ウガンダの洞窟で見つかったエジプトルーセットオオコウモリの新たに解読されたゲノムから、コウモリが致死性ウイルスを保有・伝播しても自らは発症しない仕組みを知る手がかりが得られた。
研究者らは、2008年に起きた事例を調査していた。コロラド州在住の44歳の女性が、ウガンダで2週間のサファリ旅行を終えて帰宅した後、激しい頭痛、悪寒、吐き気、嘔吐、下痢を発症した。その後、発疹、腹痛、疲労、混乱も現れた。
医師らは最終的に、彼女の病気をマールブルグ病と診断した。これはエボラウイルスと同じ科に属するウイルスによる病気で、人に感染する病原体の中でも特に致死性が高い。女性はパイソン洞窟を訪れた際、コウモリの糞で覆われた岩に触れて感染した可能性が高かった。彼女は生還したが、同じ洞窟を訪れてウイルスに感染したオランダ人旅行者は命を落とした。
「この伝播では、具体的に何が起きているのでしょうか。動物は、非常に長い間ウイルスを宿すことで何を得るのでしょうか……」
「Rousettus aegyptiacus(エジプトルーセットオオコウモリ)のゲノムには、哺乳類の免疫系に関係する遺伝子ファミリーが予想を上回る規模で含まれている。具体的には、他の哺乳類の対応する遺伝子とは大きく異なる、インターフェロン遺伝子とナチュラルキラー遺伝子の大きなファミリーが見つかった。
『Cell』で報告されたこの研究成果は、将来的にウイルス伝播の理解を深め、感染した人々に対する治療の改善につながる可能性がある。
「コウモリから学ぶことは、薬剤の開発に役立つかもしれません」と、ボストン大学の微生物学教授で、本研究の共同上席著者であるトーマス・ケプラー氏は述べる。もう一人の共同上席著者は、米陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)のグスタボ・パラシオス氏だ。
「さらに重要なのは、人獣共通感染の伝播、つまり動物が症状を示さずにウイルスを宿し、人にうつす仕組みの理解に役立つ可能性があることです。この伝播では、具体的に何が起きているのでしょうか。動物はウイルスと共進化するほど長い間ウイルスを宿し、それが別の宿主にうつったとき、その宿主内で高い病原性を示すことで何を得るのでしょうか」
致死性のウイルスを運ぶ
コウモリは狂犬病を媒介するため、長年ウイルス学者の関心を集めてきたとケプラー氏は言う。コウモリが狂犬病にかかることはあるが、それで死ぬことはめったにない。
「そのため、コウモリと、少なくとも狂犬病ウイルスとの間には、何か特別な関係があるのではないかと以前から考えられていました」
1990年代、マレーシアでニパウイルスが流行し、数十万頭のブタが死亡した。科学者らは流行の原因をコウモリと突き止めた。「これをきっかけに、コウモリとウイルスの関係への関心が一気に高まりました」とケプラー氏は語る。現在、コウモリはマールブルグウイルスやSARSに似たコロナウイルスなど、複数の致死性病原体を保有し、咬傷や唾液、糞便、尿への接触を通じて病気を伝播させることが知られている。
しかし、コウモリが自らは命を落とすことなく、これほど致死性の高い病気をどうやって保有できるのか、科学者らにはまだ正確には分かっていない。そこで、米疾病対策センター(CDC)のウイルス性特殊病原体部門に所属する科学者ジョナサン・タウナー氏は、ウガンダでのマールブルグ熱による死亡例に関与したエジプトルーセットオオコウモリの群れを調べることにした。ウガンダに赴き、感染していないコウモリを捕獲してCDCに持ち帰った。
CDCでは、科学者らが1匹のコウモリからDNAを抽出し、初期の配列解読のためUSAMRIIDの同僚に送った。USAMRIIDの科学者らはデータをボストン大学に送り、そこでケプラー氏の研究室に所属する医学・博士課程の学生で、新しい論文の筆頭著者であるステファニー・パブロビッチ氏のもとに届いた。
ゲノムから見つかった意外な点
パブロビッチ氏はUSAMRIIDの同僚ショーン・ラベット氏とともに、ゲノムを丹念に組み立てるのに2年を費やした。その後、エジプトルーセットオオコウモリのゲノムを、他の数種のコウモリ、人間、モルモットなど、他の哺乳類のゲノムと比較した。まず幅広く調べ、次に哺乳類の免疫系に関係すると知られている領域に焦点を絞った。
「このコウモリの進化の歴史を踏まえ、予想より大幅に増えたり減ったりした遺伝子ファミリーを探しました」とパブロビッチ氏は言う。また、新しく有用な遺伝子変異を集団内に広げる進化過程である「正の選択」の証拠がある遺伝子も調べた。
「その結果、このコウモリで進化速度が速まっていた遺伝子をいくつも見つけ、さらに予想よりはるかに大きな遺伝子ファミリーも複数見つかりました」
「予想より大きい」リストの上位にあった2つの遺伝子ファミリーは、1型インターフェロン遺伝子と、ナチュラルキラー(「NK」)細胞受容体だった。1型インターフェロン遺伝子は、ウイルスに対する「第一防衛線」と呼ばれることが多く、マールブルグウイルスやエボラウイルスなどのフィロウイルスによる病気の経過にも関与している。
ナチュラルキラー細胞は、人間の免疫系に欠かせない要素であり、ウイルスに感染した細胞をすばやく認識し、反応することができる。エジプトルーセットオオコウモリでこれらが見つかったのは意外だったと、パブロビッチ氏は言う。
「これまで複数のコウモリのゲノムを調べても、従来型のNK細胞受容体は見つかっていませんでした」と彼女は言う。「ところが、今回これらの遺伝子を見つけて、実はコウモリにもNK細胞受容体があることが分かりました。それも、特異なグループのものです」
これを受けて彼女は、以前に配列が解読されたコウモリのゲノムを改めて調べた。異なるツールを使ったところ、そこでもナチュラルキラー細胞受容体を見つけることができた。
この初期の研究結果は、ケプラー氏が「穏やかな防御」と呼ぶ、コウモリの免疫系による防御の可能性を示している。「コウモリでは、活性化と抑制が他の多くの生物よりも密接に絡み合っています。コウモリは、全面的な攻撃を仕掛けずにウイルスの増殖を抑えようと、短期間ウイルスをなだめているのかもしれません。ここでは非常に興味深いことが起きています」
研究者らは、興味深い成果ではあるものの、致死性ウイルスに対するコウモリ特有の免疫をより深く理解するための第一歩にすぎないと指摘する。
「次の段階は、余分な遺伝子が実際に何か働きをしているのかを解明することです」とパブロビッチ氏は問いかける。現在、微生物学准教授のエルケ・ミュールベルガー氏の研究室で、細胞株を使った追跡研究に取り組んでいる。「これほど多くの遺伝子を持つことに利点があるのか、それともただ存在しているだけなのかを知りたいです」
コウモリを尊重する
その間、科学者らはコウモリの駆除ではなく、尊重を呼びかけている。コウモリは生態系にとって重要であり、昆虫を食べる種類は膨大な数の蚊を捕食すると指摘する。
「コウモリに対する自警的な駆除活動によって、一部のコウモリ種がウイルスを保有する率が実際に上昇したことを示す証拠もあります」とパブロビッチ氏は言う。「ですから、私は決してそうした活動を支持していません」
本研究は米国防脅威削減局の支援を受けた。

