かつてケニア西部のこの地域でコオロギを食べていたのは、空腹の人々と、鳴く虫を食べると声がよくなると信じていた歌い手の二種類だった。
時代は変わった。近年、昆虫を人が食べるために飼育する事業――昆虫食として知られる――が、ケニアで軌道に乗り始めている。
国際昆虫生理生態学センター(ICIPE)の専門家によると、その背景には、気候変動や人口増加、集約的な農業と放牧が土地や水への圧力を強めるなか、持続可能な代替タンパク源への関心が高まっていることがある。ICIPEはケニアを拠点とする研究機関だ。
元バイクタクシー運転手のロジャース・オドゥリは、かつて昆虫食に懐疑的だった。今では、地域の中心都市キスムにある最大級の昆虫農場の一つで働いている。
「これがピンヘッドです」と彼は言い、プラスチック容器のふたを開けた。緑の葉の上で跳ね回る何百もの黒い点、つまり孵化したばかりのコオロギを見せた。
「ビタミンを摂れるよう、ケールを与えています」と彼は言った。
26歳のオドゥリも同世代の多くと同じく、かつて昆虫は食べられないものだと思い、昆虫を食べる習慣は祖父母の世代とともに廃れたと考えていた。今は違う。
働き始めて2週間後、彼はコオロギを試食した。農場の売店では、乾燥させて丸ごと袋詰めにしたものや、粉末にしてパンや菓子に使ったものが売られており、彼はすっかり気に入った。
「私には甘く感じます。タンパク質が豊富で、食べると気分もよくなるのでいいですね」と彼は言った。

健康的な選択肢
国連食糧農業機関(FAO)は、世界で少なくとも20億人が1,900種を超える昆虫を食べていると推計する。特に人気があるのは、甲虫、毛虫、ハチ、アリ、バッタ、イナゴ、コオロギだ。
多くの昆虫は栄養価が高く、タンパク質、ビタミン、ミネラル、健康によい脂肪の優れた供給源だとFAOは指摘している。
昆虫飼育への関心が高まる背景には、世界的な人口増加と中間層の拡大により、過去40年間で一人当たりの食肉消費量が50%増加し、タンパク質不足への懸念が強まっていることもある。
裕福な国々では、昆虫を食べることへの抵抗感が薄れつつある。一方、気候変動の影響をますます強く受けることの多い貧しい国々では、新興企業や慈善団体が、何世紀も続いてきた昆虫食の習慣を復活させたり、初めて食生活に取り入れたりしている。
過去5年間、オランダ、ケニア、ウガンダの共同事業「フライング・フード・プロジェクト」は、ケニアとウガンダのビクトリア湖周辺に暮らす1,000人以上に、コオロギの飼育や消費を広める取り組みを続けてきた。
ケニア担当コーディネーターのフィービー・オウオルによると、目的は、気候変動や土地の酷使による劣化ですでに農業が打撃を受けている地域で、暮らしと健康を改善することだ。
「土地を台無しにしてしまったので、動物を飼うどころか、食べ物を育てる土さえ十分に残らないかもしれません」とオウオルは語った。
「今後20年から30年のうちに、牛さえ飼えなくなり、昆虫に頼らなければならなくなるかもしれません」

マイクロファイナンス機関ラフォデの支援を受け、このプロジェクトはキスム周辺の農家100人とウガンダの農家100人に、それぞれ800ドルの融資を提供した。初年度の設備費、繁殖用コオロギの初期飼育群、研修費を賄うためだ。
支援対象の農場にはオドゥリが働く農場も含まれる。プロジェクトの支援者によると、10月末までにケニアの農家さらに100人に融資が行われる。
プロジェクトマネジャーのアーウィン・ベッカースによると、フライング・フード・プロジェクトは成功を確かなものにするため、地元市場の供給と需要の拡大にも取り組んでいる。
ベッカースによると、通常、農家は月にコオロギを8キログラム生産でき、1キログラム当たり700ケニア・シリング(7ドル)の価値がある。ただし、病気や洪水の影響で、過去1年間の収穫量は減っている。
アンドリュー・マグンガは、プロジェクトに参加するまで何年もバケツでコオロギを飼育していた。参加後は飼育箱で育て始め、これこそ未来の食べ物だと考えている。
「食物連鎖について調べました。じきに湖の資源が枯渇しそうです。魚は私たちの食べ物にも家畜の飼料にも欠かせない主な原料です」と彼は言った。
マグンガはコオロギの収穫で年間最大400ドルを稼ぐ。この仕事にかかるのは毎日数時間で、さらに大学で情報技術のパートタイム勤務をして年間1,000ドルを得ている。
ベッカースによると、コオロギの飼育に必要な場所、水、飼料はごくわずかで、従来の家畜より環境への負荷がはるかに小さい。
「コオロギ1キログラムを育てるには青菜が1キログラム必要です。牛ならその約10倍です。気候変動に関して、これが最大の利点です」と、オランダを拠点とするベッカースは語った。
「干ばつの間も、人々はコオロギをずっと長く生かしておけます。私たちは新しい形の畜産を築いたのです」

パンとポリッジ
ナイロビにあるジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)の食品専門家ジョン・キニュルによると、近年、六本足の食材の飼育は研究や慈善事業から商業事業へと発展してきた。
「ナイロビや中央地域、ケニア山周辺の人々の関心が高まっています」と、「昆虫ハンター」の異名を持つキニュルは語った。
JKUATは過去5年間にケニアの農家1,000人に昆虫飼育の研修を行った。しかし、昨年コオロギを襲った深刻な病気の影響に加え、さまざまな起業上の困難も重なり、生産しているのはわずか20%だ。
キニュルは、ケニアで最近行われた研究が、米国の小規模な研究の結果を裏付けていると指摘した。その研究は先月発表され、コオロギを食べると腸内環境が改善し、炎症が軽減することを示した。
「コオロギで作ったポリッジを学童に6カ月間食べてもらい、その間、便を採取しました。食べ始めた時と比べて、微生物の多様性に明らかな変化がありました」とキニュルは語った。
フローレンス・グンドは、自らコオロギ食の推進者を名乗る。
2015年、フライング・フード・プロジェクトからキスムにある女性と孤児のための保護施設へコオロギ農場の寄贈を受けた後、グンドは平日のポリッジと日曜日のパンにコオロギの粉末を加え始めた。
導入前は、世話をしている子どもたちの中に「栄養失調の子も、寝たきりの子もいた」と彼女は語った。しかし導入後、発疹が消え、貧血が減り、精神状態も改善した。
「今では寝たきりの人は一人もいません」と彼女は言った。
73歳のグンドは、貧しい人々のための奇跡の肉代替品として昆虫を広め、祖先の食べ物を復活させて次の世代を助ける時だと語った。
しかし、昆虫を食べると歌がうまくなるという迷信はなくすべきだと彼女は言った。
「歌い手たちは声が澄むようにコオロギをたくさん食べていました。実際に効果はありました。でも、それは心理的なものにすぎません」と彼女は語った。
