ツールとデータの共有が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の克服につながる

Medical staff, wearing protective suits and face masks, work in an intensive care unit for coronavirus disease (COVID-19) patients at the Franco-Britannique hospital in Levallois-Perret near Paris as the spread of the coronavirus disease continues in France, April 15, 2020. REUTERS/Benoit Tessier - RC255G9JFZIN
Health systems around the world have been overwhelmed with COVID-19 patients.Image: REUTERS/Benoit Tessier
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  • コロナウイルス感染症の患者が、診察を受けるのが遅れたために亡くなっている。

  • アプリを活用すれば、新型コロナウイルスへの理解を深められる。

  • データを収集・共有するためのオープンソースの仕組みを構築する必要がある。

患者は妻のことを話すとき、声を震わせた。妻にはCOVID-19の症状があったが、病院に行くのを怖がっていた。別の家族が体調を崩し、救急隊員が自宅に駆けつけたとき、患者は不安にさいなまれていた。「妻の様子を確認してください。自宅にいて大丈夫なのか分からないのです」と、救急隊員の一人に伝えた。

2階の部屋で隔離されていた妻は、浅い呼吸をしていた。救急隊員は、室内気での酸素飽和度が75%で、安静時にも呼吸困難があると気づき、はっとした。彼女は直ちに病院へ搬送され、容体が悪化したため、後に集中治療室へ移された。

患者を慰め、妻の早い回復を願っていると伝えながら、早期警戒システムがあれば状況は違っていたのではないかと思わずにはいられなかった。症状を追跡するツールがあれば、もっと早く医療機関を受診するよう知らせることができたのではないか。血中酸素濃度を測定する接続型デバイスや、健康状態の悪化の初期兆候を伝えられる体温計があったらどうだろう。医療従事者が毎日連絡を取るよう促されていたらどうだろう。

私はカナダのバンクーバー近郊でCOVID-19評価センターを率いており、インフルエンザに似た症状を訴える人々を毎日診ている。症状は、発熱、せき、息切れといった典型的なものから、嗅覚脱失(においが分からなくなること)や胃の不調など、COVID-19に関連するあまり知られていないものまでさまざまだ。

カナダのブリティッシュコロンビア州では、検査対象に制限があるため、陽性の患者の多くは検査を受けずに帰宅し、綿密な経過観察を受けることになる。注意深く経過を見ていても、把握しきれない患者がいる。最近、COVID-19陽性の47歳の患者が自宅で亡くなった。なぜ自宅で亡くなり、もっと早く医療を受けられなかったのかは分かっていない。明らかなのは、同じような人がほかにもいることだ。世界中で毎日、COVID-19陽性の人々が一度も病院にたどり着けないまま亡くなったという話を耳にする。医療体制の整っていない地域でも、十分な資源がある地域でも起きている。

これは悲劇であり、こうした死を防ぐことはできたのかという問いを投げかける。自己評価アプリ、症状追跡ツール、COVID-19専用ツールを公開した数百もの企業、大学、保健当局、政府機関の取り組みは、テクノロジーを使って新型コロナウイルスの感染拡大の状況や健康への影響をよりよく把握し、人々に的を絞った健康情報を届けられることを示唆している。位置情報、接触者追跡、自己診断などの機能を備えたこれらのアプリは、命を救い、健康上の成果を改善できるとうたっている。それは事実であり、恩恵の大きさは人によって異なる。しかし、こうしたイノベーションの広がりには、このパンデミックを最も効果的に抑え込む方法に関する重要な点が二つ抜け落ちている。

4月17日時点の世界各地のコロナウイルス感染者数。Image: ロイター・グラフィックス

第一に、理解できないものを克服することはできない。このパンデミックにおいてワクチンより重要なものが一つあるとすれば、それはデータだ。新型コロナウイルスの感染動態、症状、検査結果、入院に関するデータである。感染症が人々や医療制度に及ぼす影響をよりよく理解するには、検証済みで、経時的に追跡され、多様性のあるデータが必要だ。この呼びかけに応えて、COVID-19への世界的な対応では膨大な量のデータが集まっているが、その多くは閉鎖的なデータベースに閉じ込められている。参加者の総和を上回る価値をプラットフォームにもたらすネットワーク効果がソーシャルネットワークにあるように、データも相互に補完するデータと組み合わせることで、新たな用途が生まれ、これまでにない知見が得られる。

第二に、国や地方レベルの医療制度が、この貴重なデータを適時に、プライバシーを守りながら収集・共有できるオープンソースの仕組みを構築する必要がある。世界各地の脆弱な医療制度は、COVID-19の拡大によって生じた需要の津波にすでに圧倒されている。誰もがそれぞれの問題解決策を急いで作れば、このパンデミックに必要な迅速さが損なわれる。どこかの流行が、あらゆる場所のパンデミックになる可能性がある。ハードウェアとソフトウェアの両方を含むツールをオープンに共有し、世界の一地域で得られる短期的な利益も、ウイルスと闘うほかの地域と共有されなければ意味がないと理解する必要がある。

この二つの課題に取り組むには、世界がこれまで経験したことのない官民連携とステークホルダー資本主義の推進を導くために、人々を結集する力、技術的な知見、資金力を備えたグローバルな組織が必要だ。世界経済フォーラム、世界保健機関(WHO)、その他の国連機関は、政府や民間部門の資源を活用してオープンソースのツールを迅速に試作し、その設計図やコードをほかの地域と共有し、文字どおりにも比喩的にもこの疾病への防具となるよう各地でカスタマイズを支援する、グローバルなオープンソースの取り組みを立ち上げるうえで有利な立場にある。オープンソースは、利益が得られないことを意味するわけではない。こうしたツールの利用を軸に革新的なビジネスモデルを構築すれば、さらなるイノベーションと収益を促せる。

このパンデミックを乗り越えたとき、私たちが記憶するのは、何十億もの利益を得た人々ではなく、苦しんだ何十億もの人々だろう。ハッカソンや社会的インパクト基金を増やすだけでなく、世界規模で協調した真のオープンソース・データ共有の変革に率先して取り組み、私たち全員がCOVID-19に立ち向かう機会を得られるようにしよう。

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