アジア太平洋地域の医療を患者中心に変える3つの方法

Patients in Jakarta, Indonesia, undergo health screening before being vaccinated for COVID-19.
Patients in Jakarta, Indonesia, undergo health screening before being vaccinated for COVID-19.Image: Reuters/Ajeng Dinar Ulfiana
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  • 個別化診断により、患者を医療の中心に据えることが可能になっている。

  • 大規模なデータ分析によって、患者診断の可能性はさらに広がる。

  • 患者中心の医療を実現するには、技術面で官民が連携し、補助金を整備する必要がある。

1世紀以上にわたり、医療機関は物理的な施設で医療を提供するという考え方を中心に築かれてきた。疾病に関する知識と理解が深まるにつれ、医療は疾病領域ごとに細分化された。その結果、腫瘍学、婦人科、循環器科などの専門分野や専門診療所、病棟が生まれた。

今日、疾病の診断と治療は目覚ましく進歩し、人間の生物学的な複雑さを解き明かして、何が一人ひとりを特徴づけるのかを理解し、個々人の正確なニーズに合わせて専門分野を組み立てられるようになった。例えば、がんには250から300種類の型や亜型があることが分かっている。高度な診断検査やツールを活用することで、医師は疾病の要因を特定し、患者が特定の薬剤にどの程度反応するかをより正確に予測できる。

こうした詳細な情報は非常に貴重である。患者一人ひとりの健康上のニーズにどう対応するかを見極め、特定し、治療し、さらには発症前に予測することを可能にするからだ。何かが起きる前に防ぐのである。これが人類を永遠に変える力を持つことを考えてみてほしい。個別化医療では、患者はもはや医療処置を受け身で受ける存在ではなく、医療制度のまさに中心に位置する。

診断の向上は、医療エコシステム全体に影響を及ぼす力を持つImage: ロシュ・ダイアグノスティックス

既存の体制や制度の惰性により個別化医療の普及は遅れているが、アジア太平洋地域ではシンガポール、オーストラリア、日本などが導入を先導している。

患者に力を

医療に潜む脆弱性を浮き彫りにしたパンデミックを受け、機能不全に陥った医療制度を早急に軌道修正する必要性が高まった。何年も前から検討されていた制度の再設計は、政策立案者の最優先課題へと一気に押し上げられた。この地域の国々がパンデミックから回復するなか、表面的な改善にとどまらず、地域の医療制度を抜本的に見直すことに、より多くの注意を払う必要がある。

医療分野では複数の力が収束し、診断が新たなエコシステムの中核を担うようになると私は考える。大規模な人口データの分析により、量を基準とする断続的な医療から個別化医療への転換が進み、関係者には患者を重視した、より良い成果を実現するインセンティブが生まれるだろう。最終的には、縦割りの壁を取り払い、官民の関係者が連携する機会を増やし、患者を新たな時代へ導くエコシステムとなる。

これを実現するには、次のことが必要だ。

1. 患者中心の医療を支える手段としてデジタルツールを活用する

パンデミックを機にデジタル技術の導入が加速し、こうしたツールが患者ケアの向上に役立つことが示された。ロシュ・ダイアグノスティックスがアジア太平洋地域で委託した分析では、患者と医療提供者の双方でデジタルヘルスサービスを利用する意向が高まっていることが示された。特に、遠隔医療を用いた遠隔診療や慢性疾患の管理でその傾向が顕著である。

自己診断アプリの利用にも、デジタル以外の分野で見られるのと同様の傾向がある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者による自己検査が広がり、子宮頸がん検診では自己採取が導入されている。こうしたことから、デジタルツールはトラッカーやウェアラブル端末からデータを収集するだけのものではなくなる。患者による自己検査やスクリーニングが日常的になるにつれ、今後も利用が拡大するだろう。

マクロな視点では、デジタル技術は効果的かつ効率的な医療を実現し、医療制度全体のパフォーマンス向上に役立つ。非効率性による医療制度の無駄は、低・中所得国に限った問題ではない。OECD諸国の医療制度では、医療支出の20%が無駄になっており、その額は年間1兆3,000億ドルを超える。データとデジタル技術を活用すれば、この額を削減できる可能性がある。比較的控えめな30%の削減でも、年間約4,000億ドルに相当する。

こうした技術の普及を促し、実社会のエビデンスを生み出すには、安全かつ確実な方法でデータの相互運用を可能にする環境を医療制度が整えることが不可欠だ。そうすれば個人データを集約して人口データセットへと拡大し、政策決定の改善につなげられる。

2. 患者ケアの向上にインセンティブを設ける

医療のルールを見直せば、最も重視すべき対象である患者に価値を置けるようになる。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、世界が立ち止まるなかで患者ケアを支えるさまざまなツールやモデルを試せる環境が生まれた。しかし、旧来のやり方に戻ってはならない。医療提供者が予防的、先回り型、個別化されたケアを提供するインセンティブがなければ、真に患者を重視した医療は実現しない。

遠隔診療に対する補助金を患者が利用できるようにするなど、医療費の償還を支援する政策や、単一の支払者に経済的負担を集中させず、複数の関係者に費用を分散する資金調達モデルは、アクセスの拡大とデジタルヘルスソリューションの持続可能な普及を促す鍵となる。医療制度が高度に分断されたアジア太平洋地域では、多くの制度がデジタルヘルスソリューションの利用に関する償還の枠組みを導入している一方、まだ導入していないところもある。

3. 診断情報の価値を認識する

最新の「ランセット診断委員会」の提言が示すように、「各国は、統合された階層型ネットワークに基づく国家診断戦略を策定すべきであり、その戦略にはエビデンスに基づく必須診断リスト(EDL)を含めるべきである」。これは、予防から診断、治療のモニタリングまで、医療のあらゆる段階で診断の役割を制度化することを意味する。患者情報を医療制度のあらゆる階層で安全かつ円滑に統合し、先回り型の個別化医療の恩恵を生かすことができる。

医療の「コスト」を投資として捉え直す時が来た。診断への資金を増やすという単純な見方で医療支出を捉えるのではなく、診断情報の包括的な価値を把握すれば、患者と社会に広範な影響が及ぶことを認識する必要がある。

患者にとっては、自分のニーズに合わせた意思決定が可能になる。医療制度にとっては、より早期かつ効果的な介入につながり、その結果、コスト削減と資源の効率的な活用が実現する。政策立案者にとっては、より大規模なデータセットに基づく、エビデンスに裏付けられた意思決定の指針となる。

診断ジャーニー・アトラスは、診断が医療制度に有意義な影響をもたらし、健康成果の向上につながる様子を描き出している。既存の財政構造を見直す道のりは長く、課題も伴うことは間違いない。それでも、すべての国が価値評価の枠組みを再考することで恩恵を得られる。

私たちは、医療の歴史における重要な転換点にいる。患者ケアの向上に貢献してきた診断ツールは、何十年もの間、主流から外れた存在だった。その重要な役割に注目が集まるまでにパンデミックを待たねばならなかったが、もはやその価値を無視する余裕はない。こうしたイノベーションの力を生かし、生活を改善し命を救う診断へのアクセスを広げることで、私たちはより良く、より健康な世界というビジョンを共に実現できる。

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