自宅で行う遺伝子検査がこの20年ほどで急速に広がったことで、自分が何者で、どこから来たのか、そして健康の未来に何が待ち受けているのかについて、驚くほど多くの知見が得られました。また、科学界にはかけがえのない、しかも膨大なデータがもたらされました。
世界中の何百万人もの人々が、自分の家の居間で頬の内側を綿棒でぬぐい、家族の健康について理解を深めようとしています。こうした任意の検査参加者の遺伝子プロファイルを手に、研究者たちは、長年医学の知見では解明できなかった病気をより細かく理解し始めており、新たな病気の発見にもつなげています。
研究者たちはそのデータを使い、科学が治療不可能と宣言していた病気の治療法を改良したり、まったく新たに開発したりもしています。そこから、不治の病を治すという展望は、かつてないほど現実に近づいているように見えます。
こうした「消費者直販型」の遺伝子検査がさらに一般の人々にも利用しやすくなる(つまり、検査がより手頃で使いやすくなる)ほど、研究者が扱えるデータも増えていきます。データが増えれば、さらなる投資も確実に呼び込まれるでしょう。そして投資が増えれば、病気の克服に向けた進歩も急速に進むはずです。検査で何が分かるかだけでなく、いつ分かるかという点でも進展が期待されます。
病気の通知表
新生児が病院の毛布や編み帽子だけでなく、さらに何かを携えて退院する時代が近づいています。親は、費用を抑えながら精度の高い子どもの遺伝子プロファイルを持ち帰れるかもしれません。マサチューセッツ州ケンブリッジにあるブロード研究所の心臓専門医で研究者のアミット・ケラは、これをポリジェニック・スコアと呼び、より一般的な言い方では、いわば遺伝子の通知表だと説明しています。
「私が思い描くのは、幼いうちに基本的には通知表を受け取るようになることです」とケラは『MITテクノロジーレビュー』に語りました。「そこには、10の病気についてあなたのスコアが示されます。心臓病は90パーセンタイル、乳がんは50パーセンタイル、糖尿病は下位10パーセントに入る、といった具合です。」
想像してみてください。子どもの健康リスクを示すロードマップです。それは今後数か月や数年だけでなく、子どもの生涯全体にわたるものです。
自分自身と遺伝子との結びつきがさらに明らかになるにつれ、たとえば耳あかの性状から、性格の癖、食べ物の好き嫌いまで、心臓病の生涯リスクだけでなく、子どもについてはるかに多くのことを予測できるようになるかもしれません。
さまざまな病気の遺伝的リスクは、生活習慣や環境など、ある程度自分でコントロールできる要因によって軽減できます。2型糖尿病のような病気のリスクは確かに変えられますが、(ほかの多くの病気と同様に)注意すべき遺伝子は1つや2つではないことが分かってきました。特定の病気の原因となる遺伝子は、数十個ではなく、数百個に及びます。
リスクを知る価値はあるか
人間のゲノムには、さまざまな位置に何千もの遺伝子があります。リスクを評価する際には、特定の病気に関与すると分かっている遺伝子の有無を、ほかの遺伝子との兼ね合いで(通常はパーセンテージで)考慮し、リスクを平均値として示します。特定の病気との関連が確認される遺伝子が増えるほど、こうした予測の精度は高まります。
リスク評価の改善は、出生時の乳児(あるいはまだ母親の胎内にいる胎児)だけでなく、自分が思っていたより心臓病などのリスクが高いかもしれない私たちにも関わる重要な課題です。
では、病気の予測について知ったとき、私たちは何をすべきなのでしょうか。医療従事者は、その情報をどう扱うべきでしょうか。食事を変える、薬を飲み始める、禁煙する、あるいはフィットネストラッカーを着けることでリスクを軽減できるなら、その情報を行動に移すことができます。病気が避けられないとしたら、将来の医療上の苦難を予測できることは、恩恵なのでしょうか、それとも呪いなのでしょうか。
この議論は、アルツハイマー病のような神経疾患の予測をめぐって、とりわけ重要です。遺伝子検査でアルツハイマー病を発症する可能性が高いと分かり、さらには症状がいつ現れ始めるかまで見当がつくなら、本人は準備する時間を得られるかもしれません。その情報を知る時期は、その人の生き方にどのような影響を与えるでしょうか。
成人になってから、今後10年以内に発症すると告げられた人なら、家族や介護者と希望や必要なことについて相談し、手配を整える時間が得られることに感謝するでしょう。しかし、25歳でその情報を知ったらどうでしょう。15歳なら?あるいは、生まれた日に「アルツハイマー・スコア」を付けられ、避けられない認知機能の低下を知りながら一生を送らなければならないとしたら、どうでしょうか。
こうした問いへの答えは、遺伝子検査の対象となる病気に対して有効な治療法が開発される速度に大きく左右されるでしょう。
子どもの頃に「遺伝子の通知表」を受け取る頃には、加齢に伴う病気を治療する(あるいは進行を逆転させる)選択肢が整い、リスクスコアをほとんど気にしなくて済むようになっているかもしれません。しかし、それまでの間は不確実なことが多いでしょう。健康の行く末についての知識が、その運命に立ち向かう力より先に進んでしまうためです。

