毎朝8時30分ごろ、インドの金融の中心地が騒がしい仕事の一日を迎えるなか、あまり知られていないある電子商取引の配送センターも稼働を始める。
市内のフォート地区にある何百もの細い路地の一つにひっそりと建つ施設では、26人の勤勉なチームが荷物の受け取り、記録、仕分け、配達に取りかかる。しかし、騒々しい街とは対照的に、物流会社ミラクル・クーリエズの従業員たちはほとんど声を上げない。
この26人は女性2人を含め、全員が聴覚障害者で、手話で会話する。
鮮やかなオレンジ色のポロシャツと黄色いベストを身に着けた彼らは、Amazon専用の、他に類を見ない配送拠点を運営している。
人口の6.3%、つまり6,300万人が深刻な聴力低下を抱えていると推定され、障害のない人々に比べて雇用機会がはるかに少ない国で、ミラクルは例外的な存在だ。
「前の職場では、聴覚障害があるのは私だけでした。差別されていると感じることがありました」と、35歳のニーラム・タンナは手話で語る。「ここ(ミラクル)では仕事を楽しんでいます。任される仕事もずっと増えました。コンピューターも、ずっと習いたいと思っていました」
タンナの手話を、ミラクルのCEO、ドゥルヴ・ラクラがQuartzに通訳する。以前は小さな仕立て店で働いていたタンナは、ラクラが同社を設立した2010年にミラクルに入社した。現在はAmazonの荷物を何百個もスキャンし、仕分けている。
「一般には、労働力の1%が障害のある人だと言われます。私たちはその逆です。健常者のスタッフはごくわずかです」と、元銀行員で社会起業家の37歳、ラクラは話す。「聴覚障害者の雇用のあり方を根本から変え、包摂的な組織をつくれるかどうかを探ることが狙いでした」
タンナたちの仕事は、障害のない従業員8人が手助けしている。この8人は、タンナのような従業員には難しい顧客からの電話対応などを担う。しかし、誤解のないように言えば、ミラクルのフォート施設を支えているのは障害のある人々だ。
彼らは時計仕掛けのように正確に仕事を進める。
日々の仕事
荷物を積んだバンが到着すると、ミラクルの仕事が本格的に始まる。従業員の一組が列をつくり、車両からタンナのもとへ荷物を運ぶ。

彼女は荷物をスキャンして仕分け、届け先ごとの山に積み上げられるよう次の担当者へ渡す。


その後、箱は袋詰めされる。タンナが荷物ごとに配達リストを作成する間、同僚は大きな黒い袋に荷物を詰め、配達員ごとにラベルを貼る。

最後に配達員たちが出発する。大半は徒歩で半径2~3キロの範囲を回り、一部はバスを利用する。かさばる荷物を届けたり、配達量の多い地域で業務を効率化したりするため、2人は運転手付きの小型バンも使う。この車両はミラクルが手配したものだ。

配達は午前8時30分ごろに始まり、午後5時ごろまでに終わる。ただし、センター自体はシフト制で24時間稼働している。
Amazonもミラクルも、センターが毎日扱う配達件数を明らかにしていないが、件数は毎月倍増しているという。「2カ月前、担当していた郵便番号区域は1つでした。今は5つです」と、Amazon Indiaの全国ラストマイル業務を統括するアワニシュ・シンは話す。「業績は他の配送センターと同等か、それ以上です」
ムンバイの聴覚障害者に雇用機会をつくるために設立された企業にとって、これは大きな成果だ。
ささやかな始まり
ラクラは書類配達サービスとしてミラクル・クーリエズを立ち上げた。書類事業が低迷する一方で、2013年までに電子商取引が成長し始めた。ラクラはすぐに方針を転換し、この分野の小規模企業との提携を始めた。
その3年後、Amazonが「さまざまな経歴の人々を含む」サービスとの提携を求めて参入したとシンは語る。2016年5月、電子商取引大手のAmazonは、ミラクルの障害のある配達員4人を配置する試験運用を開始した。彼らの働きぶりに感銘を受けたシアトルに本拠を置くオンライン小売業者は、当時すでにAmazon専属となっていたミラクルのために独立した配送センターを設けた。
このフォート地区のセンターは、2017年9月に開設された。
ここで働く配達員は全員、安全手順と顧客対応の研修を受ける。当初は、Amazonが雇った手話講師から指導を受けることもあった。事業の拡大を受け、現在はミラクルが独自に1週間の研修を実施している。
「生産性を見れば、こうした人材を採用することに不利な点はないと分かります。さらに大切なのは、社会的な意義のために取り組んでいることです」と、ムンバイを拠点とする障害者支援団体サルタク教育トラストのキルティ・シャルマは話す。
それでも、継続的な支援が必要な場面はいくつかある。例えば「家に鍵がかかっていると、顧客に電話できません。運営チームに連絡すると、チームが顧客に連絡します」とラクラは話す。そうした状況ではWhatsAppやビデオ通話が役立つ。
採用の難しさ
一般の従業員を採用する場合とは異なり、ミラクルではLinkedInの求人情報や口コミは適切な人材探しにあまり役立たない。ラクラは聴覚障害者のためのさまざまな「聾者クラブ」を訪れ、政府主催の就職フェアにも参加して、聴覚障害者のコミュニティに向けて説明会を行う。また、非営利団体とも協力して採用している。
応募を受け取った後も、画一的な方法を当てはめることはできない。「理想を言えば、高校1年修了程度の学歴がある人を希望しますが、いつもそううまくいくとは限りません。聴覚障害者の教育環境は非常に複雑です」とラクラは話す。「中学2、3年程度の学歴でも、とても聡明で、懸命に働きたいという人材を見つけてきました。ですから、一人ひとりに応じて対応しなければなりません」
そのためミラクルは、学校や大学からの推薦状や証言も参考にして履歴書を審査する。
採用後、新たな配達員は役割を正式に決める前に、2~3日間配達に出る。
スタッフの大半が聴覚障害者であることで、従業員は平等に扱われていると分かり、互いに励まし合うことにもつながります」と、サルタク教育トラストのシャルマは話す。採用される人、企業、そして人材を送り出すNGOのすべてにとって良い結果になるという。
もちろん、改善の余地は常にある。
「配送センターを運営できる聴覚障害者を、これまで見つけられていません」とラクラは話す。新しく入る人の多くは、管理職に必要な技能や経験が不足しているという。「しかし今後は、より大きな責任を担えるよう育成していきます」。ミラクルの従業員2人はすでに監督職に就いている。配達に加えて、他の配達員の荷物を仕分け、仕事ぶりを確認している。
離職率が高いことで知られる業界にあって、同社では8年間、離職者が出ていない。「障害のある人は長く働く傾向があります。忠誠心という言葉が適切かは分かりませんが、結果として研修コストは下がっていきます」とラクラは話す。
本当の仕事

タンナと同じく、障害のあるミラクルの従業員は皆、入社前にも仕事をしていた。しかし、その多くは粗末な扱いを受けていた。
38歳のリンク・シンは以前、塗装店で働いていた。障害のない人の2倍の仕事をこなしていたにもかかわらず、賃金は低かった。
ラクラによると、ミラクルでは各従業員に月1万2,000~1万8,000ルピーが支払われ、市場相場を大きく上回る。「彼らにとってお金はとても大切です。これまで、そうした安心や安定を得たことがなかったからです」と彼は話す。
タンナとシンによると、賃金は着実に上がっている。
「Amazonで働くのが大好きです。誇りを感じます」とシンは手話で語る。「一年を通じて安定した配達量があるので、仕事がこれからも続くという安心感があります」

