DNA、遺伝子、ゲノミクスがビジネスでどのような役割を果たしているか、知りたいと思いませんか。この新しい分野の主要企業は誰で、あなたや社会にどのような影響を及ぼしているのか、知りたいと思いませんか。本稿では、ゲノミクスにおける技術的な進歩によって、ヒトゲノミクスが手頃な価格で一般の人々にも利用しやすくなった経緯を説明します。DIYバイオロジーなどの社会運動、遺伝子治療や個別化遺伝子検査を提供する企業、ゲノミクスと人工知能、クラウドコンピューティング、ブロックチェーンの接点で事業を展開する企業が、学術研究者とともに、この画期的な分野に関する知識の構築に加わっています。
このサイクルのなかで、市民はどこに位置するのでしょうか。市民は消費される側なのでしょうか、それとも最終製品なのでしょうか。ここでは、この大規模な変化に市民が果たす役割について、企業がどのような説明をしているのかも紹介したいと思います。
拡大するヒトゲノミクス・ビジネス
以前、ヒトゲノミクスに取り組む企業の対象市場は、学術分野(大学や研究機関)と製薬業界でした。この10年で、新たな対象層として一般の人々が台頭しました。完全なゲノムを読み取れる分子生物学技術の価格が約100ドルまで下がったことが、その背景にあります。新旧の多くの企業が、スタートアップも含めてこの機会を活用してきました。2022年までに、ゲノミクス・ビジネスは240億ドル規模の産業に成長すると予想されています。

こうした新しい企業は何を提供しているのでしょうか。
1. 遺伝子治療: 科学の進歩と分子生物学の新技術により、大手製薬企業は患者の欠陥遺伝子を編集(修正、置換、変更)できるようになっています。こうした企業のなかには、処置の対象を体細胞(卵細胞や精子細胞以外の、体内にあるあらゆる細胞)に限ると定めているところもある点に留意することが重要です。この説明は、とりわけ世界的な論争を巻き起こした遺伝子編集された胚をめぐる中国の事例を考えると、重要な意味を持ちます。
2. 消費者向け直接販売型遺伝子検査(DTC-GT): この分野の企業は通常、顧客に唾液サンプルの送付を求め、そこからさまざまな情報を抽出します。たとえば、特定の病気へのかかりやすさ、特定の能力との関連、プロスポーツ選手との遺伝子の比較、個人に適した食事・運動・化粧品、着るべき服の種類……さらには理想の恋愛相手までわかるとしています。
3. DIYバイオロジー(DIY bio)用の機器・試薬: これらの企業は、専門家ではない人々が自宅で遺伝子工学の実験を行うための製品を販売しています。小動物を使った実験用の遺伝子編集ツールを含む製品もあれば、人間に直接使用できる製品もあります。
4. 遺伝子データの売買: 一部のDTC-GT企業は、顧客の遺伝情報を製薬企業に販売してきました。製薬企業はその情報を、大量の遺伝子データを用いた研究に利用します。

ヒトゲノミクス関連企業は、ほかの技術分野とも重なり合っているのでしょうか。
はい。第4次産業革命を迎えるなか、それは驚くことではありません。現在、ヒトゲノミクス分野には、たとえば次のような技術が取り入れられています。
ブロックチェーン:前述の企業の一部(#4)がすでに顧客の遺伝情報を販売している一方で、ブロックチェーンを通じて一般の人々が自分のDNAデータを販売できる機会を提供する企業も登場しています。この仕組みでは、顧客はオンラインで遺伝情報を売る対価として、DNAトークン(新しい暗号資産)を受け取ります。
クラウドコンピューティング:Apple、Amazon、Googleなどの大手テクノロジー企業は、オンラインで生成されるペタバイト規模の遺伝子データを保存するサービスを提供しています。また、患者の遺伝子データを保存・管理したい病院など、サービス提供のためにこのストレージシステムを利用する中小企業もあります。
人工知能と機械学習:大手製薬企業は、将来の医薬品となる可能性のある何千もの分子を詳細に分析するため、AIと機械学習を活用しています。これは、より多くの人手と、実験室での長時間の実験を必要とする従来の方法と比べて有利です。
新たな顧客を引きつけるため、企業はどのような説明をしているのでしょうか。
多くの企業は、個別化された予防医療や、一人ひとりに合わせた疾病治療といった魅力的な見通しを示し、市民それぞれのニーズに訴えかけています。娯楽性を重視する企業もあり、自分のルーツや祖先を知りたい、自分の性格を理解したい、健康増進のために自分に合った化粧品や食事を得たい、さらにはペットの行動を理解したいと考える人々に響く説明を打ち出しています。ヒトゲノミクスとAIの接点で事業を展開する企業は、科学データは人間が理解するには膨大すぎるため、自社の技術が科学的発見を加速させる最も効率的な手段だと主張しています。最後に、DIYバイオ企業は、科学を民主化しているという考えを広めることで一般の人々を対象にしています。
ヒトゲノミクスにおける市民の役割とは何でしょうか。
こうした新規事業の半数以上は市民を対象としており、影響力の強いソーシャルメディアやマーケティングキャンペーンを活用して、世界中の多くの人々に働きかけています。報告書「『社会におけるオミクス:ヒトゲノミクスの社会的・法的・倫理的側面』では、ヒトゲノミクス・ビジネスの急成長が多くの発展の機会を開いてきた一方で、倫理的・法的な検討事項が見過ごされることもあると指摘しています。この議論に科学以外の分野の人々を加え、次のような道徳的課題を話し合うことが不可欠です。
- DTC-GT企業に関する国際的な指針と品質監視の欠如。
- 遺伝子データの所有権と機密性をめぐる曖昧さ。
- ヒト胚の遺伝子編集。
- 人間やほかの動物を対象とするDIYバイオ実験について、一貫した倫理指針が欠如していること。
政策サイクルに市民を参加させたいのであれば、ヒトゲノミクス分野の発展から生じうる社会的・倫理的影響を市民に示す必要があります。そこで世界中の科学者がこうした問題について声を上げ、より広い層の人々と知識を共有すべきです。そうすることで初めて、急速に発展するこれらの技術に歩調を合わせる、より良い政策の策定に向けた共創につながる、十分な情報に基づいた対話を始められます。
この記事は、共同研究センターの報告書「 『社会におけるオミクス:ヒトゲノミクスの社会的・法的・倫理的側面』」に基づいています。同報告書は、著者がPaulo Rosa氏およびCarlos Pereira氏と共同で執筆しました。

