経済学者が予測する、新型コロナウイルスによる景気後退の可能性

Pedestrians wearing face masks ride an escalator near an overpass with an electronic board showing the Shanghai and Shenzhen stock indexes, following an outbreak of the novel coronavirus in the country, at Lujiazui financial district, in Shanghai, China March 13, 2020. REUTERS/Aly Song - RC2SIF97XUIA
The true global economic impact of the COVID-19 outbreak still remains to be seen.Image: REUTERS/Aly Song
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新型コロナウイルスが世界中で急速に拡大するなか、世界保健機関(WHO)は世界的なパンデミックを宣言しました。株式市場の急落は、経済への潜在的な影響に対する懸念の高まりを示しています。そこで私たちは、米国と欧州の経済学者に、大規模な景気後退が起こる可能性について見解を尋ねました。また、新型コロナウイルス感染症が経済に影響を及ぼしている、そして今後及ぼすことになる供給と需要の経路について、その相対的な重要性も尋ねました。

専門家に次の各声明に賛成か反対かを尋ね、賛成または反対の場合は、その度合いと回答への確信度も尋ねました。

A. 新型コロナウイルス感染症による死亡率が限定的(通常のシーズンにおけるインフルエンザの死亡者数と同程度)だと判明したとしても、大規模な景気後退を引き起こす可能性が高い。

回答者の40%超が、新型コロナウイルス感染症の流行は大規模な景気後退を引き起こすと考えています。Image: IGM経済専門家パネル

B. 支出の減少による新型コロナウイルス感染症の経済的影響は、サプライチェーンの混乱や、病気に関連した労働力の減少による影響を上回る。

回答者のほぼ50%が、支出の減少による経済的影響は、サプライチェーンの混乱や病気に関連した労働力の減少による影響より大きいと答えました。Image: IGM経済専門家パネル

さらに、欧州のパネルには、ユーロ圏の政策機関が効果的に対応できる態勢にあるかどうかを尋ねました。

C. ユーロ圏の経済政策機関は、新型コロナウイルス感染症による潜在的な経済被害を軽減するための十分な能力を備えている。

回答者の多くは、ユーロ圏の経済政策は新型コロナウイルス感染症の流行による経済的被害に備えられていないと考えていました。Image: 欧州IGM経済専門家パネル

米国の専門家43人のうち36人、欧州の専門家46人のうち38人がこの調査に参加し、合計74人の専門家から回答が寄せられました。

大規模な景気後退の可能性

大規模な景気後退が起こるかどうかを問う最初の声明について、各専門家の回答への確信度で加重すると、米国パネルでは19%が強く賛成、44%が賛成、31%が判断を保留し、8%が反対しました。

欧州パネルでは(同じく各専門家の回答への確信度で加重)、大規模な景気後退が起こりそうだという見方に賛成する人がさらに多く、48%が強く賛成、34%が賛成、13%が判断を保留し、4%が反対しました。

質問A:欧州パネルの回答

欧州パネルは、新型コロナウイルス感染症の流行による大規模な景気後退の可能性に強く賛成しました。Image: 欧州IGM経済専門家パネル

調査に参加する専門家が記入できる短いコメントからは、その見解をさらに詳しく知ることができます。両パネルとも、経済が急激に落ち込むという点では広く一致していますが、その落ち込みがどれほど長引くかについては、意見の一致があまり見られません。

例えば、シカゴ大学のアニル・カシャップは、NBERによる定義を引き合いに出し、景気後退について次のように述べています。「急激な減速は起こりそうだが、景気後退と呼べるほど長く続くかどうかは、まだはっきりしない」。また、カシャップと同じく判断を保留したパリ経済学院のジャン=ピエール・ダンティーヌは、次のように指摘しています。「2四半期にわたるマイナス成長はあり得る。大規模な景気後退となるかは非常に不確かで、とりわけ政策対応に左右される」。

大規模な景気後退が起こりそうだという見方に反対した少数の専門家のうち、スタンフォード大学のケネス・ジャッドはこう述べています。「通常のインフルエンザのようなものなら、経済はすぐに回復するはずだ。新型コロナウイルス感染症が脅かすのは、もともと脆弱な経済拡大にすぎない」。

最終的な死者数にかかわらず、パンデミックの結果として大規模な景気後退が起こりそうだという声明に賛成または強く賛成した人(米国パネルの62%、欧州パネルの82%)のなかには、パンデミックを封じ込めるための措置がもたらす経済的影響を指摘する人が複数いました。例えば、ボッコーニ大学のエレナ・カルレッティはこう述べています。「医療制度への影響を抑えるために経済全体を停止させるので、死亡率そのものよりも感染率のほうが懸念される」。

トリニティ・カレッジ・ダブリンのパトリック・ホノハンも同様の見解を示しています。「死亡率が低くなるとしても、それは封じ込めが効果を上げたからであり、その結果、総供給と総需要に悪影響が及ぶ」。エイナウディ経済金融研究所のルイジ・グイーゾはこう付け加えています。「感染拡大を止めるには、経済活動を全面的に停止する必要がある。これは大規模な供給ショックだ」。また、MITのリチャード・シュマレンジーはこうコメントしています。「『大規模』という表現は少し強すぎるかもしれないが、多くの国で講じられている予防措置は、経済に大きな混乱をもたらすだろう」。

ほかの専門家は、いわゆる「恐怖要因」を指摘しています。イェール大学のラリー・サミュエルソンはこう述べています。「新型コロナウイルス感染症は、死者を出すことよりも、パニックと混乱を通じて大きな被害をもたらす。不況を避けるには、インフルエンザと同じように捉えることもできる」。スタンフォード大学のニコラス・ブルームはこう指摘しています。「供給、需要、不確実性への甚大なショックだ。市場のボラティリティ予想を示すVIXは、ほぼ50に達している」。また、同大学のダレル・ダフィーはこう述べています。「債券・株式価格や、財政・金融政策の対応に、景気後退の初期兆候が見られる」。

