気候変動に伴う海面上昇は、多くの島しょ部や沿岸地域のコミュニティにとって懸念事項となっている。マイアミやニューオーリンズのような大規模な沿岸都市にとって危険はまだ遠い先のことに思えるかもしれないが、海洋の進出によってすでに一部の小規模な先住民コミュニティが移転を余儀なくされており、世界各地でさらに多くのコミュニティが危険にさらされている。
今後数十年のうちに予想される壊滅的な洪水が起きる前に、こうしたコミュニティに暮らす人々は、近隣または遠方の高台へ計画的かつ秩序立てて撤退する、すなわち計画移転を始めることができる。

「計画的な撤退は、移転するコミュニティに健康面、社会文化面、経済面で大きな混乱をもたらします」と、筆頭著者でワシントン大学公衆衛生学部および建築環境学部の客員教授であるアンドリュー・L・ダネンバーグは述べる。
影響は、メンタルヘルス、社会的ネットワーク、食料安全保障、水の供給、衛生、感染症、負傷、医療へのアクセスに及ぶ。分析によると、移転は生活環境の改善などの好ましい変化をもたらす可能性がある一方、生計を自給自足に頼る暮らしが損なわれるなどの課題も生じうる。
「良い面と悪い面の両方があります」とダネンバーグは述べる。
8つの村
研究者らは、北米と中米の4つの村、南太平洋の4つの村、計8つの村に焦点を当て、海面上昇によって限られた資源しか持たない人々が移転を余儀なくされたとき、住民やコミュニティに何が起こるのかを調べた。
研究者らは、学術論文や報道記事など既存の文献を調査し、こうした移転が公衆衛生に及ぼす影響を検討した。コミュニティの人口は60人から2,700人で、アラスカ州、ルイジアナ州、ワシントン州のほか、パナマ、フィジー、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツが対象地域に含まれた。
北西部で影響を受けているコミュニティの一つが、ワシントン州タホラにある人口660人のクイノールト・インディアン・ネーションの村だ。海面上昇、高潮、津波の危険が高まっている。住民は連邦政府から70万ドルの助成金を受け、近隣の高台に再建するためのマスタープランを完成させた。この計画には、コミュニティの意見を反映した最善の開発慣行を取り入れている。移転を完了するには、さらに相当な資金が必要になるとダネンバーグは述べる。
移転
新たな研究の著者らは、計画的な撤退の過程で人々の健康を考慮すべきだと提言する。ただし、検討した事例研究の大半では、健康問題への注目は比較的少なかった。移転に成功したコミュニティがある一方で、新たな移転先が適切でないこと、資金不足、いつどこへ移るかについてコミュニティ内で合意できないことなどの障壁に直面したところもあった。フィジーのある政府関係者はこう述べた。「移転とは……家を移すことではなく、人々の暮らしを移すことです」
「計画的な撤退が公衆衛生に及ぼす影響と、移転の前後および移転中に人々のレジリエンスを高める方法をよりよく理解するには、さらなる研究が必要です」とダネンバーグは記している。
研究結果は学術誌『Climatic Change』に掲載された。共著者はワシントン大学とロンドンのウェルカム・トラストに所属している。

