世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書は、グローバルリスク認識調査(GRPS)の調査結果を紹介しています。
この調査には、世界各地のリーダー約1,500人が参加し、世界的なリスクに対する認識を分析します。
堅牢で効果的なリスク管理を実現するには、リスクに対する認識を実際のデータと一致させる必要があります。
世界経済フォーラムが毎年発行するグローバルリスク報告書は、世界的なリスク認識に関する約20年にわたる独自データを基盤としています。名称が示すとおり、グローバルリスク認識調査(GRPS)は、世界各地のリーダー約1,500人が抱く、世界的なリスクの性質に関する見解や認識に焦点を当てています。
GRPSの年次更新では、異なる時間軸における世界的リスクの相対的重要性に対する認識を取り上げ、リスク同士の相互連関性の度合いを評価しようとします。さらに、フォーラムのさまざまなコミュニティに属する200人を超える各分野の専門家の知見も加えられます。しかし、こうした認識は、世界的なリスクの動向を支えるデータが示す実態と、どのように異なるのでしょうか。
感染症リスクを例にとると、2024年のGRPSでは、2年間の時間軸で34の世界的リスクのうち23位、10年間の見通しでは19位にランクされました。わずか2年前には6位でした。これは、感染症の流行やパンデミックに関する私たちの知識とどう合致するのでしょうか。感染症を経験した直後は、再び起こる可能性が低くなるのでしょうか、高くなるのでしょうか。それとも、直近の経験によって認識が偏るのでしょうか。これは、確率の保険数理分析でよく知られた効果です。つまり、人はあるリスクの影響を経験した直後、そのリスクが起こる可能性を高く見積もります。
実際、感染症リスクに関するデータによると、感染症の流行リスクは時間が経っても比較的横ばいです。最近の新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、こうしたリスクへの認識は高まりましたが、リスクの発生確率や深刻度は大きく変わりませんでした。一方で重要なのは、リスクに対する認識が、わずか1年後には大幅に低下したことです。
これは問題なのでしょうか。誰もがほっと胸をなで下ろして、「やっと終わった」と言い、日常生活に戻ればよいのではないでしょうか。なにしろ、世界のリーダーたちが考え、対応すべき、より差し迫った課題や世界的リスクはほかにも十分あります。そうかもしれません。しかし、世界全体のリスクレジリエンスを真に確保したいのであれば、そうはいきません。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、こうしたリスクへの認識は高まりましたが、感染症の流行リスクの発生確率や深刻度は大きく変わりませんでした。重要なのは、パンデミックから得られた教訓が忘れられつつあることです。その教訓は、2022年版グローバルリスク報告書の「レジリエンスの再構築」セクションで見事に示されていました。
アフリカを除くすべての地域で長寿化と高齢化が進み、高齢期の慢性疾患に対処する医療制度への需要がさらに高まっています。がん、心疾患、脳の変性疾患は、先進国の医療制度にさえ大きな負担をもたらします。さらに影響の大きい感染症の流行が発生し、パンデミック規模に拡大すれば、こうした医療制度はその負担に対処できません。
世界的リスクに対する誤認、または変動する認識
ほかの世界的リスクや、場合によってはそれを引き起こす構造的要因は、過大評価されているものもあれば、感染症リスクのように過小評価されているものもあります。つまり、認識が変化する速さは、リスクを示す基礎データより速い場合も遅い場合もあります。構造的要因としての気候変動と、それに伴う異常気象リスクは、前者の例となり得ます。
温室効果ガス(GHG)排出量と気温が上昇するなか、今後数十年の気候をシミュレーションするIPCCの気候科学者たちの優れた研究により、気候変動の長期的影響への認識が高まりました。気候科学者たちは、気候変動に伴って長期間の高温や低温がより頻繁に発生することに高い確信を持っています。一方、より不規則で深刻な気象による自然災害は、いっそう複雑で理解が困難です。熱帯低気圧の発生頻度に関する過去のデータは、影響が拡大しているものの、時間の経過に伴う変化は比較的小さいままです。さらに、暴風雨に関連する自然災害で失われる資産価値、すなわちエクスポージャーの増加が、経済的損失の拡大につながっています。
気候変動と、熱帯低気圧や対流性ひょう嵐などの不規則で深刻な気象システムとの複雑な関連性、さらにはエルニーニョ・南方振動のような数十年規模のシステムの影響について、私たちはさらに集中的に理解を深めるべきです。また、適応を通じてレジリエンスと備えを築くとともに、GHG排出削減の緩和策にさらに注力すべきです。
ほとんど注目されなくなった世界的リスクのもう一つの重要な例が、「大量破壊兵器」です。軍備増強に関するデータと、最近の世界的緊張の高まりを合わせて見ても、大量破壊兵器の能力や使用動機が低下したとは言えません。とりわけ核兵器の拡散が進み、核保有国が増えています。また、最大規模の核兵器を保有する有力国の間では、戦略兵器制限条約の更新が行われていません。
将来の危機に備えた、国家レベルのレジリエンス体制の構築
気候変動のように、認識が基礎データに追いつく場合もあれば、感染症リスクや大量破壊兵器のように、認識がデータとずれている場合もあります。
したがって、世界的リスクの背景にあるデータ、とりわけ発生可能性や相互連関性を掘り下げて理解することが重要です。幸い、これらのデータを集約し、国ごとに可視化できるツールがあります。
政府レベルでは、国家リスク評価、レジリエンスを促進する規制、データ共有の仕組みが、感染症だけでなく自然災害などの重大なリスクへのレジリエンス構築に役立ちます。企業レベルでは、サプライチェーンの事業中断リスクを十分に把握して軽減するとともに、国にとって重要な企業が緊急時に公益のため協力できるようにする必要があります。さらに地域社会レベルでは、中央政府と地方自治体がより効果的に連携することで、レジリエンスが築かれます。
結論として、リスクに対する認識を継続的に見直し、実際のデータに即したものへ調整することが不可欠です。そうすることで、より堅牢で効果的なリスク管理戦略が可能になり、世界的リスクへの備えとレジリエンスを備えた世界につながります。



