新型コロナウイルス感染症のパンデミックをめぐる最も有用な地図やデータの可視化は、危機を理解し、対応し、回復するために役立ってきた。
複数の地図が、計算手法を組み合わせて新型コロナウイルス感染症の潜在的な感染拡大を推定しようとしている一方、パンデミックの社会経済的影響を追跡するものもある。
特に低・中所得地域の市政府や医療提供者を支援する、新たなデータ主導型ツールが開発中であり、将来の感染症流行の計画と管理に役立てることを目指している。
2020年前半、世界人口の3分の2以上がロックダウン下にあったとき、多くの人々がくぎ付けになったのは、ある地図だった。ジョンズ・ホプキンス大学の研究者が作成した、赤と黒を基調とする不安をかき立てる表示は、過去100年で最も壊滅的なウイルスである新型コロナウイルス感染症の推移を追跡している。
この地図は、リアルタイムの人数として、約190か国における新型コロナウイルス感染症の感染者数と死亡者数を示している。すでに2億回以上閲覧されており、地図が私たちの世界の見方や関わり方を形づくることを思い起こさせる。私が共著者として新たに出版した書籍『Terra Incognita』が示すように、地理画像技術とデータサイエンスの目覚ましい進歩は、新型コロナウイルス感染症のような感染症の流行を含む危機の予防、対応、復興の改善に役立っている。
新型コロナウイルス感染症に対する私たちの理解と行動は、地図から大きな影響を受けている。2019年末に中国の都市、武漢で初めて確認されて以来、その致命的な感染拡大を図示するデータ可視化が次々と登場した。情報量はそれぞれ異なる。適切に設計・作成された地図は、世界規模からきわめて地域に密着したレベルまで、認識を高め、より賢明な意思決定を促すことができる。
しかし、地図の力はそれを支える情報の質に左右される。データの出所と解像度が、その有用性を決める。新型コロナウイルス感染症の広がりや影響を空間的に示す方法は一つではないが、際立つ地図はいくつかある。ジョンズ・ホプキンス大学が作成した地図に加え、新規感染者と死亡者を記録する世界各地の主要なダッシュボードが複数ある。最も権威あるものの一つは、世界保健機関が監督するもので、国ごとの感染者数を更新している。WHOと連携するワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI)は、活動対象の72か国における確定症例数と死亡者数の情報を提供している。さらに詳細な情報を提供する同様の国際ダッシュボードとして、HealthMapがある。
地理空間マッピングを専門とする企業、たとえばCarto、ESRI、MapBoxも、幅広い地図ツールのリポジトリをまとめている。これらの企業は、政府、企業、保健機関、草の根団体が新型コロナウイルス感染症への対応と復興を改善できるよう、高度なソフトウェアと使いやすいダッシュボードを開発してきた。
都市を対象とする新型コロナウイルス感染症のマッピング・プラットフォームも増えている。オタワやトロントからロサンゼルス、ニューヨークに至るまで、各地の自治体が感染率、回復率、死亡率、地域の医療提供能力を追跡するシステムを開発している。都市当局が基本的な地理画像ソフトウェアを使ってリアルタイムの地図システムを構築できるよう、ライセンス製品を提供する企業もあれば、製品を無料で提供する企業もある。
こうしたツールを使い、人々が自分の郵便番号を入力して感染リスクを把握できるよう支援する団体もある。市民主体の取り組みでは、住民が最新情報を入手できるようオープンソースのツールも開発されている。こうした取り組みから得られる教訓の一つは、シンプルなインターフェースを確保し、リアルタイムのデータ収集を優先することの重要性だ。
感染症の流行に対する人々の社会的・経済的な脆弱性についても、詳しく記録されている。その一例が、RS21の都市健康脆弱性指数だ。これは米国の都市における慢性疾患の総合的な負担を、国勢調査区の単位で測定する。健康指標と人口統計指標を組み合わせ、総合スコアを算出する。RS21は、米国疾病予防管理センター(CDC)の社会的脆弱性指数を参考にしている。同指数は、貧困、自動車を利用できないこと、過密な住居など15の変数を地図化する。
一方、オンライン上で広がる新型コロナウイルス感染症関連の誤情報や偽情報を捉える取り組みも進んでいる。その顕著な例が、CoMuNe Labが作成したインフォデミック観測所だ。このプラットフォームは、数億件に上るソーシャルメディアの投稿を分析し、世論の変化、ボットの増加、オンラインで共有される情報の信頼性を読み解く。
関連する例として、イベント・言語・トーンのグローバルデータベース(GDELT)がある。これは、新型コロナウイルス感染症について最も頻繁に取り上げられる報道などを追跡する。政府による備えの計画発表から、社会がパンデミックをどのように受け止め、位置づけ、理解しているかまで、あらゆる話題への言及を追っている。2019年12月下旬にウイルスを最初に検知した組織の一つであるBlueDotは、GDELTが提供するデータを活用した。
