7月、中国は世界最大の炭素市場を立ち上げました。
中国は、この仕組みによって、2060年のネットゼロ目標達成に必要な排出削減量の半分を実現できると見込んでいます。
有望な制度である一方、いくつかの限界もあります。
世界最大のCO2排出国である中国が、排出削減を目指す世界最大の市場を導入しています。
中国は最近、「デュアルカーボン」という国家目標を掲げました。2030年までに炭素排出量をピークにし、2060年までにカーボンニュートラルを達成するという目標です。習近平国家主席の「生態文明」政策ビジョンの一環であるこの意欲的な目標を後押しするのが、新たに設けられた全国規模のCO2排出量取引制度です。この制度は市場の力を活用し、CO2排出量の大幅削減を目指します。
中国の制度は、取引可能なパフォーマンス基準(TPS)として知られています。2021年7月に始まったこの全国制度は、先行する地域の試行制度を引き継ぐもので、2060年までに中国のCO2排出削減量のおよそ半分に寄与すると見込まれています。現在、TPSの対象は中国の電力部門に限られていますが、全面導入後は炭素集約型の8部門を対象とする予定です。
経済分析では、排出量取引制度は費用対効果の高い排出削減手段とされています。こうした制度は排出枠の市場を設けます。各排出枠は、対象施設に対し、一定期間内に汚染物質(CO2など)を一定量排出する権利を与えます。市場で排出枠の価格が形成されるため、対象施設は排出に費用を負担することになります。排出枠価格によって、施設は排出による環境コストを「内部化」し、排出を減らすよう促されます。
排出量取引制度の利点の一つは、排出枠を売買できることです。一般に、遵守コストが特に高い施設は、より多く排出するために市場で排出枠を購入します。一方、コストが低い施設は、排出枠の一部を売却し、さらに排出を減らすことで利益を得ます。取引は買い手と売り手の双方に利益をもたらし、コストが特に低い施設がより多くの削減を担うことにつながります。その結果、社会全体の排出削減コストが下がります。
取引による利点は中国の排出量取引制度にも他国の制度にも当てはまりますが、中国のTPSは他国で用いられている制度とは異なります。他国では一般に、総量ベースの制度が採用されてきました。これは、排出量の絶対水準を一定値以下に抑えることを遵守要件とする制度で、排出量取引(キャップ・アンド・トレード)がその一例です。これに対し、中国の制度は排出原単位ベースの制度です。施設の遵守状況は、排出原単位、つまり排出量と生産量の比率が、政府の定める基準比率を超えないかどうかで決まります。
対象施設が要件を満たす方法は3つあります。
1. 排出原単位を下げる。
2. 排出枠を購入する。
3. 予定生産量を減らす。
3つ目の方法は、当初の排出量と生産量の比率が基準を超える施設にとって重要です。こうした施設は、生産量を減らすことで、購入が必要な排出枠の数を減らせます。
排出原単位ベースのこの方式には、利点と限界の両方があります。利点の一つは、制度の実質的な厳しさ、すなわち施設が排出量と生産量の比率をどれだけ下げなければならないかが、景気循環の変動に左右されないことです。好況時に、対象施設が市場の需要に応じて予定生産量(例えば電力)を増やすと、その増加に合わせてより多くの排出枠を受け取ります。割り当てる排出枠の数が自動的に調整されるため、遵守コストが経済状況に左右されにくくなります。
これはTPSの重要な利点です。マクロ経済の状況が変化しても、生産水準は変えられ、遵守コストに直接影響しません。遵守可能な排出量がマクロ経済の状況に応じて変わらないキャップ・アンド・トレードとは対照的です。
一方、TPSの限界は、一定のCO2排出削減を達成するコストが、キャップ・アンド・トレードよりやや高くなることです。その理由は、排出削減の手段として、生産量の削減をキャップ・アンド・トレードほど十分に活用できない点にあります。TPSでは、生産量を減らすと、それに比例して割り当てられる排出枠の数も減るため、追加の犠牲を伴います。その結果、対象施設は遵守のために排出原単位の低減に大きく頼らざるを得ません。経済分析によると、これによってTPSの費用対効果が損なわれます。最近の論文は、TPS第1段階で目標とする削減を達成するコストは、同等の厳しさのキャップ・アンド・トレード制度の場合より約35%高いと推計しています。
TPSのもう一つの潜在的な限界は、制度によって形成される排出枠価格が不確かなことです。この不確実性は、他の排出量取引制度にも当てはまります。TPSの実施を担う中国生態環境部は、排出枠価格に下限を導入することを真剣に検討しています。下限を設けるため、政府は市場価格が下限価格を下回らないよう、必要に応じて排出枠の供給を減らします。排出枠のオークションを通じて供給を調整することもできます。その場合、下限を上回る価格を維持できる水準に、オークションで売り出す排出枠の数を設定します。排出枠価格の不確実性を減らせば、エネルギー産業の投資家にとって大きな助けとなります。
中国の新たなTPSは好調な滑り出しだと見る向きが多いものの、今後の環境面・経済面への影響には依然として大きな不確実性があります。電力部門のみを対象とするTPSの第1段階では、同部門の排出量が約5%削減されると見込まれています。将来のコストと環境への影響は、電力部門の基準の厳しさに加え、今後対象となる追加部門にどの基準を設けるかによって決まります。現時点では、将来の基準は不確かです。ただし、TPSが中国の2060年ネットゼロ目標達成に必要なCO2排出削減量の半分に寄与するには、制度を大幅に厳格化する必要があることは明らかです。
TPSは、気候変動への対応に向けた中国の取り組みの重要な柱です。この新たな政策は大きな可能性を秘めていますが、今後どのように発展するかには不確実な点が多く残されています。それでも、この全国的な取り組みは、環境に配慮した経済の未来を目指す中国の大きな前進です。



