ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムで構成されるASEAN地域は、2017年時点で域内GDPの合計が約2.77兆ドルに達し、2019年まで年約5.3%という望ましいGDP成長率が予測されていました。持続可能な経済成長を促進するうえでこの地域連合が直面する7つの課題と、その解決に向けた提案を紹介します。
1. 地政学的安定と地域関係
ASEANは1967年、創設時の5か国であるインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイが、平和、安定、協力のために連携することに合意して発足しました。ASEAN諸国は、世界で最も人口の多い経済大国である中国とインドに隣接する、戦略的に重要な要衝に位置しているため、地域および世界の大国双方にとって焦点となっています。ASEAN加盟国は、関係する大国との領土紛争にも巻き込まれています。たとえば、中国の南シナ海の領土に対する主張は、ブルネイ・ダルサラーム、マレーシア、フィリピン、ベトナムの対抗する主張と重なっています。課題はあるものの、ASEAN各国政府の連携を深め、共通の目標を掲げることで、安定を促し、紛争の可能性を減らすことができます。
2. 企業をめぐるガバナンス上の課題
ASEANには多種多様な企業があり、タイのセントラル・グループ、インドネシアのサリム・グループ、シンガポールの政府系シングテル、ベトナムのビナミルクなど、巨大な同族企業グループや国有企業と関係の深い企業も数多くあります。一方、中小企業(SME)と零細事業者を合わせると、この地域の事業活動の少なくとも89%を占めています。
大手企業グループに根付いた既得権益と広範な汚職が、この地域のビジネス環境を損ない、とりわけ小規模企業に大きな打撃を与えています。汚職を防ぎ、この地域が世界で競争できるようにするには、強力で独立した市民社会の制度が必要です。デジタル技術の革新が透明性を高め、経済成長を促すことが期待されています。
3. 新たなビジネスモデル
ASEAN地域には、6億人を超える消費者を抱える成長市場があります。同地域の1人当たりGDPは約6,500ドル(域内で最も経済が発展しているシンガポールを除く)で、中国より低く、インドより高い水準です。この地域の消費者は価格に敏感で、要求水準も高いため、利益率が低く人件費も低い地元企業が、海外の競合企業にとって手ごわい存在となっています。
新規参入企業が適応し、利益を伸ばす方法の一つは、この地域の消費者固有のニーズや状況に焦点を当て、そこから逆算して解決策を開発することです。特に、地域で携帯電話の普及率が高いことを踏まえると、モバイル技術は大いに役立ちます。政府の支援も、失敗した場合のコスト負担を軽減し、企業のイノベーションを後押しできます。これは創造性と起業家精神を育む、いわゆる「軽いタッチ」の規制アプローチによって実現できます。
4. 人口動態の変化
ASEANには、若く、識字率が高く、都市化と向上志向が進む人々が暮らしています。この地域の消費者はより高品質な製品やサービスを求めており、成長する消費市場への参入を目指す企業に機会をもたらしています。

教育や訓練を通じて、若者がますます統合の進む経済圏の要請に対応できるよう、政府は支援しなければなりません。ASEAN各国の現在の取り組みでは不十分な可能性があります。また、より良い機会を求めてマニラやジャカルタなどの都市に移住する人が増えるにつれ、既存のインフラや雇用市場への圧力が高まります。持続可能な解決策には、革新的な取り組みが必要です。手頃な価格の住宅から、低コストで質の高い医療や教育まで、幅広い課題に対応するには、ASEAN各国政府が民間部門や非政府組織と緊密に連携する必要があります。
5. 包摂的成長と持続可能な開発
ASEAN加盟国の所得水準には大きな幅があり、2017年の1人当たりGDPは、シンガポールの57,714ドルから、カンボジアの1,384ドル、ミャンマーの1,298ドルまでさまざまです。近年、低所得国は大きな進展を遂げてきました。しかし、地域全体の経済的な成長だけでは、ASEAN加盟国間の大きな格差を解消するには至っていません。世界銀行が発表した2017年版の最新のグローバル・フィンデックスによると、銀行口座を持つ成人の割合はシンガポールで98%、マレーシアで85%だったのに対し、カンボジアではわずか22%、ミャンマーでは26%でした。こうした格差は、インフラ、金融機関、戦略的計画への幅広く強固な投資が必要であることを示しています。
6. 地域のデジタル経済
東南アジアでは、インターネット利用者の人口が世界で最も急速に増えており、2020年まで毎日12万5,000人を超える新規利用者がオンラインになると予測されています。その増加の大半はモバイル利用によるもので、新たな産業を促し、従来型のビジネスモデルを飛び越え、何百万人もの生活を根本から変える可能性があります。しかし、技術の普及度はASEAN各国で大きく異なり、地域全体のインターネット・インフラを整備する必要があります。
7. 経済統合
2015年のASEAN経済共同体(AEC)の発足により、ASEAN加盟国は結束を強め、より統合されたグループを形成しました。AECは、単一市場と工業生産能力の育成、競争力の向上、包摂的成長の支援、そしてこの地域の世界経済へのさらなる統合を目指しています。さらに、米国の協定離脱を受け、2018年にはASEAN諸国、オーストラリア、カナダなどが改定された環太平洋パートナーシップ(TPP)に署名しました。
イスティアク・パシャ・マフムード氏は、シンガポール国立大学ビジネススクールの教授であり、ASEANのトランスフォーメーション・マップの共同キュレーターです。

