バーチャルリアリティはどのように命を救うのか

Surgeons of the general and visceral surgery at the Asklepios Hospital Hamburg-Barmbek, open the abdominal wall of a patient during liver surgery, one of the first surgeries of its kind in Germany with the support of a tablet computer to access and visualize planning data, in Hamburg August 15, 2013. The tablet computer uses augmented reality, which allows the liver to be filmed with an iPad and overlaid during an operation with virtual 3D models reconstructed from the real organ. Developed by Fraunhofer MEVIS in Bremen, this procedure helps locate critical structures such as tumors and vessels and is expected to improve the quality of transferring pre-operational resection plans into actual surgery. REUTERS/Fabian Bimmer (GERMANY - Tags: HEALTH) - BM2E98G1GFN01
Virtual or augmented reality can guide surgeons through complex medical procedures.Image: REUTERS/Fabian Bimmer
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2017年、ミネソタ大学で行われた画期的な手術で、外科医たちは前例のないツール、バーチャルリアリティを使い、結合双生児の姉妹を無事に分離した。

姉妹を分離する複雑でリスクの高い処置に備え、研究者たちはMRIとCTスキャンの高解像度画像を組み合わせ、絡み合った乳児の心臓を三次元デジタルモデルとして作成した。バーチャルリアリティ用ゴーグルを装着した医師たちは、クルミほどの大きさの臓器を仮想空間で調べ、重大な解剖学的欠陥を特定し、複雑な分離手術の方法を検討した。そこで得た知見をもとに、外科医たちは当初の方針を変更し、9時間に及ぶ手術に別の方法を採用した。この方法は幼い2人の命を救ったと評価されている。

SFのように聞こえるかもしれない。実際、患者の心臓を計算モデルで再現した「デジタルツイン」は、標準的な医療の一部になりつつある。コンピューター画面で閲覧できるほか、心血管の生理機能をシミュレーションして分析でき、3Dプリンターで実体化することもできる。心臓専門医は今や、動脈の閉塞を取り除く手術の前に、3D画像でその状態を確認するのが一般的だ。乳児の深刻な先天性心疾患を治療するため、ロンドンのグレート・オーモンド・ストリート小児病院の心臓専門医は、子どもたちの小さな心臓をデジタルで再現したモデルを使い、事前に手術計画を立て始めている。

デジタル・パーソナル・アバター

患者の心臓の働きを理解する最善の方法は、実際に動く様子を見ることだ。そのため、拍動する「仮想」心臓の試作品が開発されている。身体を可視化することは、長らく医学的発見の中心にあった。今日、高度な技術は、見ること、そして発見することに大胆な新しい可能性をもたらしている。映画で使われる驚くべきコンピューター生成画像に着想を得た「シネマティック・レンダリング」という手法は、CTやMRIスキャンの生データを組み合わせ、アルゴリズムを用いて光と影の複雑な動きを三次元で再現する。生きた組織に光がどう浸透するかまでモデル化する。こうして、骨、筋肉、臓器、血管、神経を3D画像として描き出せる。医師はその内部や周囲を自由に見て回ることができ、これまで不可能だった見方で身体を観察できる。

この方法で最初に精密なモデルが作られた臓器は心臓だったが、脳を含む他の臓器のデジタルツインも開発されている。いずれは、個々の患者の全身を再現したデジタルツイン、つまりデジタル・パーソナル・アバターが実現するだろう。

応用範囲は幅広い。がん外科医は、腫瘍が健康な組織に対してどのような位置にあるかを正確に評価できるようになる。整形外科医は、高度な3D画像を使って複雑な骨折の形状を可視化できるようになる。カーディフ大学脳研究画像センターでのパイロット研究では、科学者たちがシネマティック・レンダリングを用い、多発性硬化症に関連する脳内の神経線維を研究している。

専用の計算モデルを使えば、マクロとミクロの両方のレベルでデジタルツインを作成できる。臓器の形や構造を可視化するだけでなく、細胞を構成するタンパク質や遺伝子を含め、細胞レベルでの生体分子プロセスをシミュレーションできる。最新の画像技術では細胞の代謝変化まで検出できるため、がん細胞と健康な細胞を見分けることも可能になる。

予測モデリング

つまり、デジタル・パーソナル・アバターは、精巧な解剖学的モデルをはるかに超えるものとなる。患者の細胞、分子、遺伝、臨床に関する情報を取り込む。個別化医療の最先端として、患者一人ひとりの病状に固有の特徴を医師が深く把握する助けとなる。患者の遺伝的・分子的な構成を事前に知ることで、特定の薬が効く可能性や適切な投与量を医師が判断できる。予測モデリングによって、健康上の問題が臨床的に表れるずっと前に検出できるようになる。患者の生涯を通じて収集したデータは、加齢と健康について深い洞察をもたらす。

こうしたことが可能なのは、人工知能と機械学習を使って膨大なデジタル情報を分析できるからだ。手元にあるデータの規模を示す例として、シーメンス・ヘルシニアーズは、MRI、CTなどの画像技術で収集し、関連する臨床情報を付与した1億件を超える画像のデータベースを構築しており、AIアルゴリズムの学習に利用している。目指すのは、さまざまな疾患の診断と治療を医師がより適切に行えるよう支援するアルゴリズムの開発だ。

データを共有し、保護する

分析できるデータが増えるほど、得られる知見も増える。しかし、機微な健康データの管理は複雑だ。現時点では、医療データの共有には、競争上、規制上、また実務上の大きな障壁がある。ひとつの方法は、共通の保存・通信システムを使い、データ共有に同意するパートナーに開かれたデジタル「エコシステム」を構築することだ。

患者個人にとっても社会全体にとっても、健康データを共有すれば大きな価値が得られる。しかし、デジタル・パーソナル・アバターの時代に、患者個人のプライバシーを守りながら、医療全体の向上という共通の利益のためにデータを利用可能にするにはどうすればよいのだろうか。暗号資産ビットコインの成功は、有用なモデルとなる可能性がある。ビットコインはブロックチェーン技術を使い、データを個別のブロックに分割して、共通のプロセッサーに接続されていない分散型データベースに保存することでデータを保護する。暗号鍵を持つ人、たとえば患者や医師だけがデータにアクセスできる。それ以外の人がデータの個別部分を共有できるのは、許可を得た場合に限られる。ブロックチェーン技術により、デジタルツインをそれぞれの本人と関連付けると同時に、第三者とは匿名でデータを共有できるようになる。

デジタル化が命を救う

10年前なら、外科医がバーチャルリアリティ用のゴーグルを装着し、患者の心臓をデジタル画像で見ながら手術を進めるという発想は、非現実的に思えただろう。10年後には、デジタルツインは医療の標準的なツールとなり、今日では想像もできない驚くべきことが目前に迫っているだろう。ノーベル賞を受賞した核物理学者ニールス・ボーアは、「予測は非常に難しい。とりわけ未来の予測は」と名言を残した。確実に言えることが一つある。医療のデジタル化は精密医療を拡大し、医療提供のあり方を変え、患者の体験を向上させる。そして、医療提供者がより低コストで、より良い成果を上げる助けとなる。心臓の構造からがん細胞上のタンパク質の形に至るまで、ほぼあらゆるレベルで患者個人の身体をモデル化する能力は、生物医学に深い新たな知見をもたらし、命を救うことにつながる。

結合双生児として生まれ、高度な3D画像技術のおかげで無事に分離されたペイズリー・マルティネスとペイズリン・マルティネスという幼い姉妹が、その生きた証しだ。

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