成長曲線は長年、医療従事者が子どもの身体的発達を若年成人期まで測定するために用いられてきました。
画像技術の進歩により、脳が時間とともにどのように変化するかについて多くの研究が可能になりましたが、脳スキャンの費用と複雑さが、これまで広範なモニタリングの妨げとなってきました。
研究者たちはデータを統合し、一連の脳チャートを作成しました。これにより医師は、認知機能の節目をより正確に把握できるようになります。
小児科医は何十年にもわたり、成長曲線を参照ツールとして使用してきました。成長曲線を使えば、医療従事者は出生から若年成人期まで、子どもの身長と体重を記録し、測定できます。曲線が示すパーセンタイル値は、特に複数回の診察を通じて見ることで、肥満や発育不全など、値が極端な範囲に入る状態を医師がスクリーニングするのに役立ちます。
一方、超音波、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピューター断層撮影(CT)などの画像技術を使って脳の発達を測定することも可能です。こうした技術の発展により、脳の変化に関する研究が数多く行われるようになり、現在、世界中で年間数百万件の臨床脳スキャンが実施されています。こうした進歩にもかかわらず、脳の発達をモニタリングするために使われる指標はほとんどありません。なぜでしょうか。
従来の成長曲線とは異なり、脳の発達や加齢を定量化するには、さまざまな技術的障壁があります。簡単に言えば、脳には巻き尺を当てられません。そのため、研究ごとに異なる測定方法を標準化するのは困難です。脳スキャンの取得には費用がかかり、複雑なため、単一の研究で参照チャートを作成するために利用できるデータは限られています。
私たちは、既存の研究を可能な限り幅広く組み合わせてデータを統合し、この課題に取り組もうとしました。多くの研究者に連絡を取り、参照チャートへのデータ提供に協力してもらえるか尋ねました。大規模なデータセットからも明らかなように、こうした依頼には非常に大きな熱意をもって応えてもらえました。これにより、草の根のプロジェクトは、世界規模の共同取り組みへと発展し、6大陸にわたる数十の機関が参加しました。その成果はこのほど、学術誌Natureで報告されました。
脳チャートで節目を把握する
私たちが統合した膨大なデータにより、生涯にわたるさまざまな脳の特徴について、一連の参照チャートを作成することができました。これにより、脳の発達と加齢における節目の時期を正確に把握できました。具体的には、次のとおりです。
灰白質(脳細胞)の容積は妊娠中期以降に急速に増加し、6歳になる直前にピークを迎えます。その後、ゆっくりと減少し始めます。
白質(脳のつながり)の容積も、妊娠中期から幼児期にかけて急速に増加し、29歳になる直前にピークを迎えます。
白質の容積の減少は、50歳を過ぎると加速し始めます。
身体機能や基本的な行動を制御する皮質下の灰白質容積は、14歳半の思春期にピークを迎えます。
私たちのデータには、さまざまな臨床診断を受けた人々も数多く含まれています。同じ年齢・性別の人々と個人を比較できるようになったことで、このばらつきを利用し、人々の集団間の違いを調べることができました。たとえば予想どおり、アルツハイマー病などの神経変性疾患のある人は、最も豊富な脳組織である灰白質と白質の容積が低い値を示す傾向がありました。
集団レベルの比較にとどまらず、これらの参照チャートを用いれば、今後の研究で個人を集団と照らし合わせて評価できます。個人に合わせた適切な測定につながることを期待しています。この進歩は、特に精神疾患を考えるうえで重要です。診断名が同じでも、症状や、場合によっては病気の原因が異なることがあるからです。最終的に、医師が治療するのは集団ではなく個人です。そのため、個人に応じた情報を提供するツールが必要です。
大規模な共同取り組み
「ビッグデータ」や「オープンサイエンス」といった言葉は私たちの研究にも当てはまりますが、このプロジェクトを可能にした協働プロセスの細かな事情を覆い隠してしまうことがあります。具体的には、機関間でデータを共有するために多大な法的支援が必要なデータセットもあれば、公開ウェブサイトから共有・ダウンロードできるものもあります。同様に、データを使いやすいオープンなリソースにまとめるための資金を受けている機関で働く研究者や、その分野で豊富な専門知識を持つ研究者もいます。
一方で、データ共有に時間と労力を大きく取られる人々もいます。おそらく最も重要なのは、脳スキャンを共有できる場所が数多くあり、それぞれに異なる水準の整理・管理が求められることです。こうした事情はすべて、複数のデータセットを統合しようとする利用者に大きな負担をもたらします。
著者としての貢献に見合わない要件や、データを使って何を研究できるか、できないかについての制約があったため、私たちのプロジェクトに参加できなかったコンソーシアムもありました。学術研究者として、よりオープンで協働的な科学を目指すうえで、これらは重要な考慮事項です。既存の協力者や周囲の科学コミュニティのメンバーが一丸となって取り組んでくれなければ、この研究は実現しませんでした。
脳チャートの今後
医療従事者がこれらの脳チャートを参照ツールとして使えるようになるまでには、まだ多くの作業が必要です。基盤となるデータセットには現在進行中の研究と、世界のごく限られた場所にしかMRI装置がなかった1990年に開始された研究の両方が含まれています。そのため、脳チャートは継続的に更新・拡充・改良できます。
より大規模なデータセットが一般的になるにつれ、参照チャートをさらに包摂的で、より幅広い人々を代表するものにしていきたいと考えています。脳スキャンの費用が下がり、利用しやすく(さらには携帯可能に)なるにつれて、脳チャートがより定量的な基準の整備を可能にし、こうした画期的な技術の進歩に歩調を合わせて神経科学の発見を後押しすることを期待しています。
いつか脳スキャンが小児科診療の標準となるなら、患者とその家族に有意義な知見を提供するために必要な方法とツールを、私たちは用意しておきたいと考えています。


