低所得途上国は、新型コロナウイルス感染症により、10年分の進歩を失う危険にさらされています。
世界がパンデミックに対処するなか、教育、経済、食料供給網が打撃を受けると見込まれています。
アフリカ20カ国で実施された最近の調査によると、2週間を超えるロックダウン中に食料が尽きるおそれがあると答えた人は、回答者の70%を超えました。
新型コロナ危機が世界に衝撃を広げるなか、低所得途上国(LIDC)は対応がとりわけ困難な状況にあります。LIDCは外的ショックによる大きな打撃を受けるとともに、ウイルスの拡大と封じ込め措置によって国内経済が深刻に縮小しています。同時に、資源の不足と制度の脆弱さが、多くのLIDC政府による経済支援の能力を制約しています。
低所得途上国を支援する持続的な国際的取り組みがなければ、長期に残る傷跡が開発の見通しを損なう可能性があります。
LIDCの今年の成長は停滞する可能性が高く、2019年の成長率5%とは対照的です。さらに、LIDCを支援する持続的な国際的取り組みがなければ、長期に残る傷跡が開発の見通しを損ない、不平等を悪化させ、貧困削減における10年分の進歩を覆しかねません。
複数のショックがもたらす大きな打撃
LIDCはもともと脆弱な状況で新型コロナ危機を迎えました。例えば、その半数は高水準の公的債務を抱えていました。3月以降、LIDCは例を見ない外的ショックの重なりに見舞われています。実質輸出の急激な縮小、特に石油を中心とする輸出価格の下落、資本流入と送金の減少、観光収入の減少です。
例えば、2019年には59カ国のLIDCのうち30カ国で、送金額がGDPの5%を超えていました。4月から5月にかけて、前年同期比でバングラデシュでは18%、キルギス共和国では39%減少しました。多くの貧困世帯にとって送金が主な収入源となっている地域では、その影響が広く及ぶと考えられます。
国内への影響を見ると、LIDCでは他の地域よりパンデミックの進行が緩やかだったものの、現在は経済活動に大きな打撃を与えています。多くのLIDCは感染拡大の抑制に迅速に取り組みました。報告された感染者数がまだ少なかった3月半ばから、国際渡航の規制、学校の休校、公的行事の中止、集会の制限などの封じ込め措置を導入しました。
国内経済活動の指標となる人の移動も急減し、職場の閉鎖、外出禁止令、国内移動の制限など、措置の対象が拡大するにつれてさらに減少しました。4月下旬から5月上旬にかけて封じ込め措置は段階的に緩和され、人の移動は回復しましたが、危機前の水準にはまだ戻っていません。
限られた資源で難しいトレードオフに対処する
人口の多くがかろうじて生計を立てている水準で暮らしているため、ほとんどのLIDCは厳格な封じ込め措置を長期間続けることができません。インフォーマル部門の規模が大きいこと、制度的な対応能力が弱いこと、貧困層の登録が不完全であることから、支援を必要とする人々に援助を届けるのは困難です。さらに、政府が支援に充てられる財政資源も限られています。
アフリカ20カ国で実施された最近の調査によると、2週間を超えるロックダウン中に食料が尽きるおそれがあると答えた人は、回答者の70%を超えました。
こうした制約に直面するなか、短期間で一気に実施された厳格な初期の封じ込め措置は、感染曲線を平坦化し、保健医療部門の対応能力を高める時間を確保するという重要な役割を果たしました。多くのLIDCがこの道をたどりました。先進国や新興市場国に比べて経済支援に充てた財政支出は少なかった一方、追加支出に占める保健医療向けの割合は高くなっています。
広範な封じ込め措置の継続が難しくなるなか、LIDCはソーシャルディスタンスの確保や接触者追跡など、より対象を絞った措置に移行すべきです。ベトナムとカンボジアが好例です。政策支援では、高齢者を含む最も脆弱な人々への支援と、保健危機が長期に及ぼす影響の抑制を重視すべきです。
例えば、教育を守ることは極めて重要です。そうすることで、著名人のグループが最近発表した国際社会への書簡で指摘されたように、パンデミックによって「学校教育を受けられず、将来の機会が取り返しのつかないほど損なわれる新型コロナ世代」が生まれるのを防げます。
必要なインフラが整っていれば、テクノロジーを革新的な方法で活用できる場合があります。例えば、ウイルスの拡大を抑えるため、ルワンダはデジタル金融インフラを活用して現金の使用を抑制しています。トーゴは有権者登録データベースを使い、脆弱なグループに支援を届けています。
10年にわたる進歩が脅威にさらされる
LIDC政府が最善を尽くしても、国際的な支援がさらに得られなければ、長期的な損害は避けられないようです。長期的な「傷跡」、すなわち生産能力の恒久的な喪失は、特に懸念される見通しです。
過去のパンデミックでは、こうした傷跡が後遺症として残りました。死亡、将来の所得を押し下げる健康状態や教育成果の悪化、貯蓄や資産の枯渇による企業の閉鎖(特に信用へのアクセスが乏しい小規模企業)と、取り返しのつかない生産の混乱、そして民間部門への融資を抑制する過剰債務です。例えば、2013年のエボラ出血熱の流行後、シエラレオネ経済は危機前の成長軌道を取り戻せませんでした。
こうした傷跡は、LIDCの開発努力に深刻な後退をもたらし、過去7~10年間の貧困削減の成果を覆すとともに、ジェンダー不平等を含む不平等を悪化させるでしょう。その結果、持続可能な開発目標(SDGs)の達成はさらに難しくなります。
LIDCだけでは乗り越えられない
LIDCがパンデミックに対処し、力強く回復するには、国際社会の支援が不可欠です。優先事項は次のとおりです。(1)治療薬や、開発された際のワクチンを含む必須の保健医療用品を確保すること。(2)特に食料と医薬品の重要なサプライチェーンを守ること。(3)保護主義的な措置を避けること。(4)贈与や譲許的融資を通じて、途上国経済が重要な支出を賄えるようにすること。(5)LIDCの国際流動性ニーズを満たすこと。そのためには国際金融機関に十分な資金を提供する必要があります。(6)必要に応じて債務の返済条件を見直し、再編して持続可能性を回復すること。多くの場合、G20の「債務返済猶予イニシアティブ」を超える債務救済が必要となる可能性があります。(7)危機が収束した際に必要性を再評価することも含め、国連のSDGsを見据え続けること。
新型コロナウイルス感染症とその社会経済的影響があらゆる場所で克服されて初めて、パンデミックは終息します。国際社会による緊急の行動は、LIDCの人々の命と暮らしを救うことができます。国際通貨基金(IMF)も役割を果たしています。例えば、4月以降、42のLIDCに緊急融資を提供しました。IMFはさらなる支援を行い、持続可能な回復に向けた長期的な経済プログラムの設計を支援する用意があります。



