金融危機から10年、海峡の向こうから届くニュースのうち、私にとって最も重要なものは何でしょうか。
それは、欧州が活況を呈していること、とりわけユーロ圏経済が好調だということです。
この目覚ましい復活は偶然ではありません。多くの関係者が懸命に取り組んだ結果です。今日のバブルやリスクを論じる前に、今日の成功を支える、ここ数年で築き上げた基盤を振り返りたいと思います。
この1年間、世界各地で投資家約150人に会いました。欧州を安全な避難先と見る人が増えています。その背景には、米国と英国の政治的不確実性も一因としてありますが、主な理由はユーロ圏における政治面での成果です。Twitterを利用されている方には、ハッシュタグ #EUROBOOM は今も有効です。
では、欧州は何をしたのでしょうか。
第一に、ユーロ圏諸国は大規模な改革に取り組みました。欧州金融安定ファシリティ(EFSF)/欧州安定メカニズム(ESM)から金融支援を受けたスペインやアイルランドなどの国々は、現在、欧州でも特に高い成長率を記録しています。
第二に、欧州中央銀行(ECB)の非伝統的な政策措置が重要な役割を果たしました。また、ユーロ圏諸国間で経済政策の協調が深まったことも挙げられます。これにより、危機を招いた過ちを繰り返しにくくなっています。次に、銀行同盟の最初の2つの柱があります。欧州レベルでシステム上重要な銀行130行を監督する単一監督メカニズムと、欧州全域の破綻銀行を秩序立てて処理するために設置された単一破綻処理委員会です。
最後に、私が所属する機関であるESMは、市場へのアクセスを失ったユーロ圏諸国の救済メカニズムとして機能しています。危機の初期には存在していませんでしたが、ESMは恒久的な機関です。次の危機が起きたときには、対応できる態勢を整えています。
プログラム対象国に、合計2,790億ユーロを融資してきました。こうしたプログラムへの資金供給によって、私たちは市場の主要なプレーヤーとなりました。この7年間で、ベンチマーク債を100銘柄超、短期証券を130銘柄発行しています。
ほんの数年前には想像もできなかった成果ですが、その結果、ユーロ圏経済は軌道に戻り、再び急速に成長しています。昨年のフランス選挙後に政治リスクが低下したことも、間違いなくこの回復を後押ししました。
今日のリスク
前回の危機にどう対処したかを理解することは、今日のリスクを考えるうえでも重要です。私の見解では、主なリスク要因は3つあります。景気循環リスク、油断、そして新たな氷山です。
まず、景気循環リスクから見ていきましょう。
ユーロ圏経済は昨年2.4%成長し、今年は2.3%の成長が見込まれています。潜在成長率を大きく上回っているため、いずれ成長は鈍化するでしょう。
ドイツやオランダなど、一部の国ではすでに完全雇用に近づいている可能性があります。同時に、株式、オルタナティブ投資、不動産などの資産価格は過去最高水準にあります。
バブルの中には小規模なものもあるでしょう。しかし、小さなバブルのどれが大きくなり、経済に一層の損害をもたらす可能性があるのか、早期に見極めることが大切です。
第二のリスク要因は、政策対応がすべて完了しているわけではないことです。こうした分野では油断が生じかねません。まず思い浮かぶのは、銀行同盟の完成です。
単一破綻処理基金(SRF)が最大規模の銀行破綻にも対応できるよう、財政的なバックストップが必要です。SRFの資金は2023年に最終目標額の550億ユーロに達する予定です。同程度の規模のESM信用枠を通じて、その額をおおむね倍増させるバックストップは妥当と思われます。
より議論を呼ぶ課題は、欧州共通の預金保険制度です。国全体に広がる取り付け騒ぎを防ぎ、銀行システムをより安全にできます。これを実現する前に、各国は銀行のバランスシートを健全化する必要があります。そうでなければ、ある国の健全な銀行が、別の国の同業者による過去の過ちのツケを払うことになりかねません。
通貨同盟をさらに深化させるための措置も、現在、政治課題に挙がっています。その一つは、ESMの権限を拡大し、欧州通貨基金へと転換する可能性を検討することです。
欧州統合は危機の際に大きく前進することが少なくありません。現在は経済が好調なため、油断が生まれ、改革が遅れるリスクがあります。未完の課題を残せば、将来の危機に対処する力が弱まります。
危機は、私たちが最も予想していない時に、予想していない場所で起こることが少なくありません。したがって、まだ知られていない新たなリスクに目を光らせるべきです。
未定義
最後のリスク要因は、私が「新たな氷山」と呼ぶものです。危機は、私たちが最も予想していない時に、予想していない場所で起こることが少なくありません。したがって、まだ知られていない新たなリスクに目を光らせるべきです。今日、私たちが十分に注意を払えていない分野は何でしょうか。いくつか候補を挙げてみます。
最初に挙げるべき、そして最も重要なものはサイバーセキュリティです。金融業界だけでなく、世界のサプライチェーンにとっても脅威です。ここに潜む問題は、経営陣が従来型の市場リスク、信用リスク、オペレーショナルリスクをよく理解している一方で、テクノロジーに精通した人は少ないということです。
とはいえ、経営陣を責めることはできません。ダークネットの攻撃者や暗号資産トレーダーの平均年齢は15歳から25歳だからです。彼らは企業を、さらには銀行システムや政府システム全体を機能不全に陥らせることもあります。最近、オランダで税務当局のウェブサイトが数時間にわたって停止する事件がありました。後に、18歳のハッカーがこの犯罪の容疑で逮捕されました。今日の経営幹部は、こうした事態を防ぐ知識を持っているでしょうか。
もう一つの氷山は、規制されていない金融サービスと保護主義、そしてそれらが世界の貿易や経済成長に及ぼす影響です。
最後に、明るい話題で締めくくりたいと思います。欧州には、優れた人材、充実した教育制度、そして世界で最も住みやすい都市として常に上位に挙げられる都市など、誇るべき独自の資産があります。倫理、社会的流動性、民主主義の面で欧州は先頭を走っており、21世紀に欧州ほど暮らすのに適した場所はほとんどありません。
欧州について私が最も楽観している理由は、過去70年間、危機にうまく対処し、そのたびにさらに強くなってきた実績です。



