ムーディーズはついに中国の金融システムと経済に潜む不安定化の危険を認識した。先週、格付け会社は中国の債務格付けをAa3からA1へ1段階引き下げた。大したことではないように思えるかもしれないが、中国債務の格下げはムーディーズにとって約30年ぶりであり、深刻に受け止めるべき事態だ。
中国経済の危険信号は、否認していない人なら誰の目にも明らかだった。しかし、他の格付け機関や投資家、ジャーナリストを含め、多くの人が現実を否認している。現実を否認するとは、警告の兆候を無視することだ。格付け機関や投資家、ジャーナリストが世界金融危機に至る過程で警告の兆候を無視したのと同じである。
2017年5月25日木曜日、香港のビジネス街、中環(セントラル)に立ち並ぶ商業ビル。ムーディーズは、中国の債務水準の上昇を理由に中国の格付けを引き下げてから数時間後、香港の信用格付けも引き下げた。中国との結びつきが強いため、アジアの金融ハブである香港に「重大な影響」が及ぶと同社は述べた。(AP Photo/Kin Cheung)
確かに、故経済学者のハイマン・ミンスキーは、金融不安定性仮説(FIH)と名付けた枠組みの中で、一般的な警告の兆候を示した。しかし、手遅れになるまで、ほとんどの人はミンスキーの警告を無視した。「ミンスキー・モーメント」という言葉が流行するようになったのは、世界金融危機が勃発した後のことだった。
ムーディーズの格下げについてのウォール・ストリート・ジャーナルおよびニューヨーク・タイムズの報道は、ムーディーズが中国債務を格下げするに至った主な事実を的確に伝えている。しかし、そうした事実をFIHと結び付け、中国をめぐる懸念材料がどのように組み合わさっているのか、読者が全体像をつかめるようにする余地はある。
FIHの主な特徴は、危機の警告サイン6種類、危機が勃発しつつあることを示すサイン2つ、危機の規模を抑える政策4種類に要約できる。個々の警告サインは恣意的なものではなく、景気拡大の後期に金融システムが危険領域へ近づくにつれて、システミックリスクがどのように進展するかを示している。この点に関して、中国経済は2010年に公式発表で10.6%成長したが、近年の成長率は低下し、2016年には6.7%となった。ムーディーズは、今後5年間で成長率はさらに低下し、5%になると予測している。
以下では、6つの警告サインに沿って、中国についてFIHに基づく概要を簡潔に示す。ここでは、ムーディーズによる中国格下げをめぐるメディア報道の要点を取り上げ、ミンスキーの見方と照らし合わせる。この照合を通じて、ジャーナリストがより大きな全体像の中で議論を提示できるよう考えを整理し、事実が金融安定全般に何を意味するのか、読者に一貫した見方を伝える一助となればと考える。
過剰なレバレッジ:GDP比で164%に達する中国の債務は、発展途上国としては高水準だ。2008年に金融危機が発生する前の今世紀前半、中国の債務は安定していた。それ以降、債務はGDP比で年15%ずつ増加している。その大部分は企業に関わるもので、家計や中央政府に比べれば割合は小さいものの、地方政府の債務も含まれる。
シャドーバンキングの急拡大:かつて中国の銀行部門は、国有の大手銀行4行が支配していた。しかし近年、地方銀行や省レベルの銀行が関わるシャドーバンキング・システムが発展し、現在では国内銀行部門の資産のおよそ半分を占める。国は大手4行にとって最後の貸し手であり、その大手4行はシャドーバンクにとって最後の貸し手となっている。したがって、シャドーバンクによる無謀なリスクテイクは、中国の金融システム全体に衝撃を与える可能性がある。
投機的金融とポンジ金融の拡大:FIHによれば、金融不安定性の大きな要因の一つは、借り手が元本や利息の返済にあたり、キャッシュフローだけでなく価格上昇も当てにすることだ。この問題は、資産(長期)と負債(短期)の満期が一致しないことで深刻化する。借り手は債務不履行を避けるため、短期借り入れを続けなければならない。近年、中国の銀行は経営難に陥っている国有企業が債務不履行に陥らないよう、そうした企業への融資を続けてきた。こうした慣行によって国の金融システムはますます脆弱になると、ミンスキーは警告した。
資産価格バブルの発生:ムーディーズの格下げをめぐる報道では価格バブルは取り上げられなかったが、中国では近年、株式市場のバブルと不動産バブルの両方が起きている。報道で取り上げられているのは、金融イノベーションの活用だ。特に、シャドーバンクは国有銀行からの資金供給を一部受ける一方、顧客に資産運用商品を販売して資金を調達している。こうした商品はリスクの透明性を欠くことが多く、実際、非常に投機的な建設プロジェクトへの融資に使われている。
新時代の思考:ムーディーズの格下げに対し、中国は、ムーディーズが中国の制度を十分に理解していないと示唆する反応を見せた。中国の制度は西側諸国の同様の制度とは異なるという。確かに違いはある。中国の中央政府債務は比較的少なく、住宅ローン債務も少ない。世界の他地域からの借り入れも少ない。表面的には、中国はFIHが挙げる危機緩和要因4つのうち3つで優位に立つ。総需要の落ち込みを相殺するために支出を増やせる大きな公的部門、労働市場が弱まったときに雇用を創出する力、そして大きすぎて潰せない企業を救済する能力だ。注目すべきことに、 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、中国は最近、主要な短期金利を引き上げ、リスクの高い投資や融資の慣行を抑える取り組みを始めた。
規制の失敗:中国は、FIHが挙げる危機緩和要因の4つ目では評価が低い。時間の経過とともに規制制度は著しく弱体化しており、とりわけ、投機的金融やポンジ金融の拡大が集中しているシャドーバンクへの規制が問題となっている。希望があるとすれば、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、規制当局は金融市場で高いレバレッジをかけた賭けを伴う投資商品への監督を強化したという。
ここまで述べた6つの警告サインは、中国で金融の脆弱性が高まっていることを示している。FIHでは、危機が勃発したことを示す主な兆候は2つある。危機勃発を示す最初の兆候は、中国の金融機関、特にシャドーバンクで取り付け騒ぎが起きることだ。つまり、中国の人々がこれらの銀行への信頼を失うときである。取り付け騒ぎが起きれば、シャドーバンクの資産運用商品の市場が崩壊する。その後、債務不履行が相次ぐ。危機が進行するにつれ、シャドーバンキング部門の破綻に引きずられて大企業も倒れていくだろう。大手国有銀行がシャドーバンクにとって最後の貸し手であることを忘れてはならない。

