現在の貿易摩擦や為替変動にもかかわらず、ASEAN地域では持続的な経済成長と人間開発が進んでいます。都市化と工業化に伴い、エネルギーを含むあらゆる種類の物質の一人当たり消費量が増加するでしょう。
国際エネルギー機関(IEA)は、ASEAN地域の一次エネルギー需要が2040年までに3分の2を超えて増加すると予測しています。その結果、この地域はエネルギー安全保障、投資、エネルギーへのアクセス、環境の持続可能性に関する複数の課題に同時に直面することになります。加盟国が共通のビジョンと長期ロードマップを掲げて協力すれば、これらの課題への対応をより容易に成功させることができます。
課題
エネルギー安全保障
予測によると、この地域ではエネルギー需要の拡大に応えるため、石油と天然ガスの消費量が大幅に増える見込みです。国内埋蔵量が徐々に枯渇するなか、化石燃料への依存が続くことは、地域のエネルギー安全保障上の懸念を高めています。長年にわたり化石燃料の純輸出地域だったASEANは、着実に純輸入地域へと変化してきました。この輸入依存により、加盟国の財政負担は増大するでしょう。
投資
ASEAN地域の電力需要は2040年までに250%増加すると予測されており、一次エネルギー需要の伸びを大きく上回ります。電力需要の増加に対応するには、発電・送電インフラを大幅に拡充する必要があります。IEAは2016年、当時から2040年までにASEANの予測エネルギー需要を賄うには、約2.5兆ドルの投資が必要になると推計しました。その約半分は電力部門向けで、残りは燃料供給とエネルギー効率に配分される見込みです。
しかし、魅力的な石油・ガス開発案件の不足、ガスと電力の国内価格の低さ、多様な規制上の障壁により、近年、ASEANのエネルギー部門への外国直接投資(FDI)は比較的低水準にとどまっています。
すべての人々が利用できる環境
人間開発には、各国でエネルギーを増やすだけでなく、全人口がエネルギーをより広く、手頃な価格で利用できるようにすることが必要です。電力は単なるぜいたく品ではなく、生活水準、健康、教育など、人々の暮らしの向上に欠かせない要素です。しかし、ASEAN全域で少なくとも5,000万人が電力を利用できず、同程度の人々が極めて不安定な供給を受けています。最大2億人が調理に伝統的なバイオマスを利用していますが、この慣行は健康に有害であり、燃料を集める労働も無駄にしています。
環境の持続可能性
最後の課題は環境に関するものです。ASEAN加盟国は、大気汚染、温室効果ガス、淡水、地下水、土地に関わるあらゆる種類の汚染を最小限に抑えながら、必要なエネルギーを持続可能な方法で供給する手段を見つけなければなりません。ASEANでは、石炭燃焼とバイオ燃料開発がもたらすリスクが特に顕著です。
事実に基づく枠組みを活用した効果的なエネルギー移行の推進
ASEANで効果的なエネルギー移行を実現し、上述の課題に対処するには、分野横断的な専門知識と資源を結集し、エネルギー移行の到達点と地域の優先事項について、複数のステークホルダーの合意を得る必要があります。エネルギー移行の計画には、現状の透明性ある評価、長期ビジョンの明確化、そして目標に至るロードマップが必要です。
世界経済フォーラムの『効果的なエネルギー移行の推進:意思決定を支える事実に基づく枠組み』は、各国の現在のエネルギー「システムのパフォーマンス」と、効果的なエネルギー移行に向けたマクロ経済・規制環境の「準備状況」を国別に評価できるようにします。
下図1に示すように、ASEAN加盟国を主要経済国と相対比較すると、エネルギー安全保障と環境の持続可能性を改善する余地があることが分かります。また、投資環境の改善、イノベーションの促進、新たなエネルギーシステムを担う人的資本への投資を通じて、効果的なエネルギー移行を可能にする環境を整える機会も示されています。

共通のビジョンの策定
ASEAN加盟国は、自然地理、国土と人口の規模、エネルギー資源の賦存量と特性、経済の規模と構造、一人当たりGDP、政治・経済システムなど、多くの点で大きく異なります。エネルギー部門に直接関わるのは、産業やエネルギー部門のガバナンス体制の違いであり、特に民間部門と市場メカニズムの役割に差があります。同様に、関連する技能や投資資本の利用可能性にも大きなばらつきがあります。
ASEAN加盟国間には構造面・経済面で多様性がありますが、各国がエネルギー移行に関して抱える課題には、地域協力の強化によって最も効果的に対処できます。地域統合を深める利点は、ASEAN域内の貿易と資本の流れが、域外のいずれの国・地域とのものより大きいという事実から明らかです。エネルギー分野では、送電網と天然ガスパイプラインの国境を越えた統合を通じて、地域協力が始まっています。国境をまたいで離れた大規模なエネルギー供給源と需要地を結ぶため、こうした取り組みをさらに強化すべきです。
物理的インフラとエネルギー取引による連結性の向上は、資源構成の多様化、発電における石炭から地域に豊富な天然ガスへの転換支援、再生可能エネルギーの出力調整性の改善を通じて、エネルギー安全保障と環境の持続可能性に関する懸念に対処します。しかし、こうした成果を最大化するには、国境を越えたエネルギー取引を可能にする多国間の市場ベースの仕組みが必要です。必要な技能や資本は東南アジアの内外に存在しますが、重要なのはそれらを動員することです。ASEAN加盟国はそれぞれ異なる段階でエネルギー移行を進めているため、共通のビジョンを策定すれば、エネルギー効率、革新的な技術やソリューションの迅速な導入、再生可能エネルギーの統合などの分野で、優れた実践例を共有できます。
こうした相互補完性を実現するための包括的な課題は、ASEAN経済共同体の枠組みにエネルギー部門を全面的に組み込むことです。加盟国間の優先事項の違いを生むだけでなく、エネルギー協力の可能性を積極的に制約している法的・規制上・技術的な障壁に対処しなければなりません。地域のエネルギーシステムのパフォーマンスを最適化する共通ビジョンの策定には、持続的な政治的意志、適切な投資環境、物理的インフラとエネルギー市場の国境を越えた統合を支える適切な制度的枠組みが必要です。

