1年前、欧州は大きな衝撃とともに目を覚ましました。ドナルド・トランプ氏が米国大統領に選出されたのです。世論調査はその結果を予想していませんでした。英国のEU離脱も予想していませんでした。
欧州でもポピュリズムや保護主義が勝利するのでしょうか。グローバリゼーションは終わるのでしょうか。欧州連合が掲げてきた理念は、これからどうなるのでしょうか。
ポピュリズムの波が欧州、とりわけオランダ、フランス、ドイツに広がることを多くの人が懸念していました。そうなれば、21世紀の欧州に本当の革命が起きることになったでしょう。
しかし2016年12月、私は、欧州でポピュリズムの蜂起が起きるとは思わないと述べ、その理由を説明しました。
理性と心で見る欧州
説明の一部は理性に基づくものでした。選挙を控えた3カ国は、過去60年間に、米国や英国を上回る富を国民のために生み出してきました。

これらの国々、そして欧州全体では、他の地域より所得格差が小さいのです。
そして何より、EUは約30カ国の市民をかつてない形で結びつけてきました。欧州では前例のない70年間の平和が続いています。
説明のもう一部は心に基づくものでした。オランダ人でありブルガリア人でもある私は、ルクセンブルクに暮らすなかで、ポピュリズムの高まりが差し迫っているとは感じませんでした。
同僚や友人、家族と話しても、そう信じる人はいませんでした。欧州で築いてきたものは、手放すにはあまりにも貴重だったのです。
欧州経済にとって目覚ましい2017年
2017年の幕開けは容易ではありませんでしたが、今や欧州にとって非常に力強い年となりました。選挙結果は親欧州派に有利で、欧州経済も実に好調な動きを見せ始めました。

2016年、GDP成長率でEUは米国を上回りました。2017年も同様になる見込みです。

しかし、さらに重要なのは一人当たりの成長、つまり人々が懐で実感する成長です。この点では、状況はさらに良好です。欧州委員会の秋季予測によると、EUは今年に加え、2018年と2019年も米国を上回る成長を続けます。2016年にもすでにそうでした。予測どおりなら、EUは一人当たりGDPで4年連続して米国を上回ることになります。
世界の投資家がもたらす「ユーロブーム」
今年、私は世界各地で約150人の投資家と会いました。彼らの反応は強気でした。欧州を安全な避難先と見ています。
新しい米政権が何を実現できるのか、また英国がEU離脱への対応に苦慮していることをめぐって大きな不確実性があるなか、フランスの選挙直後には、投資家が欧州の成功を認識し始めていることが分かりました。
投資家との面談から、私は3つの結論を導きました。
1)投資家は欧州が好調であると認識しています。
2)彼らは言葉どおり、実際に資金を投じています。
3)ユーロ圏の次の展開を知りたがっています。
欧州経済にとって、次の5つの大きなアイデアとは何でしょうか。
投資家から共通して聞かれるのは、市場の統合をさらに進めること、競争力の高い金融セクターが必要であること、そして経済協力を深める必要があることです。
幸い、政治課題に掲げられた施策の多くは、すでにその方向に進んでいます。欧州各国の首都では、こうした変化に向けた政治的な動きが実際に起きています。改革の機運がこれほど高まったのは、長い間ありませんでした。
欧州市民もこれを支持しています。ユーロの人気は過去最高水準にあり、ユーロ圏の人々のほぼ4分の3がユーロを支持しています。これにより、政治家には通貨同盟の構築を続ける委任が与えられています。

