新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による混乱を免れる企業はない。
企業はサプライヤーと買い手を洗い出すことで、業務の中断に備えることができる。
将来の混乱を軽減するため、サプライチェーンを多様化すべきだ。
ハチに刺されて、もう少しで命を落とすところだった。だからこそ、私が養蜂に情熱を注いでいると聞くと、多くの人が驚く。巣の世話をするなかで、自然が持つ、相互依存性、適応性、効率性から成る複雑なシステムを観察している。
こうした観察をビジネスの世界に当てはめるのは興味深い。約20万匹のハチのそばで、命に関わる可能性のあるアレルギーを管理することは、リスクの軽減にほかならない。しかし、環境の変化によって最後の巣箱を失い、最近あらためて実感したように、生態系は自らの影響力や制御が及ばないリスクに対して、とりわけ脆弱だ。
新型コロナウイルス(COVID-19)が世界貿易に及ぼす影響は、その好例だ。サプライチェーンの生態系は、世界各地に広がる企業間にまたがっている。企業は世界中のサプライヤーから商品やサービスを調達し、サプライヤーもまた他社から調達する。ハチと同じように、貿易は不可欠な役割を果たしている。しかし、このネットワークの一部がCOVID-19のような事象の影響を受けると、生態系全体が混乱に陥る危険にさらされる。つまり、どの企業もその影響を免れない。
ハチの場合と同様に、相互依存性はシステム全体の効率を高める一方で、見えにくいリスクや脆弱性を持ち込むことがある。アジアの消費者が世界の成長をけん引するなか、地球の反対側で起きた出来事も、たちまち波及しかねない。鎖の強さは最も弱い輪で決まるのと同様に、企業はサプライチェーン全体に予期せぬ混乱が生じることを、すぐに思い知る可能性がある。
2011年の福島原発事故は、世界の自動車メーカーに予期せぬ衝撃をもたらした。サプライチェーンは、福島第一原子力発電所に非常に近く、操業停止を余儀なくされた単一の電子機器メーカーに依存していた。このため、世界で使われるマイクロコントローラー(自動車に用いられるカスタムチップの一種)の供給が突如、約40%減少し、世界各地で自動車の生産が中断した。
こうした例は、企業のサプライチェーンが戦略上の重要課題であることを裏付けている。では、企業は予期せぬ混乱のリスクを効果的にどう管理できるのだろうか。
当面の最優先事項は、従業員とその家族をケアすることだ。公的な助言が広く行き渡るよう、適時に双方向で情報を共有する仕組みが必要となる。COVID-19の感染拡大を抑えるため、影響を受けた国々では、従業員が通常の職場で働けない状況が続いている。そのため、リモートワークを可能にすれば、生産性を維持できる。自宅で長期間働く際には、ブロードバンドの通信速度から従業員のウェルビーイングまで、実務面と個人面の双方を考慮する必要がある。
次の段階では、サプライチェーンを端から端まで見直し、隠れた依存関係を明らかにする。サプライヤーと買い手を洗い出せば、企業は部品レベルまで業務中断への備えを立てられる。道路、港湾、荷役施設が影響を受ける場合には、代替の物流・流通手段が必要になることもある。最初のCOVID-19渡航制限の翌月には、アジアから欧州への主要航路で予定されていた便の約半数が欠航した。調達から生産、流通まで、業務全体を可視化することで、企業は事前に代替策を準備できる。
当面の影響が落ち着いたら、企業は次に、抑えられていた需要への備えが必要となる。この回復局面では注文が急増することがあり、機敏な対応が求められる。あらかじめ資金を確保しておけば、能力を増強し、ボトルネックを回避するために、資源を迅速かつ柔軟に配分できる。
さらに、将来の混乱を見越し、企業はサプライチェーンの多様化を検討すべきだ。異なる地域にまたがる幅広いサプライヤーを確保すれば、ある国が供給網から切り離されるリスクを軽減できる。世界最大の工具メーカーであるスタンレー・ブラック・アンド・デッカーは最近、米国での生産を拡大し、特定の地域だけに依存しないようにした。
これらの措置を組み合わせることで、レジリエンスを構築できる。感染症(SARS、エボラ出血熱、COVID-19など)、福島の原発事故のような環境要因、世界金融危機のような金融要因、あるいは政治的不安定など、潜在的な混乱が増えるほど、レジリエンスの重要性は高まる。世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書』は、不安定な状況を描き出し、深刻化する環境リスクを指摘している。影響度で最も大きなリスクは気候変動の緩和と適応の失敗で、次いで生物多様性の喪失が続く。私は最近、後者を身をもって経験した。
時間の経過とともに、企業がサプライヤーとの関係を維持する距離は縮まるかもしれない。消費者に近づき、リスクを軽減するためだ。しかし、世界の成長を支えるつながりを断つのは近視眼的だ。国内のサプライヤーだけに回帰するという考えは、むしろレジリエンスを損なう。身近な地域で商品、サービス、人材を確保できない、競争力がない、あるいは確実性に欠ける場合もあるため、選択肢の幅が不可欠となる。また、自然の作用が世界貿易を混乱させるなか、政策立案者は近年貿易を制限してきた障壁をさらに増やすのではなく、その負担を軽減することを心がけなければならない。
企業は変動が激しく不確実な外部環境を制御できないが、それに柔軟に対応することはできる。脅威が増えるなか、レジリエンスは不可欠となる。外部の混乱を先読みし、その影響が及ぶ前に備えることで、企業は他社と差をつけられる。

