アジア太平洋地域でデータを活用した医療を実現するには

Data-enabled, personalised care has the potential to deliver more sustainable healthcare.
Data-enabled, personalised care has the potential to deliver more sustainable healthcare.Image: UNSPLASH/Jason Rost
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  • アジア太平洋地域は世界で最も人口密度が高く、人口は増加を続けており、さらに高齢化も急速に進んでいます。

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、この地域の医療システムの進化は転換点を迎えました。言い換えれば、データとデジタルイノベーションが持つ可能性を無視できなくなったのです。

  • しかし、基本的なサービスを利用できない大勢の人々にとって、医療データの進歩は、医療を受けられる人々と受けられない人々との格差をさらに広げるだけです。

  • データを活用した個別化医療は、イノベーションへのアクセス拡大と患者の治療成果の向上を通じて、より持続可能な医療を実現する可能性を秘めています。

アジアは、40を超える国々の人々と文化が織りなす、実に多様性に富んだ地域であり、世界人口の半数以上を占めています。この地域が抱えるニーズや課題は大きく異なります。とりわけ医療に関しては、残念ながら今なお多くの人々が医療を受けられず、すべての人に医療へのアクセスと質の高いケアを提供することが課題となっています。

パンデミックは、アジア全域で医療提供におけるイノベーションの導入を加速させる契機となり、医療の大きな課題に取り組むうえでデータや新たなデジタルツールが持つ可能性を浮き彫りにしました。しかし、基本的なサービスを利用できない大勢の人々にとって、インターネットのようなサービスへのアクセスがないなか、医療データとデジタルイノベーションの進歩は、医療を受けられる人々と受けられない人々との格差をさらに広げるだけです。

とりわけ重要なのは、こうした課題には時間的な猶予がないということです。アジア太平洋地域は世界で最も人口密度が高く、人口は増加を続けており、さらに高齢化も急速に進んでいます。この地域の患者の大多数に十分な医療を提供できていない医療システムは、増大する圧力に耐えられなくなるでしょう。長期的で持続可能な医療の解決策を導入しなければ、医療資源は減り続けます。データを活用した個別化医療は、イノベーションへのアクセス拡大と患者の治療成果の向上を通じて、より持続可能な医療を実現する可能性を秘めています。

持続可能な医療システムに向けた個別化医療の構築

個別化医療は、実世界データから得られる知見を個々の患者の医療データやゲノムデータと照らし合わせて活用し、患者を医療システムの中心に据えます。これにより、より精密な治療方針の決定が可能になります。患者にとって、データに基づくこのアプローチには明確で飛躍的なメリットがあります。より良い治療成果と生活の質の向上につながる、精密な治療を受けられることです。

デジタル医療と個別化医療は、資源を効率的に投じ、より効果的に優先順位を付けることで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)のような目標の前進にも重要な役割を果たします。また、実世界データを活用して医療へのアクセスや費用償還に関する判断を行い、最も必要とされるところに資源を配分する機会ももたらします。

集約データを通じて、集団についてより深く理解できることも重要です。個々のデータポイントを大量にまとめることで、集団の健康に影響する要因と、それらが相互にどう作用するかを把握できます。こうした情報を活用すれば、満たされていない医療ニーズに応える医薬品の発見を加速し、臨床試験の設計を改善し、患者に最適なケアを提供し、より効果的な公衆衛生施策を策定できるようになります。

個別化医療は、個々の患者の疾病を治療・予防することだけを意味するのではありません。将来の世代に向けて医療システムを再考し、再設計することでもあります。

デジタル格差の解消

個別化医療は現在と将来の医療課題に対する効率的で効果的な解決策ですが、その恩恵を十分に実現するには、データから得られる知見を分析、共有、活用するためのインフラが必要です。データ共有を促進する柔軟な規制の枠組みも求められます。プライバシーとセキュリティを基盤としてデータの可能性を引き出し、医療データを有用な知見へと変えるためです。

データを活用した医療がすでに世界各地でゴールドスタンダードになりつつあることは心強いことです。欧州や中東では、このアプローチの導入に向けて大きな進展が見られます。2020年、サウジアラビアはサウジ・データ・人工知能庁(SDAIA)の設立を発表し、大規模なデータインフラの基盤を築きました。

アジア太平洋地域ではデジタルインフラの整備が確実に進んでいますが、その進展は地域内で一様ではありません。アジア太平洋個別化医療指数における医療情報の各国スコアは、100点満点で34点から81点まで幅があります。アジア太平洋個別化医療指数。

データの相互運用性と拡張性に関する規制の枠組みを改善し、臨床現場と実世界の双方で、より厳格かつ責任あるデータ収集を進めるには、強い集団的な取り組みが必要です。今こそ、アジア太平洋地域全体でデータの相互運用性とセキュリティを確保し、デジタルヘルスのイノベーションへの公平なアクセスを実現するための政策と枠組みを整える機会です。

協働が共通の成功の鍵

これらを実現するには大規模で困難な取り組みが必要であり、協働とパートナーシップが成功の鍵となります。幸い、すべての人に質の高い医療を届ける取り組みを担うのは、政府だけではありません。

官民セクター、患者団体、非営利団体、学術界、産業界のパートナーシップは、データ共有のベストプラクティスの普及を加速し、単独の組織では解決できない社会課題に取り組むことができます。患者がデータを活用した医療の可能性から恩恵を受けられるよう、必要なガバナンスとインフラを整え、関係者間の緊密な協働を築く必要があります。

こうした協働が可能だと分かるのは、実際に機能する様子を見てきたからです。シンガポールでは、ロシュがシンガポールがんトランスレーショナル研究コンソーシアム(STCC)、シンガポール国立がんセンター(NCCS)、シンガポール国立大学がん研究所(NCIS)、国立大学病院(NUH)など、さまざまな国内組織と連携し、個別化医療を全国的に導入するための重要なインフラを整備しています。これらの関係者は、医学的専門知識、研究から得られる知見、データ資源を持ち寄り、シンガポールで臨床・ゲノムデータベース(CDGB)を構築しています。このデータベースでは、匿名化された患者データを用いて、臨床プロファイルに基づき、一人ひとりに対するより精密な治療方針の決定を支援します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、この地域の医療システムの進化は転換点を迎えました。データとデジタルイノベーションが持つ可能性を無視できなくなったのです。パンデミックは、医療エコシステム全体で共有する医療のビジョンに私たちを近づけ、健康をすべての人にとっての優先事項とする必要性を改めて示しました。この勢いを生かしていく必要があります。個別化医療には、アジア各地の医療システムがともに強くなり、世界中の患者に最大の効果をもたらすための、革新的な分野横断型パートナーシップが求められるからです。

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