欧州の未来を確かなものにする5つの大きなアイデアを紹介します。
1)単一破綻処理基金(SRF)を支える仕組みを設け、銀行同盟を完成させる
欧州はすでにこの分野で膨大な取り組みを進めてきました。記録的な短期間で、最大手130行を対象とする単一の監督機関を設立し、銀行を整理するための単一破綻処理基金も設けました。
この2つの機関により、わずか数年で、欧州の銀行監督制度は、米国が確立するのに数十年を要した制度に匹敵するものとなりました。
しかし、まだ完成していません。SRFの資金は徐々に積み上がっていますが、いかなる事態にも常時対応できる状態にしておく必要があります。市場からの信頼性を高めるため、SRFを支えるバックストップが必要です。この役割を担う有力候補と見なされているのが、欧州安定メカニズム(ESM)です。
2)銀行同盟のための共通預金保険
欧州の銀行が一体となって預金を保証すれば、どの国でも取り付け騒ぎが起きるリスクを減らせます。
現時点では、預金者は最終的に自国政府が責任を負うと知っています。欧州全体が保証を支えていると分かれば、大きな安心につながるでしょう。共通預金保険が導入されれば、実際に利用する機会はほとんどないはずです。
しかし、導入は簡単ではありません。一部の国の銀行が抱える過去からの問題を整理する必要があります。そうしなければ、健全な銀行が、他国の競合銀行による過去の過ちのツケを払うことになりかねません。
総じて、国境を越えて事業を展開する欧州の銀行は、共通預金保険の導入と銀行同盟の完成に前向きです。これにより、金融統合を促すためのかなり包括的な枠組みが整います。金融統合は、危機の間に大幅に強まった銀行の自国市場偏重を抑えるために必要です。
この偏重により、銀行は国境を越えた銀行業務がもたらす規模の経済の恩恵を受けられず、欧州の銀行の収益性が低下します。
銀行の分断は、ユーロ圏の経済的な結びつきが弱まることも意味します。単一通貨の下では、銀行セクターも一つに収れんしていくはずです。銀行セクターは経済のギアであり、ギアが19種類もある車は運転できません。
3)欧州は金融市場の調和をさらに進める必要がある
ある国から別の国へ、もっと容易に投資できるようにする必要があります。現時点では、例えば破産法が欧州各国で大きく異なります。会社法や税法にも同様の違いがあります。投資先の国の法律を調べる時間が短くなれば、海外投資が促され、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ市場の拡大につながります。企業にとっては、新たな資金調達手段が得られるため朗報です。したがって、欧州の資本市場同盟を前進させることは必須です。
4)限定的な財政支援枠
欧州に「雨の日基金」を設ける話を耳にしたことがあるかもしれません。経済的に困難な欧州諸国はEU予算から支援を受けられます。しかし、EU予算は小さく、欧州経済の規模のわずか1%です。米国では17%です。支援を受ける欧州諸国にとって、移転額はGDPの最大4%に達することもあります。全体として、この制度はうまく機能しています。
ユーロ圏全体が深刻な景気後退に見舞われた場合に備えた制度もあります。その場合、各国は通常より多くの納税者負担による資金を支出できます。
通常、財政赤字にはGDP比3%の上限がありますが、ユーロ債務危機の際には各国が同時にこれを超過しました。景気刺激が強く必要とされていた時期に、これは大きな助けとなりました。
では、危機に見舞われるのが一国だけで、隣国はそうでない場合はどうでしょうか。例えば、EU離脱交渉で良い解決策が得られなければ、アイルランドが打撃を受けるケースを考えてみてください。
この状況では、その国に財政上の余地はありません。経済学者はこれを非対称ショックと呼び、対応策を講じるため、ユーロ圏に限定的な財政支援枠があるとよいでしょう。雨の日基金の設立が議論されていますが、これも関連する考え方です。
もちろん、ESMはすでに個別の国の問題に対処できますが、それは手遅れになり、市場からの資金調達手段を失った後です。さまざまな制度案が議論されています。厳格な条件の一つは、各国が受け取った資金を必ず返済することです。国の間で恒久的な資金移転は行わず、共同債務も発行しません。
どのように機能するかを知りたければ、米国を参考にできます。ほとんどの州には雨の日基金があり、景気が回復した後に資金を返済します。
補完的な失業保険を基盤とする制度案もあります。
政治家たちは財政ルールの簡素化にも取り組んでいます。欧州の財政規律を定めるマーストリヒト条約と安定成長協定のルールは、危機後に厳格化されました。しかし今では複雑になりすぎ、数百ページに及び、専門家でさえ理解するのが非常に困難です。簡素化すれば、信頼性が高まるでしょう。
一部の国では、これらすべてが「欧州の大幅な統合」を意味するのではないかと人々が懸念していますが、そうではありません。
限定的な財政支援枠に、国間の追加的な資金移転を伴う完全な財政同盟は必要ありません。完全な政治同盟も決して必要ではありません。それが必要なら、私たちは「欧州合衆国」になっているでしょう。
5)欧州通貨基金に向けて
世界的な対応機関であるIMFの欧州における役割が、徐々に小さくなっているのは事実です。
危機が始まり、アイルランドとギリシャが金融支援を必要とした当時、ESMには支援に必要な専門知識も十分な資金もありませんでした。
時間の経過とともにESMの資金力は増し、専門知識も蓄積されてきました。少なくとも資金面では、IMFの役割は目立たなくなっています。現在のギリシャ支援プログラムでは、これまでのところIMFは資金を拠出していません。
今後欧州で危機が起きた場合、IMFはおそらく私たちのプログラムに関与しなくなるという点で、現在は合意が形成されていると私は考えます。
これは、債権者がIMF、ECB、ESM、欧州委員会の4者ではなく、2者になることを意味します。ESMは欧州委員会とともにプログラムを運営することになります。具体的な役割分担も現在検討されています。
これらの施策は、実現するかどうかも分からない曖昧なアイデアではなくなりました。市場を強化し、金融セクターの回復を支え、通貨同盟をより強固にし、経済の耐性を高めることを目指す、政治課題上の具体策です。
2018年は2017年と同じように良い年になるでしょうか。
欧州では、多国間主義が伝統であり、国際協力が習慣となり、隣国が親しい友人になっている社会に暮らしています。
2017年、欧州市民は理性と心の両方で真の意思を示し、投資家は私たちの大陸への強い信頼を示しました。上述のアイデアは、欧州経済をさらに強くするでしょう。
2018年末には、再びこの1年を振り返り、欧州が未来を確かなものにし、市民の雇用を増やし、経済面で他地域を上回るために踏み出した歩みを振り返れることを願っています。

