新型コロナウイルス感染症は雇用と教育に甚大な悪影響を及ぼした。
データは学校を安全に再開する計画や職場復帰の判断に役立つ。
都市レベルのモデリングにより、さまざまなシナリオが感染率に及ぼす影響が明らかになる。
「シティ・バブル」方式は、データに基づく効果的な職場や学校の再開戦略の試行と拡大に役立つ。
パンデミックを受け、感染抑制策によってウイルスの拡大は抑えられたものの、学齢期の子どもや働く人々に避けられない影響が及んだ。約2年が経過した今も、ウイルスの抑制や、新型コロナウイルス感染症が雇用と教育に及ぼす影響への完璧な解決策はない。しかし、都市単位のパンデミックデータのモデリングが、最善の対応を示す可能性がある。
パンデミックを受けた全国的なロックダウンにより、企業の休業や倒産が相次いだ。2020年には労働時間が8.8%減少し、1億1,400万人を超える人々が失業した。学校の閉鎖も教育を妨げ、1億人を超える子どもたちが読解力の最低習熟度を下回った。こうした影響は、フィリピンのように格差が大きい発展途上国で特に深刻だ。
2021年9月時点で、フィリピンの首都圏であるマニラ首都圏では、厳しさの異なるロックダウンが4回実施され、仕事や学校、その他の公共の集まりに対する規制は合計9カ月に及んだ。これらのロックダウンは、教育と雇用の格差を拡大させた。学業のデジタル化は必然的に恵まれた人々に有利に働く。首都圏の学生でインターネットを利用できるのは55%にすぎない。
さらに、公立学校は適応に苦労している。資源や準備が不足しているためだ。フィリピンの失業率も10.3%に達し、過去15年間で最も高くなった。こうした課題を踏まえ、学校やオフィスの再開を助け、富裕層と貧困層の格差拡大を食い止めるには、どのような戦略が有効だろうか。
データを活用し、学校の安全な再開と職場復帰を実現する
パンデミック初期には、ウイルスについて分かっていることが非常に少なく、新型コロナウイルス感染症の広がりや影響を予測するのは困難だった。そのため、フィリピン政府の意思決定は、国内の陽性者数や患者の症状に関する報告に基づいていた。この事後対応型のアプローチと、それに続く外出自粛命令はウイルスの影響を抑えたが、在宅勤務ができない人々の教育や生計が犠牲になった。今、地域社会に必要なのは、パンデミックと、こうした分野で生じた混乱に対する戦略的な対応だ。
適切な戦略を立てる方法の一つは、パンデミックのデータを活用し、過去の感染症流行でも使われたSEIRと呼ばれる計算モデルに投入することだ。このモデルの精度は過去のデータに左右されるが、意思決定者が計画の実施前に先を見越して評価する助けとなる。
このモデルでは、人々を次の感染状態に分類する。
感受性あり ― 健康な人
曝露 ― 感染者と接触した人
感染 ― 感染が確認され、他者に感染させる可能性がある新型コロナウイルス感染症の患者
回復 ― 死亡または回復によって感染状態を脱した人
このように人々を分類すると、時間の経過に伴って各グループ間を移動する割合をシミュレーションできる。この順序づけにより、感染の動態を可視化し、再開の程度、身体的距離の確保、マスク着用など、さまざまな介入策のもとで感染拡大を予測できる。
都市レベルのモデリング
私たちは年齢別の接触データをエージェントベースモデルに組み込み、信頼できるデータが入手できたマニラ首都圏のパシッグ市で試験運用した。その後、次のシナリオをシミュレーションした。
学校:100%再開と50%再開。0%再開を対照シナリオとする
職場:100%再開。すでにハイブリッド勤務を導入している企業もあるため、50%再開を対照シナリオとする
次に、マスク着用と身体的距離の確保の程度を変えた場合、100%の再開が可能かどうかを検討した。
理想的 ― マスク着用と身体的距離の確保がともに100%
中程度 ― マスク着用と身体的距離の確保がともに50%
最悪 ― マスク着用と身体的距離の確保がともに0%。
モデリングによると、パシッグ市では、マスク着用と身体的距離の確保を維持すれば、学校とオフィスを100%再開しても感染者は大幅には増加しない。対策が中程度の場合、学校とオフィスの100%再開によって感染者はそれぞれ3.9%と5.2%増加する。人口10万人当たりでは、それぞれ3,900人と5,200人に当たる。
「シティ・バブル」方式
パンデミックのデータを活用し、介入策が感染拡大に及ぼす影響を予測すれば、より戦略的な再開につながる可能性が高い。しかし、全国一斉に実施すると感染が広がり、健康面や経済面で望ましくない影響を招くおそれがある。
では、これをどのように政策に反映できるだろうか。
新型コロナウイルス感染症のバブル方式は、規制期間中に複数(通常は2世帯)の世帯が互いに直接会えるようにする方法で、ニュージーランド、オーストラリア、英国で導入された。この方式を発展させ、データに基づく再開政策を都市ごとに実施できる。手順は次のとおりだ。
1. まず1つの都市、1つのバブルから始める
単一の都市を選んで試験的な調査を実施すれば、モデルに基づく再開戦略が機能するかどうかを判断できる。選定する都市には、効率的な接触者追跡システムがあり、新型コロナウイルス感染症の流行が深刻な地域ではないことが望ましい。そうすることで、試験運用が失敗するリスクを最小限に抑えられる。
2. まず学校を再開する
私たちのデータによると、再開の方法にかかわらず、学校の再開による小中学生の感染者数は少ない。一方、職場では、50%または100%の再開によって、働く感染者が大幅に増える可能性がある。それでも、学校職員へのワクチン接種や、感染が疑われる人の早期隔離などの感染抑制策を検討すべきだ。
3. 年齢層に応じて再開する
研究によると、子どもは成人よりも新型コロナウイルス感染症に対する感受性が低い。それでも、学校や職場の再開後には、同程度の感染率が見られる可能性がある。子どもの中には無症状の人もいるが、親に感染させる可能性がある。それでも、感受性が最も低い年齢層から始めれば、新たな感染を注意深く監視できる。授業時間の短縮、クラスの縮小、感染対策のタスクフォース設置など、追加の予防措置を講じれば、さらに対策を強化できる。
4. 政策を調整し、他の都市にも適用する
試験段階では、うまくいったことといかなかったことを記録し、ワクチンの有効性、無症状の感染例、ウイルスの変異株に関するデータを用いてモデルを改善することが重要だ。得られた知見は、他の都市でこれらの戦略を拡大し、再現するのに役立つ。パンデミックは、体系的で安全な再開戦略を実現するうえで、政策立案者、医療従事者、科学者、教育関係者、ビジネスリーダーの連携が重要であることを浮き彫りにしている。医療資源が特に限られる発展途上国では、シティ・バブル方式によって、感染拡大と、学校や仕事の長期的な中断がもたらす害とのトレードオフに対処できる可能性がある。

