世界各地の医療制度は、価値の問題に直面しています。医療費が上昇し続ける一方で、患者の健康アウトカムには大きなばらつきがあります。支出した費用に対してどのような成果が得られたかという投資収益率は不明確なことが多く、時にはマイナスとなることさえあります。
朗報があります。この問題には解決策があります。それは、価値に基づく医療制度です。患者のアウトカムと費用を継続的に改善することに焦点を当てます。
しかし、残念なことに、真に価値に基づく医療制度へ移行するのは困難です。臨床医は新たな患者データを収集し、医療提供体制を再編しなければなりません。支払者は新たな種類の支払い契約を交渉する必要があります。政府はこうした変革を支える新たな規制を策定しなければなりません。何より、医療分野は非常に複雑であるため、価値に基づく医療制度への変革を実現するには、制度に関わる多くの関係者の協力と賛同が必要です。
この協働の課題を解決する特効薬はありませんが、世界各地の医療制度では、新たな協力モデルの実験が進んでいます。こうした取り組みを支援するため、私たちは価値に基づく医療制度への変革に向けたユーザーガイドを作成しました。このガイドは課題主導型のアプローチを取り、関係者に次の6つの基本的な問いを投げかけるよう促します。
1. 私たちが解決しようとしている価値の問題は何であり、誰にとっての問題でしょうか。
2. この問題に対処するには、どのような関係者が必要でしょうか。
3. この問題の根本原因は何でしょうか。
4. これらの根本原因に対処できる解決策は何でしょうか。
5. 私たちはどのように解決策を実行するでしょうか。
6. 制度全体に拡大できることとして、何を学んでいるでしょうか。
これらの問いが価値に基づく変革をどのように促すかを示すため、肺がん患者にとっての価値向上を目指す架空の国を想像してみましょう。ここでは「ヘルスランディア」と呼ぶことにします。
ヘルスランディアの肺がん対策イニシアチブ
ヘルスランディアは、人口の95%超が民間および公的な支払者を組み合わせた仕組みで医療保険に加入している、小規模な先進国です。同国には、先進的ながん診療プログラムを持つ大学病院が3施設あり、さらに多くの小規模病院もあります。いずれも民間運営です。
ヘルスランディアで肺がんの価値に基づく医療制度を構築する取り組みは、この地域を代表するがん患者支援団体が複数国の健康アウトカムを比較したことをきっかけに始まりました。報告書では、ヘルスランディアの肺がんアウトカムに異例に大きなばらつきがあることが明らかになりました。同国の肺がん死亡率の平均は地域の中央値を上回り、一部の州では、最も成績の悪い国よりも死亡率が高くなっていました。さらに、ヘルスランディアは地域の他国より患者1人当たりの支出がやや多く、肺がん患者全体に対して低い価値しか提供できていないことを意味していました。
この報告書を受け、患者支援団体はヘルスランディアの医療制度の主要なリーダーを招集し、この問題への対処を進めました。グループは、国内最大手の民間支払者、製薬企業および医療技術企業の幹部、保健省職員、大学病院の主要な臨床医、患者代表から成る運営委員会を設置しました。各組織は作業チームにも代表者を任命しました。作業チームは毎週数時間にわたり会合を開き、患者支援団体が運営を担いました。変革の必要性を示す明確な根拠があり、取り組みを進行する政治的に中立な組織もあったことで、グループは協働に向けた強固な出発点を得ました。
しかし当初、作業チームは活動の進め方を定めるのに苦労しました。各組織が問題への対処方法について独自の考えを持ち、誰もがすぐに自分たちの議題を推し進め始めたのです。このアプローチでは合意形成が難しく、参加者間の信頼も損なわれました。
この行き詰まりを打開するため、プロジェクトマネージャーは患者の視点から問題を理解し、その視点を用いて現在の医療制度の限界を特定することを提案しました。このアプローチにより、肺がんの健康アウトカムにばらつきが生じる主な根本原因が明らかになりました。
1. 患者アウトカムの測定に関する課題、特に患者が報告する健康状態の把握が難しく、医療の質を評価しにくくなっていました
2. 肺がん検診率の大きなばらつきにより、患者が可能な限り早期に治療を受けるための紹介を受けられないことがよくありました
3. 患者の薬物療法レジメンの違いは、患者の健康状態よりも、医師が近年登場した多くの新しい治療法を知っているかどうかに左右されていました
価値向上を妨げる制度全体の障壁をより深く理解したことで、作業チームは取り組みを絞り込みやすくなりました。各根本原因に対処するため、次のような対象を絞った解決策を設計しました。
1. 大学病院は、患者のアウトカムと人口統計指標の標準セットを収集し、匿名化およびリスク調整したデータを公開して各施設の実績を比較する、電子カルテ(EMR)に基づくアプローチを試験導入しました
2. 民間支払者は、肺がん検診に患者を紹介したプライマリケア医に少額のボーナスを支払う試験を行い、その支払いが検診率に与える影響を評価しました
3. 保健省は、肺がん患者の薬物療法レジメンに関する臨床アルゴリズムを更新して再公開し、医師の認知度を追跡しました。一方、製薬企業は解決策第1項で得られたデータ(追跡・報告データ)を用いて、自社製品の実臨床エビデンス研究を実施しました
この解決策の組み合わせには2つの利点がありました。第一に、患者にとっての価値向上に幅広い関係者が協力しながらも、民間部門の競争を妨げませんでした。むしろ、本当に重要なこと、すなわち患者アウトカムをめぐって競争するための手段を提供しました。第二に、これらの解決策は「その場しのぎ」ではありません。経験から学び、時間とともに改善できるよう、評価の仕組みを組み込んだ出発点を提供しました。
解決策を設計した組織は、患者と自組織の双方に利点があると考えたため、進んで資源を投入しました。しかし官民協働には、もう1つ重要な要素が必要でした。それは政治指導者の支援です。幸い、政府の主要な代表者が当初からこの取り組みに参加していたため、ヘルスランディアの保健相は喜んで支持を表明しました。
ヘルスランディアの肺がん対策イニシアチブが特定したような解決策の実行は、明確なガバナンスと中立的なプロジェクト管理を必要とする複雑な作業です。制度全体への影響を目指す協働では、リーダーの交代や意見の相違が生じるたびに、必ず課題に直面します。幅広い支援者のネットワークと、創造的な緊張感を保てる協働環境が必要です。しかし、こうした取り組みは、医療制度に関わるすべての人、とりわけ患者自身にとって重要な問題に対処するための大切な第一歩となります。
この取り組みとアプローチの詳細については、次の報告書をご覧ください。医療における価値:医療制度の変革を加速する。


