インドの革新的な医療戦略は、他の低・中所得国のモデルとなる。
AIは創薬の加速とデータ分析を通じて、この変革を主導している。
デジタルツールが医療へのアクセスを改善し、投資がシステム全体のイノベーションを促進している。
インドの医療制度は、2025年に重要な局面を迎えている。人口は14億人を超え、慢性疾患や地域格差から気候変動に起因する脆弱性まで、公衆衛生上の圧力が高まるなか、課題は非常に大きい。しかし、この複雑さのなかには機会もある。インドは、国内の健康アウトカムを再構想するだけでなく、他の低・中所得国(LMICs)にも拡大可能なモデルを示す道を切り開いている。
人工知能(AI)、デジタル公共インフラ、分野横断的な連携を取り入れることで、インドは事後対応型の問題解決から、先を見据えた包摂的なイノベーションへと移行している。この変革は、今年のインドの医療を形づくる4つの柱に支えられている。
1. AIを活用した創薬でイノベーションを加速
AIは創薬のスピードと精度を大幅に高め、医薬品研究の様相を変えている。世界全体では、AIが2025年までに新薬発見全体の30%を担うと予測されており、開発期間とコストを最大50%削減する。
インドでは、サン・ファーマやドクター・レディーズ・ラボラトリーズなどの大手製薬企業が、結核や糖尿病といった国内で大きな負担となっている疾病への対応にAIを活用している。こうした取り組みにより、インドは手頃な価格のイノベーションを生み出す世界的な拠点となりつつある。高額な研究開発に必要なインフラが不足しながら、同様の医療課題に直面する低・中所得国にとって、とりわけ重要な動きだ。
一方、AIが進歩を加速させるなか、アルゴリズムの偏り、データの所有権、アクセスをめぐる倫理的課題に対処しなければならない。誰もがこうしたツールの恩恵を受けられるよう、透明で公平なAIの導入に関する国際基準が不可欠だ。
2. デジタルツールで患者の関与を変革
パンデミックをきっかけに、医療は提供者中心から患者中心へと移行し、その流れは2025年も続いている。現在、患者は健康状態をモニタリングし、専門医に遠隔で相談し、自宅で慢性疾患を管理できるデジタルツールによって、自らのケアに主体的に関われるようになっている。
ウェアラブル端末やモバイルアプリは、早期介入につながるリアルタイムの健康データを提供している。e-Sanjeevaniなどのプラットフォームは、都市部の病院と遠隔地の村々との隔たりを埋めてきた。例えば、マハーラーシュトラ州の農村部に住む患者は、長距離を移動せずに適時の診断を受けられる。

世界では在宅ケア経済が急成長している。マッキンゼーによると、今年末までに2,650億ドル相当の医療サービスが在宅へ移行すると予測されている。低コストで大きな効果をもたらすデジタルツールを拡大できるインドは、この変革を主導する立場にある。しかし、アクセスだけでは十分ではない。特に十分なサービスが行き届いていない地域では、デジタルリテラシーとインフラの格差への対応を、引き続き政策の優先課題としなければならない。
3. 戦略的投資がシステム全体のイノベーションを促進
インドの医療イノベーション・エコシステムは、バイオ医薬品への資金拠出の増加、国際的なパートナーシップ、活発なM&A市場を通じて勢いを増している。2024年には、このセクターへの資金拠出が24%増加し、2025年はそれを上回る勢いだ。
インドは引き続き、ジェネリック医薬品とバイオシミラーの世界的な主要生産国であり、国内外の市場に費用対効果の高い治療を提供している。同時に、テクノロジー企業と製薬企業のAIに焦点を当てた連携が、診断、疾病モデリング、実世界データ分析の可能性を広げている。
コールドチェーン物流、供給網のレジリエンス、相互運用可能なデータ基盤への投資により、最も遠隔の地域にも医薬品が届くようになっている。こうした進展は地域の健康アウトカムを改善するだけでなく、世界の健康安全保障における信頼できるパートナーとしてのインドの役割も形づくっている。
4. 医療データの相互運用性でAIの可能性を引き出す
医療分野のAIの能力は、学習に使うデータに左右される。まさにこの点で、インドは大胆な前進を遂げている。アユシュマン・バーラト・デジタル・ミッションは、5億件を超える患者記録のデジタル化に取り組んでおり、長期的なケアの改善と予測的な健康モデリングを可能にしている。
最も有望なイノベーションの一つが、連合学習だ。分散型AIモデルを複数のデータセットにまたがって学習させながら、個人のプライバシーを損なわない手法である。これによりインドは、患者の権利を守りながら診断精度を向上させることができる。
さらに、医療提供者、保険会社、規制当局の間で健康データが円滑に流通するよう、官民のエコシステムが形成されつつある。OECDは、断片化や取り組みの重複を避けるうえで、世界的な健康データ連携が鍵となると強調している。インドのデジタル相互運用性への投資は、この世界的な議論の形成に役立っている。
イノベーションからインパクトへ
インドの医療変革は、国内の成功物語にとどまらない。新興国が包摂的なイノベーションに投資したときに何が可能になるかを示す希望の光だ。しかし、このビジョンを実現するには、共通の責任を果たす必要がある。
各国政府と政策立案者は、データの独占を防ぎ、倫理的な利用を促す国際的なAIガバナンスの枠組みを策定しなければならない。投資家と業界リーダーは、プライバシーに配慮したAIモデルに資金を投じ、最後の一人にまで届くようデジタル公共インフラを拡大すべきだ。WHO、OECD、世界経済フォーラムなどの国際機関は、相互運用性の基準を支援し、インド、インドネシア、ブラジルのような新興国間の知識交流を促進しなければならない。
世界経済フォーラムは、医療制度の改善に向けて何をしているのか?
ヘルス・アンド・ヘルスケア・センターは、アクセス、公平性、レジリエンス、備えなど、世界各地の医療制度が直面する課題への理解を深めるため、リーダーをつないでいる。
信頼に基づく対話と官民連携を通じて、同センターはパートナーが共通の優先課題について足並みをそろえ、健康アウトカムの改善に向けた協働を前進させられるよう支援している。
医療の未来は決まっているわけではない。選択できるものだ。インドは連携、知性、公平性を選んでいる。世界の他の国々もこれに続く勇気を持てば、これまで以上に健康で、レジリエンスが高く、つながりの強い世界になるだろう。
