地球温暖化により、2050年までに追加で1,450万人が死亡するおそれがあります。
気候変動が開発途上国に最も深刻な被害をもたらすなか、世界で最も脆弱な人々が最も大きな代償を払うことになります。
この暗い未来は回避可能です。しかし、3つの重点課題を軸に、迅速かつ協調的に取り組みを始める必要があります。
気候変動が世界経済や自然に及ぼす影響はよく知られていますが、地球の気温上昇による最も深刻な結果の一部は、人間の健康と世界の医療システムに現れることになります。
2024年に発表された共同報告書「気候変動が人間の健康に与える影響の定量化」において、世界経済フォーラムとオリバー・ワイマンは、地球温暖化により2050年までに最大1,450万人が追加で死亡するおそれがあると試算しました。さらに数千万人が、干ばつや洪水による被害で居住地が住めなくなることに伴い、長期的な病気、障害、そして避難に直面する可能性が高いとされています。
さらに5億人が、病気を媒介する生物の生息域が北米や欧州に広がることで、マラリアやジカ熱のような病気にさらされるおそれがあります。
世界経済と医療システムは、1兆2,500億ドルを超える損失に直面することになり、対応能力はさらに制約されます。さらに、最も痛ましい不運として、気候災害の矢面に立たされる人々は、苦しみを和らげるための経済的余力が最も乏しく、温暖化の責任も最も小さい地域に暮らしていることになります。
端的に言えば、地球温暖化が健康に及ぼす影響を抑えるための大きな進展がなければ、この地球は数十年にわたる苦しみ、移住、そして経済的損失に直面することになります。
健康危機が続く未来への備え
排出削減にはまだ希望がありますが、政策立案者や医療業界は、気温上昇を1.5℃以内に抑えることができない可能性に備えなければなりません。現在、国連環境計画によれば、より現実的なシナリオは2.5℃から2.7℃の間の温暖化の進行であり、気候変動が人間の健康に与える影響の定量化の予測はこのシナリオに基づいています。
これまで気候変動の議論ではしばしば見過ごされてきたこれらの悪夢のような予測は、2023年の国連気候変動サミットでようやく議題に上りました。その際、123か国が初の「気候と健康に関する宣言」に署名し、医療システムの気候レジリエンスを高めるために10億ドルを拠出することを約束しました。この連帯の姿勢は重要な第一歩となりましたが、さらに多くの取り組みが必要です。
政策立案者が優先すべき3つの戦略
11月にはアゼルバイジャンでのCOP29とリオデジャネイロでのG20サミットにおいて、各国首脳が世界的な対応を加速させる機会がさらに2回あります。健康が人々の幅広い経済活動への参加能力に与える影響を踏まえると、各国と世界経済が、深刻化する公衆衛生上の危機に先手を打つうえで役立つ3つの重点課題があります。
1. 地域の医療システムを気候変動に強いものにすることに注力する。
2. 気候変動に起因する健康状態を対象に、医療、ライフサイエンス、学術分野におけるイノベーションを促進する。
3. 政府の資源を配分し、先進国と開発途上国の双方において、強固な世界的対応を可能にする政策を制定する。
以下では、それぞれの目標を支援する方法を詳しく説明します。

重点課題1:気候変動に強い医療システム
気候変動という差し迫った課題に対応するためには、大規模で長期化するおそれのある健康危機の際にも公衆衛生を守ることができる、強靭な世界の医療システムが必要です。私たちが直面している現実として、気候変動の大災害が含まれない場合であっても、世界の多くの医療システムは現時点で強靭とは見なされないでしょう。
私たちは、レジリエンスを、危機を回避・封じ込め、危機発生後に安定させ、最終的に回復するシステムの能力と定義しています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの際には、世界中の病院が需要と職員の欠勤の両面で圧倒されたことで、レジリエンスの欠如を身をもって経験しました。
気候変動に強くなるためには、まず各地域が、気候変動がそれぞれのシステムにどのような影響を与えるかを理解する必要があります。これは、調査研究を実施し、シミュレーションツールを活用して備えの状況を評価し、ニーズの優先順位付けと対応計画の策定に役立てることで実現できます。気候レジリエンスを達成するためには、医療システムはインフラを強化し、必要不可欠な資源の確保を徹底して、健康への影響を抑え、回復までの期間を短縮できるようにしなければなりません。
こうした能力の開発を支援するため、各国政府は、公衆衛生システムや世界保健機関、米国疾病予防管理センターなどの組織の間で、世界的な知識の共有と協力を促進しなければなりません。データ収集と分析を一元化し、研究成果を広く共有することで、各地域のコストを抑え、より高度なデータセットを各地域に提供できます。
市民も、教育と啓発の取り組みを通じて関与させなければなりません。タイムリーかつ正確な情報を国民に提供することで、個人が健康と地域社会の健康を守るための予防措置を講じられるようになります。この取り組みの一環として、技術やメディアを活用した早期警戒システムの強化が必要です。また、2008年の金融危機後に銀行業界で実施されたような、公衆衛生システムの定期的なストレステストは、特定の施設における問題の検出にも役立つ可能性があります。
重点課題2:民間部門のイノベーション
民間部門と学術界による研究開発を通じたイノベーションは、気候変動に強い医療システムを構築し、新たなワクチンや治療法を発見するための基盤です。これを引き出し、民間部門による長期的なコミットメントを促すには、標的を絞った研究助成金を大幅に増やすとともに、COVID-19のワクチン開発の取り組みのように、長期的な視野を持つプロジェクトに対する規制の負担を軽減する必要があります。
政策立案者はまた、イノベーションのニーズと優先事項を明確に示すとともに、すぐには商業的に成立しない重要な製品やサービスを企業が開発できるよう、適切な償還制度の確立を確保すべきです。特に、このような政策は、気候変動によって浮き彫りになる低所得層の医療格差への対応の第一歩となるでしょう。
重点課題3:政府の資源と政策
気候変動に強い医療システムの構築を長期的に成功させるには、医薬品、医療機器、デジタルヘルス技術の研究開発における長い革新のサイクルを反映した、持続可能な政府資金と支援的な政策が不可欠です。その取り組みを強化するため、各国は気候変動対策に関する自国が決定する貢献(NDC)の中に、健康上の課題に対処し、公正な気候移行を確保するための支援を盛り込むべきです。
開発途上国のインフラを強化し、十分なワクチンと治療法を確保して迅速に展開するためには、世界規模および多国間の資金メカニズムに加え、先進国による個別の拠出が必要です。官民パートナーシップおよび部門横断的な協働も、これらの目標を達成するための不可欠な手段です。
気候変動に強い医療システムを構築する道のりは複雑であり、複数の領域にわたる協調的な行動が求められます。これらを動かし始める時間は残り少なくなっており、政策立案者と産業界は遅れることなく行動しなければなりません。
