新型コロナウイルスの流行は、世界の金融市場に深刻な打撃を与えている。
2008年の景気後退からは、有益な示唆と教訓を得ることができる。
対策には、政府主導の経済救済策が含まれる。
ダウ平均株価が水曜日の取引で終値ベースの弱気市場の水準まで下落したことを受け、世界経済が現在、当時の大混乱と比べてどの位置にあるのかを検討する価値がある。
2008年の世界金融危機は、米国のサブプライム住宅ローン市場の崩壊が発端となった。その影響は次第に伝染し、世界中の銀行に広がり、世界的な景気後退につながった。今回も株式市場は、制度全体に対する衝撃に直面している。今回の衝撃は、実際の感染という形をとっている。それが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だ。
2008年からの教訓
2008年の景気後退では、確定拠出型の年金制度に加入し、退職間近であった人々にとって、市場の低迷は特につらいものだった。米国を例にとると、S&P500種指数は2008年に37%下落した。長期間勤務し、退職間近であった従業員の場合、その結果として401(k)口座の残高は25%を超えて減少したという。これはEBRIによる分析によるものだ。確定給付型の年金制度は、財政状況に二重の打撃を受けた。財政状況は制度の健全性を示す重要な指標であり、年金資産を年金負債で割ることによって測定される。
年金資産は、株式への投資と景気後退の影響により、直ちに打撃を受けた。中央銀行が適用した金融政策の対応策、すなわち短期金利の引き下げは、銀行危機に対処するうえで不可欠であったが、長期金利の低下も同時にもたらした。年金負債は、この長期金利によって算出される。
負債については、金利の低下は負債の増加につながる。将来の支払義務を果たすためには、現時点でより多くの資金が必要となるからだ。資産の減少と負債の増加が重なったことで、多くの確定給付型年金制度において財政状況が急激に悪化した。その結果、拠出金の増額が必要となったが、それに応じられる余裕のある者はほとんどいなかった。
今回も年金資産は、市場の変動による当初の打撃を受けつつある。
解決策の模索
現在の課題は、解決策の模索である。今月だけでも、G7の中央銀行5行のうち3行が金利を引き下げた。米連邦準備制度と カナダ銀行は1.75%から1.25%へ、イングランド銀行は0.75%から0.25%へ引き下げた。年金の観点からのみ見ても、資産の損失と金利低下による負債評価の増加が重なる「完璧な嵐」に直面しており、退職貯蓄口座の残高は再び減少し、確定給付型年金の財政状況も悪化するだろう。
金利引き下げによって中央銀行にできることには、すでに限界がある。図からわかるように、すでに非常に低い水準から出発しているため、中央銀行は2008年当時と同じ手段を使えなくなっている。実際、G7のうち他の2つの中央銀行を見ると、欧州中央銀行はすでに0%であり、日本銀行は2016年以降マイナス圏(-0.10%)にある。このため、本稿執筆時点において、両行はそれ以上の利下げ措置を取っていない。
2008年の金融危機の際、中央銀行は金利の引き下げと量的緩和(証券の買い入れ)を組み合わせることで、マネーサプライを増やし、銀行システムへの圧力を緩和することができた。
新型コロナウイルスの場合、重要な相違点の一つは、影響が単一の部門にとどまらず、はるかに広範囲に及んでいることである。運輸、ホスピタリティおよび観光、そして小規模事業者が直接の影響を受けてきた。しかし、ウイルスの拡散が予測どおり続けば、世界のサプライチェーンの混乱によって、製造業や生産に依存するあらゆる産業も影響を受けることになるだろう。
回復に関するもう一つの複雑な問題は、(しばしば乱用される)「新しい日常(ニューノーマル)」という表現であるが、今回の場合は極めて的を射ている。長期化するパンデミックの結果として、あるいは将来のパンデミックを防ぐために、社会の行動や企業のあり方を根本的に変える必要があるならば、経済回復に要する時間が、2008年の景気後退後よりもさらに長期化する可能性がある。
私たちに何ができるか。
何よりもまず、感染の拡大を食い止めなければならない。そのためには、政府による対策と、個人による社会的交流の見直しを組み合わせる必要がある。疫学者や、例えば世界保健機関(WHO)などの組織による助言に耳を傾けるとともに、ソーシャルメディア上で広がる誤情報に惑わされないよう注意しなければならない。
次に、政府は、特に小規模事業者のために、実効性のある経済救済策を実施する必要がある。これらの事業者の多くは薄い利益率で運営しており、事業の中断期間が長引くこと、あるいは恒久的な中断となることは、経済的不平等をさらに悪化させるおそれがある。
第三に、世界の経済界は結集して、回復を主導する必要がある。世界経済フォーラムの COVID Action Platformは、政府と企業のリーダーを結集させ、まさにその取り組みを後押しすることを目指している。
現在は困難な時代であるが、このような時こそ、私たちすべてが協力して世界の状況を改善することが真に求められている。


