健康は世界で最もリターンの高い投資の一つであり、予防医療とデジタルシステムが大きな経済的・社会的利益をもたらすことを示す強力な証拠があります。
相互運用可能なデータシステムやAIを活用したケアなどのデジタルヘルス基盤は、システムの無駄を減らし、アクセスを拡大し、生産性を強化します。
成果志向の官民連携は、複利的に積み上がる健康配当をもたらすことができます。インドは、拡張可能でイノベーション主導型の変革に関する初期の証拠を提供しています。
健康は世界で最良の投資です。生産性を高め、経済を強化し、社会の安定を支えます。人口動態の変化、慢性疾患の増加、予算の逼迫に世界が直面する中、健康への投資、特にイノベーション主導のデジタルヘルスへの投資は、コストではなく成長資本であることが示されつつあります。
近年の分析では、健康への投資によるリターンが大きいことが明らかになっています。1人当たり年間わずか0.24ドルを非感染性疾患向けの特定のデジタルツールに投じるだけで、例えば200万人以上の命を救い、2033年までに約2,000億ドルの経済的利益を生み出す可能性があります。これは、デジタルヘルス自体が高いリターンをもたらす投資であることを示す証拠です。
マッキンゼー・グローバル・インスティテュートも同様により良い健康状態により、2040年までに世界のGDPの約8%にあたる12兆米ドルが上積みされると試算しており、その要因として、早期死亡や健康上の問題の減少、より健康な人々の労働力参加率の上昇、そして身体的・認知的により健康な労働者が実現できる生産性向上が挙げられています。
健康がもたらすリターンは、本質的には、人的資本の強化、システムの無駄の削減、イノベーションの拡大から生まれる複利的な効果です。これを引き出すには、政府、企業、市民社会による持続的なコミットメントに加え、健康を戦略的投資として捉えるための考え方の転換が必要です。
すでに投資は始まっています
インドのアーユシュマン・バーラト・デジタル・ミッション(ABDM)は、こうした投資がどのように形になり始めているかを示しています。2025年後半時点で、8億3,400万人以上の市民がABHAデジタルIDを保有しており、約43万8,000の医療施設と73万8,000人の専門職が登録されています。7億8,700万件以上のデジタル記録が連携されています。
ABDMのサンドボックス・モデルにより、どの医療施設、保険会社、検査機関、デジタル事業者も、一度統合するだけで、ABDMに対応する他のすべての事業者とシームレスに接続できます。インドにおけるカスタムAPI連携は、ベンダー費用、人件費、テスト作業、経営層による監督を含めると、通常1件あたり少なくとも2,500ドルかかります。ABDMの設計では、認証済みの1件の連携が複数の個別仕様のインターフェースに代わるため、システム全体での節約分を、臨床ケア、サイバーセキュリティ、市民参加の強化に充てることができます。
同じ論理は、大規模な公立・民間病院ネットワーク、検査チェーン、統合ケアシステムにも当てはまります。これらの組織は内部で複数のITプラットフォームを運用していることが多いためです。ABDMの共通基盤を通じてこれらを統合すれば、IT上の重複や長期的な保守コストを大幅に削減できます。
アポロ病院を含む、インドの主要病院ネットワークは、すでにリターンを示し始めています。2024年、アポロは120万件の遠隔診療を実施し、急性期医療、診断、公衆衛生の用途において、業界認証を受けた臨床AIツールを20件導入しました。これにより、インド最大級の大都市圏以外の中規模都市(通常、医療インフラが発展途上で、専門医療へのアクセスが限られている都市)である第2階層都市での専門医へのアクセスが拡大し、臨床医の生産性も向上しました。これらのツールは、インド国内のアポロ施設において既に350万人以上に利用されており、世界の他の拠点でも導入が拡大しています。
アポロの初期のGenAIへの投資は、病院の効率も向上させています。退院までの時間は39%短縮され、処理能力は7.4%向上しました。アポロのAICVDコホートによる長期的なフォローアップでは、ハイリスクの心臓病患者において、入院期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用日数の減少など、より良い成果が示唆されています。また、同社のプライマリケアモデルでも同様の効果が見られています。マディヤ・プラデーシュ州で実施されたアポロ・ATCデジタル調剤プログラムは、UHC2030に評価されており、1回の受診あたりの費用を大幅に抑えるとともに、女性や医療サービスが行き届いていない地域社会の利用を改善することが示されています。
これらの事例を総合すると、相互運用可能なシステム、予防医療、デジタル能力への投資が、実質的かつ増大するリターンをもたらすことを示す証拠が増えつつあることがわかります。