複数の地図が、計算手法を組み合わせて新型コロナウイルス感染症の潜在的な感染拡大を予測している。EpiRiskは、航空便データを用いて感染者が国外へ移動する確率を算出する。COVID Near Youは米国で開発された任意の自己報告プラットフォームで、個人が症状を追跡できる。同様に、Facebookは匿名化した移動データを公開し、身体的距離の確保が新型コロナウイルス感染症の封じ込めにどの程度役立っているかを示している。一方、SafeGraphは、毎日、自宅待機(シェルター・イン・プレイス)を続けている人口の割合を追跡している。
政府の対応を追跡する強力なプラットフォームが、オックスフォード大学によって最近開発された。同大学の政府対応トラッカー(OXCGRT)は、17の指標を地図化し、封じ込めや閉鎖、経済政策、保健医療制度に関する政策を追跡する。基礎データは4つの共通指数(0~100)に統合され、政府の措置の厳格さを示す。
地図の作成者が成果物の質を高められるよう、多くの民間団体や非営利団体がデータセットを無料でオンライン公開している。医療提供能力に関する特に質の高いデータリポジトリの一つが、COVIDCareMapだ。この団体は、米国に限られるものの、一般病床数、集中治療室(ICU)病床数、病床稼働率、ICU病床稼働率に関する詳細なオープンソース情報を提供している。ESRIは最近、国単位のマッピング取り組みの一覧とその基礎データの出所を公開した。
無料ではないが、MapBoxのテレメトリーデータは、移動パターンに関する位置情報を1日あたり1,600万件以上提供する。こうした情報を可視化すれば、政策立案者は身体的距離の確保や自宅待機の措置がどの程度守られているかを評価できる。
新型コロナウイルス感染症による社会的・経済的コストも、地理画像ツールを用いて包括的に記録されている。代表的な例は、低所得層の雇用が失われている場所を追跡するアーバン・インスティテュートの地図で、都市圏レベルで状況を示している。ユネスコなどの国際機関は、約12億人の生徒に影響する休校を含め、学校の混乱状況を追跡している。一方、世界食糧計画は世界各地の学校給食プログラムを地図化している。
複数の調査・コンサルティング団体が、これらの手法の多くを組み合わせ、計画立案者が新型コロナウイルス感染症により適切に対応できるよう支援している。UrbanFootprintは、新型コロナウイルス感染症がリスクにさらされる人々にどのような影響を与え、基礎的サービスへのアクセスにどのような差が生じるかを推定するソフトウェアを開発した。また、最も影響を受けやすい雇用分野、公共交通と移動への影響、保健当局が医療サービスや支援をどこに提供すべきかも予測している。
リアルタイム地図が急増しているにもかかわらず、私たちの知識には依然として重大な空白がある。まず、デジタルツールの大半は今も北米、欧州、東南アジアの一部に限られている。例外はあるものの、特にアフリカ、南アジア、ラテンアメリカ、カリブ海地域を含む世界の広い地域では、感染拡大、医療能力、社会的・経済的リスク要因、地域のレジリエンスに関するごく基本的な地理空間情報さえ入手が難しい。
世界経済フォーラムは、コロナウイルスの流行に対してどのような取り組みを行っていますか?
低・中所得地域の政府やサービス提供者に、信頼性が高く使いやすい地図ツールを提供することは、データに基づく予防、対応、復興を拡大するうえで不可欠だ。市当局が使う分析プラットフォームには、十分に高い解像度も求められる。国際・国内統計を追跡するダッシュボードは、上位レベルの戦略計画には役立つものの、最前線に立つ市長、緊急対応チーム、医療提供者にはあまり役立たない。
こうしたニーズに応えるため、SecDev Groupは、特に低・中所得地域の自治体や医療提供者を支援するデータ主導型プラットフォームを設計している。都市パンデミック対応・復興指数は2020年に複数の都市と連携して構築され、2021年にはC40、Metropolis、世界市長会議、Mayors Migration Council、Global Resilient Cities Networkなどの都市間ネットワークに提供される予定だ。このプラットフォームは、初動対応者やサービス提供者に対し、医療関連の対応能力、住民の健康を左右する社会的・経済的要因、地域のレジリエンスを高める方法について、タイムリーで実行に移せる情報を提供する。
人々が地図を読み解くなかで、それまで見落とされていたつながりに気づくことがある。公衆衛生機関、研究機関、大学、企業、非政府組織が収集した信頼できるデータを地理画像と組み合わせることで、多くの人々の世界との関わり方が変わりつつある。感染症のような現実世界の現象を可視化すると、目を見張るような発見があり、直感に反することもあれば、新たな理解につながることもある。不確実性を取り除くことで、人々に力を与え、警戒から行動へと移る助けにもなる。





