世界のフォーチュン500企業のうち、世界的な健康戦略を持つ企業はわずか9%なのに、環境戦略を持つ企業は74%に上るのはなぜだろうか。
その答えは、民間部門と環境分野のコミュニティとの関係が、世界保健分野のコミュニティとの関係と大きく異なることにある。
環境活動家は、問題提起と建設的な関与を組み合わせることで、民間部門にサステナビリティを義務であると同時に機会として受け入れさせることに成功した。対照的に、世界保健分野のコミュニティは、医療に直接携わる企業とさえ関係を築くのに苦労することが多く、世界中の人々の健康とウェルビーイングを向上させるという使命に、より広範な民間部門を巻き込むことにも、ほとんど成功していない。
私たちは、キャスリン・ホーンフェル、ライアン・モルハードとともに最近、フォーチュン500企業の報告書やウェブサイトを分析し、世界保健の専門家は気候変動対策運動に目を向け、企業との関わり方を改善するための着想や指針を得られることを示した。この種の分析は決定的なものではなく、傾向を示すものだが、気候変動対策運動の成功と、世界保健運動が相対的に成果を上げられていないことが明らかになった。
以前からこうだったわけではない。2002年、国連の環境分野のリーダーたちは、事業運営にあたり環境や社会に関する懸念を考慮している企業はごく少数にとどまると警告した。それ以来、活動家の働きかけ、規制、企業のリーダーシップが組み合わさり、状況は一変した。今では大半の大企業が明確な環境戦略を掲げ、報告する指標も定めている。
注目すべきは、この動きが、環境への悪影響が事業機会となる分野(代替エネルギーなど)や、問題の一因と見なされる分野(航空やエネルギーなど)にとどまらないことだ。今日では、大半の大規模な多国籍企業が環境問題に取り組み、その状況を報告している。
健康分野との対比は際立っている。調査対象企業のうち、何らかの健康目標を明示しているのはわずか4%である一方、排出削減目標を掲げる企業は55%に上る。分析から最も関連が明白な分野、すなわち製薬、食品・飲料メーカー、医療提供者を除くと、健康戦略が必要だと考えている企業はほとんどなく(6%)、健康への影響に関する報告書を作成している企業もほとんどない(1%)。表面的には、これらの企業は健康問題を環境問題と同じく企業の慈善活動に値する課題と捉えているようで、企業寄付の重点分野として両方を挙げる割合は同じ32%だった。しかし、気候変動やより広範な環境問題は、戦略や指標を伴う事業上の優先課題として扱われている一方、世界保健はそうではない。
企業の世界保健に対する姿勢を、環境に対する姿勢が変わったのと同じように変える必要がある。しかし、この転換を実現するには、企業のリーダーだけでなく、世界保健分野のコミュニティのリーダーも考え方を変えなければならない。現時点では、世界保健分野の多くの人々が民間部門に強い不信感を抱いている。一方、(私たちや前述の分析の共著者を含む)別の人々は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第3目標、すなわち「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、ウェルビーイングを促進する」ことを実現するには、多様な利害関係者の幅広い参加が必要であり、民間部門の活力、革新性、資源がぜひとも必要だと主張するだろう。
世界保健分野のコミュニティは、なぜ民間部門との関係構築に成功していないのか、何を求めるべきか、そして関係をどう変えるべきかを自らに問い直す必要がある。環境分野のコミュニティが何をしてきたかをより体系的に検討し、その手法を取り入れられる点を見極めるべきだ。環境活動家は、環境問題を引き起こす分野に積極的に働きかけ、問題提起を行うとともに、解決の一翼を担うよう促してきたと言える。気候変動分野のコミュニティは、企業の環境負荷を測る具体的な指標を広く受け入れさせることにも成功している。
同時に、企業のリーダーたちも、自らの責任は何か、世界保健の改善に何を貢献できるかを考えるべきだ。ほとんどの企業は、健康リスクに対する自社の脆弱性を初歩的にしか理解していない。たとえば、病気が顧客の行動、従業員の生産性、サプライチェーンにどのような影響を与えるかを理解していない企業は多い。健康リスクや負担をより体系的に測定し、管理することがよい出発点となる。同様に、多くの企業は自社の事業活動が健康に与える影響や、事業を展開する地域社会の健康を改善するために何ができるかを検討すべきだ。
健康は生産性を高める強力な要因である一方、感染症の流行など健康に関わるリスクは、企業に甚大な混乱をもたらすことがある。地球環境の改善が今では事業にとって有益だと見なされているように、世界保健の改善もそう見なされるべきだ。


