新型コロナウイルス感染症によって医療提供体制が混乱し、将来的に罹患率や死亡率が上昇するおそれがあります。
経済再建への注力によって、各国政府の気候変動対策がおろそかになるおそれがあります。
しかし、パンデミックをきっかけに、私たちは優先事項を見直すようになりました。
新型コロナウイルス感染症が、何世代にもわたる中で地球に最大級の衝撃をもたらしたことは疑いありません。世界的な保健危機は急速に経済危機へと変わりつつあり、今後何年にもわたって社会や地政学に大きな影響を及ぼすと考えられます。
予想どおり、「感染症の拡大」は順位を28位上げ、世界経済フォーラムの「2020年ビジネス活動リスク調査」で、130の市場のビジネスリーダー1万3,000人を対象とした年次調査の第2位となりました。
新型コロナウイルス感染症の経済面で最も顕著かつ差し迫った影響の一つである失業は、2019年の第4位から第1位になりました。しかし、ウイルスそのものよりも目立たない脅威があります。それは、注意がそれることです。
私たちは、新型コロナウイルス感染症の問題だけに注意を向け、他の重要な長期的・戦略的リスクへの対応が後退するおそれがあります。そうしたリスクには、核拡散、難民の移動、貧困、サイバーセキュリティ、生物多様性の損失、そしてもちろん気候変動が含まれます。
「注意散漫の影響」が医療提供体制を混乱させる
新型コロナウイルス感染症の「注意散漫の影響」が最初に現れたのは、前例のない医療提供体制の混乱でした。この混乱により、将来的に罹患率や死亡率が上昇するおそれがあります。
医療機関は、新型コロナウイルス感染症の患者を治療する余力を確保するため、サービスの再編を迫られました。これには、病床を空けるための早期退院、予約の取り消し、予定されていた治療の延期が含まれます。
たとえば多くの国で、がん検診が中断され、通常の診断や治療が延期されました。また、一部の臨床試験も停止され、今後の資金調達が不透明になっています。「がんの時限爆弾」を生み出してしまったのではないかと懸念する人がいるのも無理はありません。
マラリア、結核、エイズが新型コロナウイルス感染症よりも人々にとって大きな脅威となっている開発途上国では、この影響がさらに深刻になる可能性があります。そのことは、世界の新型コロナウイルス感染症による死者数が最近100万人を超えたにもかかわらず、世界保健機関(WHO)の最新の「死因トップ10」に入るほどの数ではないことからもわかります。
気候変動:世論と政治の関心が失われるのか?
新型コロナウイルス感染症の「注意散漫の影響」がもたらす、さらに懸念される結果があります。地球温暖化です。排出量の急増が短期的に落ち着いたことは歓迎されましたが、パンデミックが気候変動に及ぼす長期的な影響は、マイナスになる可能性があります。
各国政府や企業、個人が、打撃を受けた経済や財政の立て直し、あるいは家賃の支払いに注力するなかで、環境対策は「あれば望ましい」程度のものになりかねません。気候変動対策への投資が不足し、環境に対する世論と政治の関心が薄れる可能性があります。
ウイルスがなければ、過去1年間にアマゾン、オーストラリア、インドネシア、米国などで起きた壊滅的な山火事が、地球温暖化をより中心的な議題にしていたかもしれません。2020年11月にグラスゴーで予定されていたCOP26の気候変動会議も、新型コロナウイルス感染症のため1年延期されていなければ、同様に注目を集めていたでしょう。
気候変動対策の緊急性は、今も変わりません。気候変動は依然として、私たちの存続を脅かす最大の脅威です。しかし、今回も「ビジネス活動リスク」のトップ10に環境リスクは一つも入っていません。
リスクが国境を越え、相互に依存していることも忘れてはなりません。サプライチェーンの脆弱性からサイバーセキュリティ、国家間紛争まで、リスクは多岐にわたります。
「大いなる省察」?
しかし、希望はあります。新型コロナウイルス感染症による「大いなる注意散漫」は、「大いなる省察」へと変わる可能性があります。パンデミックによって重要な課題が浮き彫りになり、私たちは優先事項を見直すようになりました。
パンデミックは、世界の人々や各国政府が何年も議論してきた根深い不平等を明らかにしました。今こそ行動が起きるかもしれません。
若年層の失業への関心が高まっています。失われた世代が生まれることや、それによって社会が混乱する懸念から、各国政府は行動に踏み切りました。長期にわたる社会的距離の確保がもたらす影響を受け、精神疾患にもより大きな注意が向けられています。
また、世界規模で大きな技術革新が起きるのを目の当たりにしました。デジタル化や仮想空間での働き方、電子商取引への対応が遅れていた人々も、危機によって一夜にして追いつくことを迫られました。その結果、情報や知識へのアクセスが広がり、生産性が向上する可能性があります。
新型コロナウイルス感染症は短期から中期にかけて人々の注意をそらすかもしれませんが、長期的には前向きな遺産を残す可能性があります。パンデミックの壊滅的な影響を受けて、同様またはそれ以上に深刻な結果を招く他のリスクへの警戒が高まれば、それは実現できます。そして、気候変動に対する断固とした効果的な行動が、ついに起こるという希望につながります。



