世界各国は、新型コロナウイルスの感染曲線を平坦化するためのロックダウンによって生じた、前例のない生産損失を緩和するため、大規模な財政支援策を打ち出した。
財政政策の発表は、経済活動の刺激、信頼感の向上、失業の削減に効果を上げてきたが、その効果は措置の種類やパンデミックの段階によって異なる。
財政措置は平均して経済活動と信頼感の向上に有効とみられる一方、その効果は導入された措置の種類によっても異なる可能性がある。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、世界各国は、新型コロナウイルスの感染曲線を平坦化するために必要なロックダウンによって生じた前例のない生産損失を緩和するため、大規模な財政支援策を打ち出してきた(Gourinchas 2020、Auerbach et al. 2021、Deb et al. 2020)。これらの措置は規模と範囲の両面で異なり、新興市場国・発展途上国に比べ、先進国では発表された介入策がはるかに大規模だった。また、多様な措置が用いられた。家計や企業に融資や資本注入の形で継続的な流動性支援を提供する緊急支援策は、家計や企業の所得を押し上げる助成金、直接給付、税負担軽減策などの需要支援策と併用された。財政余地の制約も、財政パッケージの規模や性質を決めるうえで役割を果たしたと考えられる。債務残高の対GDP比が高い国ほどオフバジェット措置に依存した一方、財政余地が比較的大きい国ではオンバジェット措置がより多く用いられた(図1)。
図1 種類別の財政措置と債務残高の対GDP比
最近の論文(Deb et al. 2021)では、2020年の財政政策介入の発表を集めた新しい日次データベースを用いて、各国を対象に、財政政策の発表が経済活動に及ぼす影響を定量化した。また、措置の種類、各国の構造的特性(1人当たり所得、財政余地など)、パンデミックの深刻度に応じて、効果がどう異なるかも検証した。
財政措置が経済活動に及ぼす影響
日次、週次、月次で利用可能な経済指標を用いて、発表された財政刺激策が経済活動に及ぼす影響を検証する。日次ベースでは、財政政策の発表が経済の動向に反応して行われる可能性は低く、逆因果への懸念は限定的である。内生性への懸念にさらに対処するため、新型コロナ危機の経済的影響を追跡する目的で最近用いられている日次の活動指標、具体的には二酸化窒素(NO2)排出量、国際線・国内線の運航、移動指標、将来の経済活動への期待を捉える日次の金融変数を使って、日次の発表から遅行する活動指標の影響を取り除いた。
分析結果から、財政政策の発表は株式市場指標の持続的な上昇と関連しており、理論およびAuerbach and Gorodnichenko(2016)の実証結果と一致して、米ドルに対する自国通貨の上昇とも関連していることが示唆される(図2)。週次データでもこの結果が裏付けられ、財政政策の発表後にOECDの経済トラッカー指標が上昇することが確認された。
図2 財政措置が為替レートと株価指数に及ぼす影響(基準値からの乖離、対数)
月次で利用できる、より標準的な経済活動指標への財政措置の影響も検証する。対象は、鉱工業生産(IP)指数、製造業購買担当者景気指数(PMI)、失業率、信頼感を示すOECD景気先行指標(CLI)、ソブリン信用デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドである。このため、Gertler and Karadi(2015)に倣い、日次のショックを月次平均のショックに集計した。分析結果から、財政政策の発表は平均して経済活動に有意な影響を及ぼしてきたことが示唆される(図3)。特に、GDP比1%の財政ショックによって鉱工業生産は0.25%増加し、サンプル全体の平均では財政乗数0.2に相当する。また、財政政策の発表はPMIとCLIを押し上げ、月次失業率を低下させ、ソブリンCDSスプレッドを縮小させることも示されている。
図3 財政措置がIP、PMI、CLI、失業率、ソブリンCDSスプレッドに及ぼす影響(%〔左軸〕、パーセントポイント〔右軸〕)
国の特性が果たす役割
財政刺激策が経済的成果に及ぼす平均的な影響は、国の特性によっても異なる。分析結果から、財政政策の効果は先進国でより大きいことが示唆され、これは先行研究の知見とも一致する(Ilzetzki et al. 2013)。また、危機前の公的債務水準が低い国では、財政ショックの効果が大幅に高いとみられる。債務の大きい国では、民間投資と消費に対するクラウディングアウト効果が通常より大きいためである(Nickel and Tudyka 2014、Furceri and Zdzienicka 2020)。
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図4 国の特性別にみた財政政策発表ショックがIPに及ぼす影響(%)
財政措置の種類とパンデミックの推移
財政措置は平均して経済活動と信頼感の向上に有効とみられる一方、その効果は導入された措置の種類や、厳格な封じ込め措置が実施されているかどうかによっても異なる。分析結果によると、平均して緊急支援策(その大半はオフバジェット措置に分類される)は、需要支援策(主にオンバジェット措置に分類される)よりも効果が高い(図5)。ただし、この結果はパンデミックの進行段階による重要な差異を覆い隠している。供給制約を緩和し、企業の操業と労働者の雇用を維持することを目的とした緊急支援策は、経済活動が制約された数か月間に不可欠なキャッシュフローと流動性の支援を提供したため、ロックダウン中により大きな効果を発揮した。一方、封じ込め措置が緩和される段階では、国内消費の機会が増えるため、需要支援策の効果が大幅に高まる。
図5 種類別およびパンデミックの進行段階別にみた財政政策発表ショックがIPに及ぼす影響(%)






