20世紀後半、西洋諸国では女性の教育達成度と労働市場での成果が劇的に向上した。しかし、世紀の変わり目ごろからジェンダー平等の進展は鈍化し(Goldin 2012、Blau and Kahn 2018)、すべての国で大きな不平等が残っている。女性の労働所得が低いのは、労働力参加率が低く、時給が低く、労働時間も短いためである。こうしたあらゆる面で、どの国でも平均的な女性は平均的な男性より不利な状況にある。
近年の研究では、労働市場での成果におけるジェンダー不平等が続く理由を理解するうえで、子どもの存在が重要であることが示されている。スカンジナビア諸国のデータを用いたAngelov et al.(2016)およびKleven et al.(2019)は、女性が男性に比べて収入面で「子どもペナルティ」を経験することを示している。このペナルティは第1子の誕生から最長20年続き、残存するジェンダー不平等の大部分を説明する。
最新の研究は、子どもペナルティがすべての先進国に広く見られる現象であることを示唆している。最近の論文(Kleven et al. 2019a)では、政策や規範が幅広く異なる6カ国について、収入面での子どもペナルティを国際比較した証拠を示す。対象は、スカンジナビアの2カ国(デンマーク、スウェーデン)、ドイツ語圏の2カ国(ドイツ、オーストリア)、英語圏の2カ国(英国、米国)である。6カ国すべてで比較可能なデータと類似の手法を用いた分析から、子どもがもたらす質的な影響には顕著な共通点がある一方、その影響の大きさには大きな違いがあることが明らかになった。
図1は、デンマークとスウェーデンの母親と父親について、第1子の誕生年を基準に、男女の労働市場での総収入が時間とともにどう推移したかを示す。第1子の誕生前の数年間は、女性と男性の収入はほぼ同じ傾向をたどるが、誕生直後の数年間に女性の収入はデンマークで30%、スウェーデンで60%減少する。第1子を持つことが母親の労働市場に及ぼす影響は大きい一方、父親への影響はないか、あっても小さい。デンマークでは父親の収入はほぼ変化しないが、スウェーデンでは第1子の誕生後、父親の収入に小幅な落ち込みが見られる。これは、より手厚い育児休業制度、あるいは子どもがまだ非常に幼い時期に父親が育児に時間を使うことへのスウェーデンの制度上のインセンティブがより強いことを反映している可能性がある。ただし、スウェーデンの父親の収入減少は比較的小さく、第1子の年齢が上がるにつれてすぐに解消する。
要するに、スウェーデンとデンマークではここ数十年、先進的な家族政策を実施してきたにもかかわらず、両国とも父親に比べて母親の労働市場での成果には大きなペナルティが残っている。これらの国では、第1子の誕生から10年後も、女性の収入に対する子どもペナルティは約20~25%に達する。
図1 デンマークとスウェーデンの子どもペナルティ
注:この図は、デンマークとスウェーデンの男女の労働総所得に対する子どもペナルティの推計値を示す。第1子はイベント時点0で誕生する。所得の指標には暦年の労働所得すべてを含むが、移転給付は含まない。推計手法では、経済全体の基礎的な賃金上昇と、個人が年齢を重ね、経験を積むことの影響を調整している。
図2は英国と米国の子どもペナルティを、図3はオーストリアとドイツのペナルティを示す。全体的な傾向は変わらない。女性は第1子の誕生後、収入が大幅かつ直ちに低下し、その状態が続く一方、男性への影響はほぼない。
こうした共通点がある一方、グラフからは顕著な違いも明らかになる。とりわけ、長期的な子どもペナルティの大きさ(イベント時点5から10までの平均ペナルティと定義)は国によって大きく異なる。長期的なペナルティは、スカンジナビア諸国で21~26%、英語圏の国々で31~44%、ドイツ語圏の国々では最大51~61%に達する。
図2 英国と米国の子どもペナルティ
図3 オーストリアとドイツの子どもペナルティ
説明
発展水準が似ている国々で、子どもペナルティにこれほど大きな違いがあるのは非常に顕著である。
子どもペナルティの違いを説明する一つの見方は、政府の政策に着目する。これには、税や移転給付のほか、育児休業や保育の提供など、母親の就労インセンティブに直接影響する家族政策が含まれる。こうした政策が女性の労働供給やジェンダー格差に及ぼす影響については、膨大な研究がある(レビューはOlivetti and Petrongolo 2017を参照)。現在進めている研究では、長期的な子どもペナルティが50%を超えるオーストリアに、より焦点を当てている。育児休業と公的保育の提供がもたらす影響を検討している。これらの政策が残るジェンダー不平等を解消する鍵であるなら、最も大きな効果が見込まれるのはオーストリアのはずだ。これまでの結果では、これらの政策は長期的には子どもペナルティにほとんど、あるいはまったく影響せず、短期的には一定の重要性があることが示唆されている。
政策で国ごとの長期的な子どもペナルティの大きな違いを説明できないとすれば、何が説明となるのだろうか。有力な候補としてジェンダー規範や文化が挙げられるが、こうした仕組みの重要性を決定的に示す証拠を得るのは難しい。Kleven et al.(2019b)は、母親が父親に比べてあまり働いていなかった場合、デンマークの女性は子どもの誕生による悪影響をより強く受けることを明らかにした。これは、世代間でのジェンダー規範の伝達が、収入における男女差が続く理由を理解するうえで重要な役割を果たすことを示唆している。
6カ国の調査データを用いて、ジェンダー規範が果たす可能性のある役割を検証する。国際社会調査プログラム(ISSP)は、調査で聞き取ったジェンダー規範を捉える変数を報告している。この調査では、就学前または就学中の子どもがいる女性は、家の外で(フルタイムまたはパートタイムで)働くべきか、家にいるべきかを参加者に尋ねた。図4は、収入に対する長期的な子どもペナルティの推計値と、女性は家にいるべきだと考える回答者の割合を対比している。子どもペナルティとジェンダー規範の相関は非常に顕著であり、子どもペナルティが大きい国ほど、ジェンダーに関して保守的な見方が強い。
図4 長期的な子どもペナルティとジェンダー規範





