政府は厳格なソーシャルディスタンス措置やロックダウン、迅速な金融政策で強力に対応しているものの、この不況は今後何年にもわたって影響を及ぼすとみられる。
この危機は世界中の企業や雇用に影響を及ぼすだけでなく、社会と政治に大きな変化をもたらすだろう。
新型コロナウイルス感染症による公衆衛生危機がいつ、どのように収束するのか、より見通せるようになるまでは、経済学者は現在進行中の不況がいつ終わるのか、予測に着手することすらできない。それでも、この景気後退が2008年のものをはるかに上回る深刻さと長期化を招くと予想する理由は十分にある。
日を追うごとに、2008年の世界金融危機は、今日の経済的惨事に向けた単なる予行演習だったかのように見えてくる。現在進行中の世界生産の短期的な急落は、過去150年間のあらゆる不況に匹敵するか、それを上回る可能性がすでに高そうだ。
中央銀行や財政当局が打撃を和らげるために総力を挙げているにもかかわらず、先進国の資産市場は暴落し、新興国からは驚くべき速さで資本が流出している。深刻な景気低迷と金融危機は避けられない。今、重要なのは不況がどれほど深刻になるのか、そしてどれほど長引くのかという問いだ。
公衆衛生上の課題にどれほど迅速かつ徹底的に対処できるのかが分かるまでは、経済学者がこの危機の行き着く先を予測するのは事実上不可能だ。新型コロナウイルスをめぐる科学的不確実性と同じくらい大きいのが、今後数週間から数カ月に人々や政策担当者がどう行動するかという社会経済的な不確実性である。
何しろ、世界はいわば異星人の侵略に遭っているような状況だ。人間の決意と創造力が最後には勝ることは分かっている。だが、その代償はどれほどのものになるのか。本稿執筆時点で、市場は回復が早く、おそらく今年第4四半期にも始まるとの見方に慎重ながら期待を寄せている。多くの論者は、中国の経験を世界の他の地域に待ち受ける事態の明るい前兆として挙げている。
しかし、その見方は本当に妥当なのだろうか。中国の雇用はある程度回復したものの、新型コロナ流行前の水準に近いところまでいつ戻るのかは、まったく明らかではない。中国の製造業が完全に回復したとしても、世界経済の他の地域が沈み込むなか、誰がその製品を買うのだろうか。米国について言えば、生産能力の70%または80%に戻ることさえ、遠い夢のように思える。
世界で最も高度な医療制度を備えながら、米国は感染拡大の封じ込めに惨めなほど失敗した。ワクチンが広く利用できるようになるまで、米国民が経済を正常な状態に戻すのは極めて難しいだろう。それには1年以上かかる可能性もある。2020年11月の大統領選挙を米国がどう実施するのかさえ、不透明だ。
当面、市場は米国の大規模な景気刺激策に安心感を得ている。こうした措置は、一般の労働者を守り、市場の崩壊を防ぐために絶対に必要だった。しかし、さらに多くの対策が必要になることはすでに明らかだ。
これがありふれた金融パニックにすぎないなら、政府が大規模な需要刺激策を投入することで、多くの失策を帳消しにできるだろう。しかし世界は、1918~20年のインフルエンザ流行以来、最も深刻なパンデミックに直面している。今回、世界人口のさらに2%が死亡すれば、死者数はおよそ1億5,000万人に達する。
幸い、世界各地で厳格なロックダウンやソーシャルディスタンス措置が導入されていることを考えれば、そこまで極端な結果にはならないだろう。しかし、健康危機が収束するまでは、経済状況は極めて厳しいものになる。経済活動を再開した後も、企業や債券市場が受けた損害は長く影響を残すだろう。危機が始まる前から、世界の債務はすでに過去最高を更新する水準にあったことを考えれば、なおさらだ。
確かに、政府と中央銀行は、徹底ぶりが中国を思わせるやり方で、金融セクターの広範な分野を支える措置を講じてきた。必要であれば、さらに大規模な対策を実施する力もある。しかし問題は、需要ショックだけでなく、巨大な供給ショックにも直面していることだ。需要を下支えすれば、人々が自宅待機を続けやすくなり、感染拡大曲線を平坦化する助けにはなるかもしれない。しかし、今後2年間の大半にわたり労働力の20~30%が自主隔離をしているとすれば、それが経済を支える効果には限界がある。
世界的な大恐慌が引き起こしかねない、深刻な政治的不確実性にはまだ触れていない。2008年の金融危機が深刻な政治的麻痺を招き、反テクノクラートのポピュリスト指導者を次々と台頭させたことを踏まえれば、新型コロナ危機はさらに極端な混乱をもたらすと予想できる。米国の公衆衛生対応は、最高レベルを含む統治の多くの段階での無能と怠慢が重なり、壊滅的なものとなった。このままの状況が続けば、ニューヨーク市周辺だけでも、死者数が北イタリアに匹敵する可能性がある。
もちろん、もっと楽観的なシナリオも考えられる。大規模な検査を行えば、誰が感染していて、誰が健康で、誰がすでに免疫を獲得して職場に復帰できるのかを特定できるかもしれない。そうした知識は計り知れない価値がある。しかし、何年にもわたる複数段階の管理不全と優先順位の誤りにより、米国の検査能力は必要な水準にまったく届いていない。
効果的な治療法を迅速に導入できれば、ワクチンがなくても経済は比較的早く通常の状態に戻る可能性がある。しかし、広範な検査が行われず、数年後に何が「通常」となるのかも明確でなければ、企業に投資や採用を促すのは難しい。危機が過ぎた後に税負担が増えると企業が見込んでいる場合は、なおさらだ。また、これまでの株式市場の損失が2008年より小さいのは、回復局面で株価が急速に戻ったことを誰もが覚えているからにすぎない可能性もある。しかし、あの危機が今回の危機に向けた単なる予行演習だったと分かれば、投資家は急速な反発を期待すべきではない。
数カ月後には、科学者たちはこの目に見えない侵入者について、はるかに多くのことを知るだろう。ウイルスが今、米国全土に急速に広がっているため、米国の研究者は中国・湖北省のデータだけに頼らず、データや患者に直接アクセスできる。侵入を押し返して初めて、その後に残された経済的惨事の代償を算定できるようになる。



