新型コロナワクチンへのアクセスと接種率には大きなばらつきがあり、先進国ではワクチン接種を受けた人の割合が高い。
ワクチンは感染力の非常に強いデルタ株に対しても効果を維持しているようだが、他の株と比べて追加的な効果は小さい。
しかし、ウイルスの変異を踏まえると、安全な国はないと専門家は記している。
隣国で新型コロナの新規感染者が増えると、自国の感染者も増加することが示唆されている。
ワクチン接種は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、それが引き起こした経済危機から抜け出す道だと考えられている(Gopinath 2020)。しかし、新型コロナワクチンへのアクセスと接種率には、特に初期段階で大きなばらつきがあった。北米と欧州の国々は、アフリカや中東などの地域より早く接種を開始し、接種が進んでいる。所得グループ別に見ると、平均して先進国では、新興国・発展途上国よりもはるかに多くの国民がワクチン接種を受けている。
実証分析(Deb et al. 2021a)では、各国のワクチン接種の進捗に差が生じた要因として、需要側と供給側のどの要因が説明力を持つかを調べるため、接種率の横断的なばらつき(2021年7月時点)を用いた。分析結果によると、2020年の新型コロナ感染拡大の深刻さが最大の要因だった(図1)。感染者数の面でより大きな影響を受けた国(例えば米国)では、2021年上半期の接種率が高く、ワクチン接種を急ぐ必要性が高かったことを反映している可能性がある。また、国民のワクチン接種意向も影響していた(Figueiredo et. al. 2020, Dewatripont 2021)。
早期の調達など供給側の要因は、接種の進む速さを説明するうえで重要な役割を果たした。早期に行動した国(例:イスラエル)と交渉が長期化した国(例:ドイツ)の間で、2021年1月時点の調達済みワクチン(確定済みおよび見込みの契約)の差は、接種率の4パーセントポイントの差と関連している。ワクチンの国内生産も重要で、接種率の上昇と接種の加速に結びついている。これは、中国のような生産国がより多くのワクチンを確保し、より迅速に接種できることを反映している。さらに、病院や医療施設、人口当たりの医師数といった医療インフラも寄与した。
図1 ワクチン接種の進捗を左右する要因
ワクチン接種の進捗に影響する要因(各要因が標準偏差1つ分変化した場合の、人口100人当たりの接種回数への影響)
保健危機を終わらせるためのワクチン接種
大規模な国のサンプルに関するリアルタイムデータを用い、人口当たりのワクチン接種が健康上の結果に及ぼす影響を定量化した。新型コロナの新規感染者数、死亡者数、集中治療室(ICU)への入室者数の日次データに加え、感染抑制策、パンデミックの状況、ウイルスの優勢株に関するデータを使用した。
分析結果は、疫学研究(Dagan et. al. 2021, Hall et. al. 2021など)と一致し、新型コロナワクチンが感染、死亡、ICU入室を減らすうえで有効だったことを示している。人口当たりの初回接種率が10パーセントポイント上昇すること(2021年2月から3月初旬にかけてのシンガポールの接種進捗に相当)は、21日後の日次新規感染者数が人口比で–0.01パーセントポイント(標準偏差の約半分)減少し、実効再生産数(感染者1人から生じる二次感染者数)が–0.14パーセントポイント低下することと関連している(図2)。さらに、ワクチン接種は新型コロナ関連のICU患者数と死亡者数を減らし、医療インフラへの負荷軽減にも役立つ。
疫学研究の知見と同様に、ワクチンの接種後には健康面での効果が高まり、2回目の接種はウイルスの実効再生産数を下げることで、パンデミックの感染曲線をさらに平坦化することに寄与する。また、ワクチンの有効性は優勢な新型コロナ株によって異なることを示す証拠もある。ワクチンは感染力の非常に強いデルタ株に対しても効果を維持しているようだが、他の株と比べて追加的な効果は小さい。
ワクチンへのアクセスをめぐり、世界経済フォーラムはどのような取り組みを行っているのか?
図2 新型コロナワクチンが健康上の結果に及ぼす影響
(人口比、新型コロナ感染者に占める割合)
ワクチン接種による波及効果
ウイルスがより感染力の強い株へ変異していることから、ワクチン接種率が高い国も含め、安全な国はないと考えられる。実際、インドから近隣諸国へのデルタ株の急速な拡大は、感染拡大の長期化による国境を越えたリスクを浮き彫りにしている。例えば、デルタ株がインドで優勢になった後、1~3カ月の間にASEAN諸国と北米でも優勢なコロナウイルス株となった(図3上段)。
波及効果を明らかにするため、実証分析では地理的な近接性と貿易関係に基づき、近隣諸国の「国外」新型コロナ感染者数とワクチン接種の状況を示す日次の代理指標を作成した。分析結果は、国境を越える人の移動によって感染が広がるため、近隣諸国の新規感染者数が自国の感染者数の増加につながることを示している(図3下段)。一方、近隣諸国で接種が進むことによる好ましい波及効果もある。こうした波及効果は、ワクチン生産を拡大し、余剰分の融通も含め、すべての国に十分なワクチンを配分するための国際協力が必要であることを強く示している(Lamy 2020)。
図3 新型コロナ感染拡大による波及効果
a)デルタ株が新型コロナ感染者の50%に達するまでの日数(日)
b)近隣諸国の新型コロナ感染者数とワクチン接種が各国の健康上の結果に及ぼす影響(人口比)