これは、アポロ病院と世界経済フォーラムの指導者たちが一貫して強調してきた考え方の転換を反映しています。すなわち、純粋な公衆衛生の視点を超え、すべての関係者が成果に対する責任を共有する、経済全体での取り組みへと移行することです。
世界的な投資と成果のギャップを埋める
進展は見られるものの、大きな格差は依然として存在します。2023年時点で、約46億人が必須サービスを十分に受けられない状態にありました。また2022年には、約21億人が経済的困窮に直面し、そのうち16億人は貧困の深みへと追いやられました。
世界銀行は、年間1,760億ドルの資金ギャップがあると報告しており。これは、最貧国におけるプライマリケア、母子保健、非感染性疾患の予防などの必須サービスに関するものです。加えて、保健支出の20~40%が非効率によって失われており、5,000億ドルを超える自己負担による支払いが、1億人を極度の貧困に追い込んでいます。
保障の格差、財政上の圧力、システムの非効率性を合わせて考えると、資源を高いリターンが見込める投資、特にデジタル基盤、予防、相互運用可能なシステムに振り向ける必要性が浮き彫りになります。本節の背景は、以下の提言の枠組みを示すものです。
必要なこと、そしてそのリターンの可能性
私たちは次のことを行う必要があります:
1. 健康を経済的繁栄と国家の安定を牽引する重要な要因として捉え直す
健康を成長資本として捉えることで、政府や投資家は、生産性、教育水準、労働力参加に対する明確な効果を根拠に、より大きく長期的な配分を正当化できます。さらに、健康安全保障への投資は国家安全保障の基礎でもあります。強靭なシステムは不安定化をもたらす衝撃を抑え、生物学的脅威に直面した際にも経済の継続性を守り、社会と財政の安定を強化します。
2. デジタル基盤に投資する
相互運用可能なデジタルシステムは、重複、保守の負担、運営コストの削減に役立ちます。今日デジタルヘルス基盤に投じられるルピーはすべて、明日以降に繰り返し生じる重複と無駄を防ぎます。
3. 慈善的な医療資金を測定可能な成果へと振り向ける
慈善資金を、長期的で成果に連動したデジタルヘルス・プログラムへと振り向けることが極めて重要になるでしょう。
4. 中立的な協働プラットフォームを強化する
フォーラムのデジタルヘルスケア変革(DHT)イニシアチブやインド・デジタルヘルス・パスファインダーなどの中立的な協働プラットフォームは、エビデンスの創出、基準の調和、そして各州、企業、知見パートナーによる共同でのソリューション構築を可能にすることで、重要な役割を果たすことができます。
5. 地区レベルのパイロットを通じて実験し、学ぶ
インド・パスファインダー・イニシアチブの下で今後実施される「未来の健康地区」プロジェクトは、州政府やパートナーとの協力により、ABDMに沿った成果連動型モデルを検証することを目指しています。3~5年にわたる目標は、スクリーニング率、母子保健のフォローアップ、保険請求の処理時間といった指標を改善することです。成功した地区はそれぞれ、投資可能なデジタルヘルスが何をもたらせるかを示す証明となります。
6. 官民連携を世界規模の変革の原動力にする
持続可能なコストで健康成果を向上させるには、公共の責任ある運営と民間部門のイノベーションを一致させるパートナーシップが必要です。政府は基準と公平性の枠組みを提供し、企業は技術と提供能力をもたらし、市民社会は説明責任を強化します。測定可能な成果に焦点を当てれば、そうした協働は摩擦を減らし、デジタル導入を加速させ、健康への支出を長期的な価値へと転換させます。
7. イノベーションと研究を加速させる統合データシステムを構築する
デジタルヘルスは、より早期の発見、より的確な治療、そしてより長く質の高い人生を可能にします。医療システムの連携が深まるにつれ、分野横断的な研究とデータ駆動型のイノベーションが進歩の原動力となります。統合データシステムにより、ある領域での知見が別の領域での進歩を生み出し、疾病、人口集団、技術を結びつけることが可能になります。
これらの取り組みを総合すると、労働生産性を高め、非効率を減らし、「デジタルヘルス配当」(利子のように複利的に積み上がる財政的・社会的リターン)を継続的に生み出すことができます。
グローバル・サウスのためのパスファインダーとしてのインド
インドは、機会と責任が稀に交わる立場にあります。公共のイノベーションを民間の能力や国際協力と結びつけることで、デジタルヘルスへの投資が持続可能な成長のモデルであることを証明できます。ABDM、アポロ、未来の健康地区の実験から得られる教訓は、拡張性、相互運用性、手頃な価格のソリューションを求める低中所得国にとっての指針となり得ます。
このように、インドは自国のためだけでなく、グローバル・サウスの先駆者としても貢献し、世界で最良の投資、すなわち国民の健康をどのように引き出せるかを示すことができます。

