成したもので、消費者、ビジネスリーダー、そして社会全体にとっての精密な消費の機会と課題を概説しています。主な調査結果を紹介します。
精密技術が産業を変革する
過去3年間における精密技術へのベンチャーキャピタル投資総額は1兆1,000億ドルでした。同時に、ウェルネスは急成長するビジネスとなっています。人々が自分の環境を調整し、変化させられるようにするウェルネステックは、新興産業であり、その市場価値は3億3,300万ドルです。
こうした傾向から、企業にとってパーソナライゼーションが不可欠であることがわかります。人々は一部のDNAベースの製品やサービスに最大20%の割増料金を支払う意思があり、その結果、あらゆる製品やサービスに高度な個別対応を求める市場圧力が高まっています。
寿命の延伸もビジネス戦略を変えるでしょう。2030年までに、精密栄養による長寿化の効果で、こうしたテクノロジーを利用できる人々の健康寿命は100歳を超えるようになります。人材管理、研究開発、企業の社会的責任(CSR)、マーケティングなど、企業戦略は長寿化に対応する必要があります。
長期的な健康とウェルビーイングを実現する鍵は精密データ
生体データと精密技術を組み合わせることで、消費者の健康とウェルビーイングに新たな成果をもたらすことができます。DNAから音声技術、画像認識からマイクロバイオーム、デジタル生体認証から網膜スキャンまで、消費者は自身の生物学的データの価値と、そのデータが利用可能になることが将来のウェルビーイングにもたらす影響を理解し始めています。さらに、健康な脳の機能には健康的な食事が欠かせないという認識も高まっています。
専門家によると、大規模な実用化にはまだ時間がかかるものの、適切な食事は個人に合わせたものでなければなりません。スクリップス研究所のエグゼクティブ・バイスプレジデント、エリック・トポル氏は、誰にでも当てはまる食事という考え方は単純化しすぎていると説明します。「それは、人間の代謝、マイクロバイオーム、環境の驚くべき多様性と相いれません。これらは、私たち一人ひとりを唯一無二の存在にしている要素のほんの一部です。」
個人のデータに基づいて消費者向け製品やサービスを設計すると、行動変容が起こる可能性が高まります。パーソナライゼーションと技術の進歩により、個人情報へのほぼリアルタイムのフィードバックや、一人ひとりに合わせた精密な提案を通じて、消費者がウェルネス全般を大きく向上させる可能性も広がっています。
こうした精密な提案によって、消費者は初めて、日々の消費に関する意思決定を改善できるようになります。 LifeNomeのCEO兼共同創業者、アリ・モスタシャリ博士は次のように説明します。
「個人に合わせた食事プログラムを実施した人々を見ると、8週間にわたるプログラムの継続率は約60%でした。一般的なプログラムを受けた場合より高い数値です。」
血糖値を継続的に測定し、60秒ごとに個人に合わせた健康アドバイスを受け、自身の体質に基づいて食事を「ハック」する世界は、すでに現実のものとなっています。例えばGenoViveは、一人ひとり固有のDNAを用いて、消費者が健康的な生活習慣を長く続けられるよう、個別の食事・運動プログラムを作成します。タフツ大学が開発した新しい小型センサーは、歯の表面に直接取り付けることができ、食事が人体に及ぼす影響をリアルタイムで測定し、ブドウ糖、塩分、アルコールの摂取に関するデータを送信します。
人間の生体データを継続的に測定することは、精密な消費の中核です。消費者が自身の健康とウェルビーイングについてより良い判断を下せるようになります。「今後10年以内に、マイクロバイオームの謎を十分に解明し、目の問題、心臓の問題、脳卒中のリスクなど、あらゆる疾患に対する最初の防御策として、栄養を正確に個別化できるようになるでしょう」と、ArOのCEO兼共同創業者ロビン・ファーマンファーメイアン氏は説明します。
官民のエコシステムが信頼とイノベーションを促進する
精密な消費の可能性を最大限に引き出すには、多くの課題があります。信頼の問題は未解決のままです。消費者の健康データを透明性のない方法で活用する、豊富なデータを保有する組織が増えています。ほとんどの場合、こうした取り組みは閉鎖的なシステムで行われています。その結果、競争が阻害され、最終的にはビジネスの活力や消費者にとっての価値が損なわれます。
報告書によると、科学研究の推進のためにデータを共有する意思がある消費者は60%を超えています。対象となるデータには、医療データ、生活習慣・行動・家族歴データ、遺伝情報、ウェアラブル端末のデータが含まれます。しかし、尋ねられた場合に民間企業とデータを共有する意思がない人も36%に上りました。一人ひとりの固有のデジタル生体情報に基づく精密な消費を一般の消費者に広げるには、消費者保護の必要性がますます高まります。
主要な関係者が力を合わせ、信頼と透明性に根ざした、社会に貢献する力としてテクノロジーの可能性を活用できるとしたら、どうでしょうか。
「消費の未来」プラットフォームは、「Precision Data Collaborative(精密データ協働体)」と呼ばれる新たな仕組みの構築に取り組んでいます。この仕組みは、データに基づく知識とイノベーションの発展を可能にしながら、消費者のプライバシーと透明性に関するニーズが満たされるよう、適切な保護策を特定することを目指しています。この協働体は、今後3年間で100万人を超える消費者を受け入れ、生物学的・生理学的・行動的データを備えた、世界で最も信頼性が高く統合されたウェルネスデータセットを作成するという意欲的な目標を掲げています。試験的な取り組みとして、この官民エコシステムには企業、学術界、市民社会、政府が参加します。
消費者が意図を明確にしたうえで同意する仕組みによって、自分のデータがどのように利用、保存、共有されるかを把握できます。それらの方法は、消費者の利益と、データが収集された状況(例:健康とウェルビーイング)に沿ったものとなります。この協働体では、消費者が自身の現在のウェルビーイングの状態を包括的に示し、選定された組織に提供できます。組織はその後、個人に合わせた入力情報、AI、知見に基づいて製品やサービスを提案します。健全な競争があれば、消費者は精密技術を活用した製品やサービスの品質と有効性の向上という恩恵を受けられます。
精密な消費は、公的研究や消費者の健康への介入に用いるデータの質を向上させるだけでなく、長期的には、民間部門と公共部門にとって増え続ける医療費の負担を軽減することもできます。その歩みは今、始まります。
この記事は、世界経済フォーラムの年次総会(2020年1月21~24日、スイス・ダボス=クロスタース)に関連しています。

