中国政府は、ドナルド・トランプ米大統領の政権下で先行きが不透明になることに備え、今後、外交上の衝突が起きる可能性さえ想定している。世界の他の国々と同様、中国も、トランプ氏の政策のどの側面——良い面、悪い面、そして最悪の面——が現実になるのか、まだ見極められていない。
大いに懸念される中国との貿易戦争は、必然的に双方に壊滅的な打撃を与える。中国がボーイング機の購入をやめれば、米国の雇用18万人が失われる可能性がある。大豆の禁輸は、地元の雇用の10%の喪失につながるおそれがある。さらに、企業向けサービスへの需要が減れば、国内各地で数十万件の雇用が失われかねない。本格的な貿易戦争は、数年後に米国を景気後退へ追い込む可能性さえある。
貿易戦争や保護主義がもたらす危険は明らかだが、それらに至る政治的な議論は、皮肉にも的外れだ。
中国をめぐる誤解
たとえば、中国が自国通貨を過小評価しているという非難を考えてみよう。実際には、中国政府が通貨の急落を必死に食い止めようとしている時期に、こうした非難が出ている。
また、同じ時期に、多くの政府が為替レートを管理する政策を積極的に進めている。そして間もなく、ドルが上昇すれば、ドナルド・トランプ米大統領自身がドル安を促す発言をせざるを得なくなるだろう。
誤解はそれだけではない。
トランプ氏とその政権にとって主要な争点の一つは、いわゆる米中二国間貿易赤字であり、その額は2016年に3,470億ドルに達した。しかし、この憤りの多くは時代遅れの会計手法に基づいている。貿易の流れを測る従来の方法では、貿易に実際に結び付く所得や雇用を正確に捉えられなくなっている。
その理由は、今日、貿易の80%がサプライチェーンを通じた貿易だからだ。技術の進歩と貿易コストの低下により、各国は生産工程を地理的に分割し、中間財を世界各地で生産できるようになった。グローバル化による生産工程の分業化と複雑な生産ネットワークによって、貿易の流れの算出はより難しくなっている。
iPhoneを例に挙げよう。中国から米国へ輸出されるiPhoneの価格が100ドルだとしても、中国で付加される価値はわずか4ドルだ(中国に帰属する所得や雇用に結び付く額)。残りは、日本、韓国、米国など他国から来る中間製品によって生み出された付加価値である。
より正確な付加価値ベースの方法で測ると、トランプ氏が激しく批判する米中貿易赤字は少なくとも35%縮小する。したがって、貿易赤字の拡大は、生産と貿易の分断化を部分的に反映したものだ。

もう一つの誤解は、中国からの輸入が米国の生産者を弱体化させ、雇用を奪っているというものだ。実際には、中国は大部分において、かつて日本が担っていた役割を引き継いでいるにすぎない。
実際、2015年の米国輸入に占めるアジア太平洋地域からの割合を1990年と比べても、その数値はほとんど変わっていない。変化したのは、中国が他のアジア諸国、とりわけ日本に取って代わり、主要な製造品輸出国の役割を担ったことだ。やがてその役割はベトナムやバングラデシュに引き継がれ、日本をめぐる議論が沈静化したように、中国をめぐる議論も落ち着くだろう。
プラスの側面を見てみよう
十分に評価されていない、あるいは都合よく無視されているのは、中国の輸出が先進国にもたらした大きな恩恵だ。
たとえば、中国の輸出は世界の製造品価格の低下に寄与し、その恩恵はとりわけ所得の低い人々に大きかった。低所得世帯は、手頃な価格で玩具や衣料品、家具を購入できるようになった。その結果、「中国ショック」は先進国における実質所得格差の縮小に役立った。
同じ理屈からすれば、中国との貿易戦争で最も大きな打撃を受けるのは貧困層だ。トランプ氏の台頭を支持したまさにそのブルーカラー労働者たちが、中国との貿易戦争の痛手を受けることになる。
中国からの輸入が西側諸国を後押ししたもう一つの分野は、意外かもしれないが、イノベーションだ。中国からの輸入品との厳しい競争に直面し、多くの企業は新技術を導入し、新たなニッチ市場を見つけ、イノベーションに取り組まざるを得なかった。そうしなかった企業は廃業した。
中国の脅威に対する企業の創造的な対応例は数多くある。たとえば、マサイ・ベアフット・テクノロジーは、中国の靴製造業と正面から競争する代わりに、「草の上を歩く」感覚を再現する「姿勢矯正」シューズを作ることにした靴メーカーだ。同社は特許を出願し、高度にカスタマイズされたデザインによるイノベーションの成功例となった。
「中国の脅威」が浮上する前、企業はイノベーションへの動機(あるいは必要性)がほとんどないまま、従来と同じ製品を作り続けていた。中国製の製造品が欧州市場に大量に流入した時期は、特許が異例の速さで増加した時期と重なる。欧州のイノベーションを直接促したことと、技術水準や革新性の低い企業が市場から退出せざるを得なかったことの双方が、先進国の生産性向上に寄与した。中国からの輸入品は、先進国で実現した生産増加の15%超をもたらしたとされ、これは年間100億ユーロの移転に相当する。
したがって、中国との貿易は悪いことばかりではない。しかし、取り組むべき厄介な問題が残っていないという意味ではない。
貿易戦争から世界大戦へ
疑いなく、中国の脅威をめぐっては依然として議論が分かれる。知的財産権侵害やサイバー攻撃の事例、国有企業を支える政府補助金の例は、現在の世界経済秩序の理念とは相いれない。
しかし、中国を世界貿易体制から締め出して抑え込むのは、誤った対応だ。現米政権は、輸出補助金を導入し、高関税を課し、中国を為替操作国と呼ぶことを支持している。だが、こうした政策は構造改革と適応を遅らせるだけだ。イノベーションへの投資よりもロビー活動を優遇する。
米中二国間関係は、世界の舞台で最も重要な関係だ。それにもかかわらず、現在の関係には、グレアム・アリソンが呼ぶところの「トゥキディデスの罠」の気配がある。これは、支配的な大国と台頭する大国の競争がもたらす危険を表す比喩だ。スパルタがアテネと衝突したとき、あるいは、より近年ではドイツが英国の覇権に挑んだときに何が起きたか、私たちは皆知っている。いずれも良い結末を迎えなかった。
歴史を通じて、同様の事例が18回起きてきた。そのうち12回は戦争に至った。歴史の繰り返しを避けるには、挑戦する側と挑戦を受ける側の双方が、考え方や姿勢を大きく変える必要がある。
協調的な考え方が必要だ
現在の強硬な言説と保護主義的な傾向は、誤った前提と偏見に満ちた結論に基づいているため、危険であり、ばかげていると言ってもよい。中国に懸念を抱く理由はあるかもしれない。しかし、世界の舞台で台頭している脅威は中国そのものではなく、中国をめぐって誇張された物語だ。
したがって、中国を抑え込もうとする壊滅的な戦略をとるのではなく、中国の利益を世界の他の国々の利益と一致させることを目指すべきだ。そのために必要なのは協調的な考え方であり、それこそがグローバル化の最良の姿だ。