ポンペウ・ファブラ大学のザビエル・フレイシャスは、グローバル化の影響についてこう述べています。「産業や国の間で相互の結び付きが強まった現代では、ある産業の行き詰まりが経済全体の景気後退につながる」。シカゴ大学のクリスチャン・ロイツも相互の結び付きを示唆し、こう述べています。「景気後退の深刻さは国によって異なるだろうが、多くの国ですでに波及効果がかなり深刻だ」。また、ハーバード大学のアルベルト・アレシナはこう語っています。「イタリアで起きていることが広く各地で起きれば、大規模な景気後退になるだろう」。

スタンフォード大学のピート・クレノウは、人々の幅広い経済的福祉という観点から、景気後退がもたらすより広範なコストに警鐘を鳴らしています。「残念ながら、福祉の損失は、死亡や罹患を考慮すると、経済活動の縮小を上回るだろう」。

供給ショックと需要ショック

新型コロナウイルス感染症による需要側の経済的影響が供給ショックより大きいという2つ目の声明について、米国パネルでは44%が賛成、52%が判断を保留し、3%が反対しました。欧州パネルの結果も同様でした。米国パネルと同じく各専門家の回答への確信度で加重すると、4%が強く賛成、43%が賛成、41%が判断を保留し、12%が反対しました。

質問B:欧州パネルの回答

欧州の専門家は、支出の減少がサプライチェーンの混乱より大きな経済的影響をもたらすと考えていました。Image: 欧州IGM経済専門家パネル

供給ショックと需要ショックの相対的な重要性について専門家の見解が一致していないことは、コメントにも表れています。ハーバード大学のポル・アントラスはこう述べています。「どちらも影響するだろう。一部の部門(サービス業)では需要が鍵となるが、製造業では供給の混乱が深刻になる」。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのカール・ウィーランはこう付け加えています。「これは大規模な供給ショックであると同時に需要ショックでもある。実質GDPが大幅に減少しない状況は想像しにくい」。また、オックスフォード大学のジョン・ヴィッカーズはこうコメントしています。「供給と需要の影響を切り分けるのは難しい。信用収縮、ローンの債務不履行、保険会社への影響など、金融面の結果にも注意が必要だ」。

需要側の影響が供給側の影響を上回ると考える専門家のうち、MITのデビッド・オーターはこう指摘しています。「サプライチェーンの中心は財の生産だが、製造業がGDPに占める割合は20%未満だ。サービス業はGDPに占める割合が大きく、より大きな影響を受ける可能性がある」。シカゴ大学のオースタン・グールズビーはこう付け加えています。「サービス業が経済の中心を占める豊かな国では、とりわけ、ソーシャルディスタンスや外出の自粛が最も厳しい影響をもたらすだろう」。また、同大学のロバート・シマーはこうコメントしています。「サプライチェーンの混乱は短期間で収まりそうだ。より大きな影響を及ぼすのは、時間給労働者や旅行・娯楽などの業界で働く人々の所得減少だろう」。

カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーンはこう警告しています。「供給ショックと需要ショックを見分けるためのモデルを数多く推計してきた者として言えば、両者を特定できるよう祈るしかない」。クリスチャン・ロイツはこう答えています。「供給と需要を切り分けるのが難しいのは明らかだが、この質問は本質的に、ショックによる大きな乗数効果があるかどうかを尋ねている。私の答えは『ある』だ」。

欧州の機関

欧州パネルだけに尋ねた3つ目の声明は、新型コロナウイルス感染症による潜在的な被害に対応するためのユーロ圏の経済政策機関の態勢についてでした。各専門家の回答への確信度で加重すると、十分な能力を備えていると答えたのは14%、判断を保留したのは17%、反対したのは48%、強く反対したのは21%でした。

反対または強く反対した3分の2超の人々のうち、複数の専門家が、財政対応を協調させることの難しさに言及しています。ジョン・ヴィッカーズはこう指摘しています。「財政面の協調が欠けている。金融部門への措置が、状況によっては財政に悪影響を及ぼす可能性もある」。カール・ウィーランはこう述べています。「共通の財政手段(ユーロ債など)がないため、大規模で協調した財政対応は難しい」。また、ピーターソン国際経済研究所のオリヴィエ・ブランシャールはこう結論づけています。「財政に対する考え方やルールが変わらない限り難しい。ただし、圧力を受けて変わる可能性はある」。

ユーロ圏の機関が救済に乗り出すわけではないと考える専門家もいます。ジュネーブ国際開発高等研究所のシャルル・ウィプルシュはこう述べています。「欧州中央銀行は脇役にとどまり、真に重要な措置は各国レベルで講じられるだろう。できれば協調してほしい」。また、チューリッヒ大学のヨアヒム・フォートはこうコメントしています。「2007~08年と同じように、肝心なときに欧州は何もしていない。危機の際に機能し得る唯一の主体は国民国家だ」。

パリ経済学院のアニエス・ベナシ=ケレは、VoxEUに寄せた自身の提言に触れています。ほかの著名な欧州の経済学者たちとともに、欧州連合が大規模災害の救済計画に責任を持つよう求めるものです。

最後に、最初の質問に対する米国パネルの回答のなかで、ノースウェスタン大学のクリストファー・ユードリーは、パンデミックの経済的影響が政策に及ぼす意味を示唆しています。「疫学、政治、心理、経済の相互作用が引き起こす、異例の景気後退だ。より創造的な対応が必要だ」。

専門家のコメント全文は、調査結果の完全版こちらとこちらでご覧いただけます。

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