新型コロナウイルス感染症に打ち勝つため、なぜ国境を越えた科学研究に関する世界的な合意が必要なのか

A pathway towards more effective global scientific partnerships can help the world tackle future viral outbreaks.
A pathway towards more effective global scientific partnerships can help the world tackle future viral outbreaks.Image: Photo by Hans Reniers on Unsplash
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  • パンデミックは、科学への信頼と世界的な協力の必要性を浮き彫りにしました。

  • 新たな取り組みによって、科学の人材と資源を活用し、危機に対処するための、より良い協力関係を築くことができます。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、政策立案者や世界中の科学者に連帯を呼びかけ、共通の脅威に立ち向かうために世界を結集させるものであるべきです。しかし実際には、新型コロナウイルス感染症との闘いは、国家間の競争や政治的緊張に妨げられてきました。こうした分断を乗り越え、科学者が国境を越えて協力できるようにすることが、喫緊の課題です。より効果的な世界的科学パートナーシップへの道筋を見いだせなければ、この感染症や将来のウイルス流行の犠牲となる危険があります。分断が深まる世界で、こうした信頼と協力をどのように築けばよいのでしょうか。

連携の取れた統一的な科学的対応を実現する取り組みは、いくつもの課題によって妨げられてきました。世界各地で政治的緊張が高まるなか、大学や研究者は国境を越えた連携に苦慮しています。陰謀論は、新型コロナウイルスの起源や感染拡大をめぐって緊張を強め、危険なナショナリズムの潮流をあおってきました。ワクチン開発そのものも、商業的優位を目指す国家間の競争となっています。イデオロギーの違いが、データ交換や研究パートナーシップの価値を覆い隠しています。パンデミックを受けて、以前から「科学外交」を求める声が上がっていたにもかかわらず、実際にはほとんど注目されていません。

国内では、多くの国で科学に対する市民の信頼が揺らいでいます。新たな病原体であれば当然のこととして、新型コロナウイルスへの最善の対処法や、感染拡大を防ぐさまざまな措置の有効性について、科学的な不確実性がありました。科学への支持がかつてなく重要な時期に、こうした不確実性が、科学者の知見や提言の信頼性に対する懐疑をあおっています。

この不安定な状況は前例のないものに感じられるかもしれませんが、実際には科学は過去にも幾度となく政治危機を乗り越えてきました。多国間主義が揺らぎ、偏狭なポピュリズムが勢いを増したのは、今回が初めてではありません。歴史から正しい教訓を学べば、現在の分断を乗り越え、世界的な科学協力の可能性を実現できます。

包摂的な科学から排他的な科学へ

冷戦時代、科学は兵器化され、研究者は亡命や暗殺の標的として重視されました。それでも、深い不信の時代にあって、環境研究など特定の科学分野では国際協力が盛んに行われました。その最も顕著な例が、1959年に締結された南極条約です。この条約には、ソ連と米国のような敵対する国々も参加しました。

冷戦終結後には、国際宇宙ステーションの設立に示されるように、宇宙科学と技術の分野で協力が花開きました。核融合エネルギーに関する革新的な研究から、国際熱核融合実験炉(ITER)計画が生まれました。この計画には現在、米国、ロシア、中国、インド、欧州連合、韓国が中核パートナーとして参加し、予算は200億ドルを超えています。

科学協力に向けたこうした前向きな進展は、広範な楽観論を生みました。かつてない規模の学生交流につながり、特にアジアと北米の間、とりわけ中国と米国の間で交流が進みました。『Nature』誌の最新の2019~2020年研究協力指数は、こうしたパートナーシップの広がりを示しています。

Image: 『Nature』

しかし、こうした協力は、機関、企業、政治の利害対立によって脅かされています。エリート大学の研究生産性を高めるために、過重労働を強いられる労働力として利用されていると感じる学生もいます。一方、政府や機関のなかには、海外の商業上・防衛上の利害によって自らの知的財産が損なわれることを懸念するところもあります。相互信頼の現在の低下を食い止めるには、研究に関する協力のルールを明確に定め、それを守るしかありません。

世界的な合意に向けて

科学協力における信頼の欠如を招いた懸念の多くは、科学協力に関する新たな条約によって解消できる可能性があります。その一案は、すでに幅広い条約を有する国連教育科学文化機関(UNESCO)の枠組みで策定することです。

もう一つの、より適切とも考えられる選択肢は、科学者主導の組織を通じて条約を策定することです。そうすれば、政治的な問題や議論から明確に切り離せます。最有力候補は国際科学会議です。同会議には40の国際的な科学連合・学会と、アカデミーや研究会議を含む140を超える国・地域の科学組織が参加しています。

このような合意では、次の6つの重要事項を扱う必要があります。

1. 研究の公正性。研究者の潜在的な利益相反の開示に関する標準規範が必要です。研究の遂行中に民間または公的機関のために行うコンサルティング業務についても、明確に言及する必要があります。

2. 大学や研究機関における留学生の入学基準を、実績に基づいて定めること。積極的差別是正措置やその他の国家的優先事項に基づく定員枠を設ける場合は、署名国の合意に付随する規定のなかで明示する必要があります。

3. 主要分野における重大な脅威の予防に向けた科学的枠組みを確立すること。このような多国間協力では、まずグローバル・バイローム・プロジェクト

への国際的な支援とデータ交換に重点を置くことが考えられます。

4. パンデミック、大規模な地震や火山活動、気候上の危険など、世界的な災害に対応する危機研究協力基金を設けること。迅速な科学的対応のための協力規範と品質管理基準を確立する必要があります。

5. 特定の研究成果とその適用可能性をめぐり、ソーシャルメディア上で広がる世界的な誤情報に対処するための、科学コミュニケーション指針を策定すること。6. 協力の成果を評価する指標と手順を定め、協力者が相互に利益を得られるようにし、

利益の偏りがあるとの批判を避けること。苦境にあるとき、科学が提供できる解決策には限界があることは誰もが知っています。しかし、このパンデミックの間、科学技術が国境を越えて、すべての人間社会に回復力をもたらしたことも疑いありません。

国同士の二国間科学協定はすでに広く確立されています。今必要なのは、科学協力に関する多国間合意です。世界中の政策立案者と科学者が集まり、最も差し迫った課題に取り組めば、現在のパンデミックを止められるだけでなく、誰にとってもより明るく豊かな未来を築くことができます。

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