人工知能(AI)は、過重な負担を抱える世界の医療システムに大きな可能性をもたらします。
世界経済フォーラムの「デジタル・ヘルスケア変革イニシアチブ」は、最も喫緊の医療課題のいくつかに対処するうえで、AIが持つ可能性を特定しました。
メイヨー・クリニック・プラットフォームのドワイト&ディアン・ディアークス会長、ジョン・ハラムカ氏が、AIによる疾病の早期発見、公平な医療、患者の転帰、資源配分の改善について語ります。
私たちが求めるのは、害をもたらさないAIです。リスクを最小限に抑えながら、利益をもたらす可能性の高いAIです。
メイヨー・クリニック・プラットフォームのドワイト&ディアン・ディアークス会長、ジョン・ハラムカ氏
人工知能(AI)は、過重な負担を抱える世界の医療システムを改善する大きな可能性を秘めています。 インサイトレポート世界経済フォーラムの「デジタル・ヘルスケア変革イニシアチブ」によるこのレポートは、デジタル技術、データ、AIが、最も喫緊の医療課題のうち3つ、すなわち慢性疾患の負担増、公平性を欠く患者の転帰と世界各地での医療アクセス、そして資源の制約に取り組む可能性を明らかにしました。
メイヨー・クリニックメイヨー・クリニックは早くからAIを導入しており、今年の世界経済フォーラム「持続可能な開発インパクト会合」で、ジョン・ハラムカ氏は同クリニックでのAI活用経験を紹介しました。同氏は、すでに医療の提供を改善し、より公平にするのに役立っているAIの活用例を4つ挙げました。
1. Houses指数
メイヨー・クリニックの住宅ベース社会経済状況(Houses)指数は、公的記録の住宅データを用いて、個人レベルの社会経済状況を示します。従来の社会経済的指標の枠を超え、健康格差をなくすため、一人ひとりに合わせた医療計画を作成することを目指しています。
同氏は、従来の健康の社会的決定要因や商用アルゴリズムを使うと、偏った結果につながり、患者を危険にさらすおそれがあると指摘しました。
「住んでいる場所から推測します。環境中の有害物質や犯罪にどの程度さらされているか。プライマリケアや大腸内視鏡検診などを受ける機会がどれほどあるか、といったことです」とハラムカ氏は説明しました。
この手法によって、医療費支払者や医療提供者はより公平に資源を配分でき、臨床医も、どこで介入すれば最も大きな効果が得られるかを容易に特定できます。
2. AIを活用した心電図
心疾患をできるだけ早く特定することは、患者の生活の質や余命に大きな影響を与え得ます。しかし、診断は複雑です。
AIを活用した心電図は、心房細動、アミロイドーシス、肥大型心筋症などの心疾患を患者が有している可能性を予測できます。これにより、臨床医は心疾患をより早期に診断し、進行を観察できるようになります。ハラムカ氏自身もその恩恵を受けています。
「私は上室性頻拍があり、心拍数が時に50から170まで変動します。」
「心電図を取るたびに、14種類のアルゴリズムで解析します。その結果は臨床医に示され、心房細動のリスクが説明されます。こうした技術は、臨床医が私に適切な治療を行うのに役立ちます。」
3. AIとスマートフォンで結核を検出
世界の健康状態を改善し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現することは、国連(UN)の持続可能な開発目標の中核です。
AIが重要な効果をもたらし得る分野の一つがこれです。世界の一部地域では、今も結核が広く流行していますが、手頃な医療を受けられないため、診断されることはほとんどありません。 たとえばGoogleは、インドのSalcit Technologiesと協力し、咳の音を分析して肺の健康状態の評価を改善しています。AIと機械学習を活用し、結核(TB)などの肺疾患をより迅速、安全、かつ低コストで診断する方法の開発を目指しています。
世界経済フォーラムは、医療システムの改善に向けて何をしているのでしょうか?
ヘルス・アンド・ヘルスケア・センターは、アクセス、公平性、レジリエンス、備えなど、世界各地の医療システムが直面する課題を理解するため、リーダーたちをつなぎます。
信頼に基づく対話と官民連携を通じて、同センターは共通の優先課題に向けたパートナー間の連携を促し、健康状態の改善に向けた共同の取り組みを前進させます。
脆弱な地域社会に支援を届けるには、現代のスマートフォンに目を向ければよいと、ハラムカ氏は世界経済フォーラムで語りました。「私はインド北部で、結核などの疾患の診断にかなり取り組んできました。」
「現場では、カートリッジを使って迅速診断検査を行うことがよくあります。しかし、結果の判定はスマートフォン上で行います。カートリッジを読み取って『結核』か『結核ではない』かを表示するコンピュータービジョンアプリを使うのです。実質的に、臨床検査室を持ち込んでいることになります。」
4. 膵臓がんを早期に食い止める
「AIと画像解析は、今日かなり進歩しています」とハラムカ氏は付け加え、メイヨー・クリニックが開発したアルゴリズムを紹介しました。このアルゴリズムは、CTスキャン画像を解析して膵臓がんを予測し、臨床診断より平均で約16カ月早く検出します。
膵臓がんは非常に発見が難しく、多くの患者は治療の選択肢が通常限られる進行期になって初めて判明します。 診断後、4人に3人は最初の1年を生き延びられません。早期発見により、患者の生存可能性を高められるかもしれません。
「このアルゴリズムをスキャナーに組み込めば、がんのリスクが高いと検出したときに、スキャナー自体が警告を出すようにできます」と同氏は説明します。
医療分野でのAI導入には慎重さが求められる
AIが患者の転帰や医療へのより公平なアクセスにもたらす潜在的な利点は明らかですが、ハラムカ氏は慎重さも必要だと強調しました。
懸念の一つはバイアスです。対象となる集団を適切に反映した、代表性のある数の医療記録を分析することが重要です。「所得の低い人も高い人も、教育を受けた人もそうでない人も、男性も女性も、若者も高齢者も、幅広く含まれているか、つまり多様性があるかに注意しなければなりません。」
もう一つの大きな懸念はデータセキュリティ、特に医療記録を本当に匿名化、つまり「個人を特定できない状態」にできるかどうかです。
「データから個人を特定できないようにするのは難しい。確かに、名前や電話番号、住所は削除できます。しかし、たとえば医療記録の冒頭に『これは米国の元大統領である』と書かれていたらどうでしょう。もちろん、これは作り話ですが。」
このような職業上の役割や地理データ、家族関係から、意図せず個人が特定されることもあると、同氏は付け加えました。
「したがって、プライバシーを守るため、データから個人を再特定することが難しい状態にするよう細心の注意を払う必要があります。そうすれば、社会の利益のためにデータを活用できます。」





